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『モンセギュール1244』ヒストリカル・プレイエイド
岡和田晃
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2024年9月28日、慶應義塾大学三田キャンパスで西洋中世学会の若手セミナー「「TRPGで中世を語る・演じる・考える 『モンセギュール1244』を題材として」が開催されました。
中世のカタリ派を演じるRPG『モンセギュール1244』を実際にプレイし、中世を生きた人々の立場で考える「体験」をしてみよう、というのがその趣旨です。
同学会では2021年に「頭と舌で味わう中世の食文化:レクチャー編」を行うなど、悪い意味でお堅いイメージに留まらない、研究者と一般を架橋する試みがなされてきました。
このイベントは『モンセギュール1244』リプレイにも参加してくださった大貫俊夫先生が中心になって企画されたもの。大貫先生は当日の司会もしてくださいました。
私は先んじて6月15日・16日に富山大学で開催された同学会の大会にも参加してきました。大会の常任委員会でもすんなり企画が通ったようで、文・史・哲・美術史をまたいだ様々な研究者の方々から、あたたかい言葉を頂戴してきました。
研究論文を書くには厳密さが求められますが、しかし柔軟な思考ができなければ小さくまとまったものになってしまいがちです。そうした意味で、アクティヴ・ラーニングの一環として同作を教育・研究に応用していただければという思いから、今回の企画に『モンセギュール1244』の翻訳者の立場からチューターとして参加しました。
参加者はカタリ派をテーマに博士論文を準備されている小森紗季さんと、私による事前のレクチャー動画を閲覧して知識を深めたうえで、当日の各卓には中世主義研究会の面々、つまり大貫先生のほか、松本涼先生、健部伸明先生、小宮真樹子先生、白幡俊輔先生も担当。
会場がらみは慶應の赤江雄一先生にお世話になりました。赤江先生は素敵なポスターもデザインしてくださいました。
若手セミナーも学会活動ですので、今回のイベントもウェブや学会誌に印象記が書かれますが、蓋をあければ6卓34名、参加者の7割がTRPG未経験者で参加者の約3分の2が女性(!)、という素晴らしい結果となりました。アンケート結果を拝見するに、確かな手応えも感じました。
拙卓には、一般の方々のほか、図師宣忠先生、小林亜沙美先生といった専門家が入ってくださいました。小宮先生の卓には、前田星先生も参加されていました。
皆さん、すぐにコツをつかんでのびのびと遊んでくださいました。Truth in Fantasyの『吟遊詩人』の著者・上尾信也先生がいらっしゃったり、東海大学での同僚の坂田奈々絵先生も来てくださったりしました。
先んじて、旭川でも研究者を交えた『モンセギュール1244』の体験イベントを行い、こちらの模様は詩誌「フラジャイル」21号でもレポートされています。
図師先生、上尾先生、前田先生、小森さん方から、貴重なフィードバックをいただいたので、以下、訳者からのプレイエイドとしてそちらを紹介します。ゲームを通して歴史を知る、あるいはゲームそのものをいっそう楽しむためにご活用ください。
・モンセギュール砦の地図は、従来の資料に記載されている地図が別の建物だった可能性が指摘されている。
→これに対しては、利便性に鑑み日本語版オリジナルでつけた地図が従来のもの。翻訳の近年の背景シート「モンセギュール」の内容が実は近年の動向に近い。
・ゲーム内では「完徳者」という役割が描かれているが、これはあくまでもカトリック側の呼び名である。
→ゲームタームでは進行の利便性を兼ねて「完徳者」と記しているが、これはあくまで外側からのレッテルだということを演出に用いればいっそう深みが増すはず。
・カタリ派には霊肉二元論か、霊・肉・魂の三元論かという議論がある。
→カトリック側も三元論を踏襲していると言えるし、二元論で考えるのが近年の動向で、そこまで気にせずともよい。
・ゲーム内ではカタリ派対アルビジョワ十字軍の宗教対立という構図が強調されるが、トゥールーズ伯らとの政治的対立の性格が大きい、という指摘もいただきました。
→ゲームで宗教対立が強調されるのは、ナラティヴに方向性を与えるための措置だと認識するのが重要かと。
・魔女裁判が本格化する以前なので、モンセギュール陥落時はともかく、近世の魔女裁判のような苛烈な拷問などはすぐになされないことが多い。
→こうした史実を押さえたうえで、演出として拷問シーンなどを取り入れるのは参加者次第。
・エマニュエル・ル・ロワ=ラデュリの『モンタイユー』では、聖職者のピエール・クレルグが、なかなかの「破戒僧」ぶりを示していたが、こういうことはよくあったのか。
→ただ、『モンタイユー』のピエール・クレルグは、あくまでもカトリックで、恣意的に教義をねじ曲げながらカタリ派の村人たちを包摂せんとします。その背景には、モンセギュール陥落以降、決定的になったカタリ派の壊滅という文脈があるわけです。
・拡張ルールでは、旅芸人のキャラクターが登場するが、中世におけるトルバドゥールをうまく演じるためにはどうすればいいか。
→吟遊詩人の歌う節回しは記憶の道具だった。これは口承文芸の伝統にも連なるもの、そういった点を意識すればよいのではないか。という言葉が強く印象に残っています。
以上はあくまでも私なりの要約で、理解の及んでいない点があれば各先生ではなく私が責めを担うものであります。
総じて言えば『モンセギュール1244』日本語版を出版できたのは奇跡的でしたが、公衆・研究者問わず開かれる形で、ゲーム・ジャーナリズムとアカデミズムを架橋するのは、私の長年の夢でした。それをこんなに素敵に叶えていただき、関係各位と参加者の皆様へ改めて御礼申し上げます。
初出:「FT新聞」No.4285(2024年10月17日)