「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第44話」山口優(画・じゅりあ)

「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第44話」山口優(画・じゅりあ)


<登場人物紹介>

  • 栗落花晶(つゆり・あきら):この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
  • 瑠羽世奈(るう・せな):栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
  • ロマーシュカ・リアプノヴァ:栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊第一一二班の班長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性だったが、最近瑠羽の影響を受けてきた。
  • アキラ:晶と同じ遺伝子と西暦時代の記憶を持つ人物。シベリア遺跡で晶らと出会う。この物語の主人公である晶よりも先に復活した。外見年齢は二〇歳程度。瑠羽には敵意を見せるが、当初は晶には友好的だった。が、後に敵対する。再生暦時代の全世界を支配する人工知能ネットワーク「MAGIシステム」の破壊を目論む。
  • ソルニャーカ・ジョリーニイ:通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その身体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。のちに、「MAGI」システムに対抗すべく開発された「ポズレドニク」システムの端末でありその意思を共有する存在であることが判明する。
  • 団栗場:晶の西暦時代の友人。AGIにより人間が無用化した事実を受け止め、就職などの社会参加の努力は無駄だと主張していた。フィオレートヴィにより復活された後は「ズーシュカ」と呼ばれる。
  • 胡桃樹:晶の西暦時代の友人。AGIが人間を無用化していく中でもクラウドワーク等で社会参加の努力を続ける。「遠い将来には人間も有用になっているかも知れない」と晶を励ましていた。フィオレートヴィにより復活された後は「チーニャ」と呼ばれる。
  • ミシェル・ブラン:シベリア遺跡探検隊第一五五班班長。アキラの討伐に参加すべくポピガイⅩⅣに向かう。北極海の最終決戦に参加。
  • ガブリエラ・プラタ:シベリア遺跡探検隊第一五五班班員。ミシェルと行動を共にする。北極海の最終決戦に参加。
  • メイジー:「MAGIシステム」が肉体を得た姿。晶そっくりの八歳の少女の姿だが、髪の色が青であることだけが異なる(晶の髪の色は赤茶色)。銀河MAGIを構築し晶たちを圧倒する。
  • 冷川姫子:西暦時代の瑠羽の同僚。一見冷たい印象だが、患者への思いは強い。フィオレートヴィにより復活する。
  • パトソール・リアプノヴァ:西暦時代、瑠羽の病院にやってきた患者。「MAGIが世界を滅ぼそうとしている」と瑠羽達に告げる。MAGIの注意を一時的に逸らすHILACEというペン型のデバイスを持っている。ロマーシュカの母。
  • フィオレートヴィ・ミンコフスカヤ:ポズレドニク・システムとHILACEの開発者。パトソールの友人。銀河MAGIに対抗し「ポズレドニク・ギャラクティカ」を構築。

<これまでのあらすじ>
 西暦2055年、栗落花晶はコネクトームバックアップ直後の事故で亡くなり、再生暦2055年に八歳の少女として復活。瑠羽医師から崩壊した西暦文明と、人工知能「MAGI」により復活した再生暦世界、MAGIによるディストピア的支配について説明を受ける。瑠羽はMAGI支配からの解放を目指す秘密組織「ラピスラズリ」に所属しており、同じ組織のロマーシュカとともに、MAGI支配からの解放を求めてロシアの秘密都市、ポピガイⅩⅣの「ポズレドニク」を探索する。「ポズレドニク」は、MAGIに対抗して開発された人工知能ネットワークとされていた。三人はポズレドニクの根拠地で「ポズレドニクの王」アキラと出会う。アキラは、晶と同じ遺伝子を持つ女性で、年齢は一〇歳程度上だった。彼女は、MAGIを倒すのみならず、人間同士のつながりを否定し、原始的な世界を築く計画を持つ。
 晶はアキラに反対し、アキラと同じ遺伝子を利用して彼女のパーソナルデータをハック、彼女と同等の力を得、仲間たちと協力し、戦いに勝利。晶はMAGI支配に反対しつつも人とのつながりを大切にする立場を示し、アキラに共闘を提案。アキラは不承不承同意する。決戦前夜、瑠羽は晶に、MAGIが引き起こした西暦世界の崩壊を回避できなかった過去を明かす。
 北極海でMAGI拠点を攻撃する作戦が始まり、晶たちはメイジーの圧倒的な力に直面する。それは西暦時代や再生暦時代には考えられなかった重力制御を含む進んだ科学技術を基盤とした新たなシステムによる力だった。
 一方、その数年前から、プロクシマ・ケンタウリ惑星bでは、フィオレートヴィ・ミンコフスカヤがこの新たなシステムをMAGIが開発していることを察知し、これに対抗すべく暗躍していた。彼女は胡桃樹、団栗場(二人は女性の姿として復活させるべくMAGIが準備しており、復活後の姿に対してフィオレートヴィはチーニャ、ズーシュカと名付けた)、および冷川姫子のデータを奪って三人を復活させ、三人の助力も得て、MAGIの新たな力に対抗するシステム「ポズレドニク・ギャラクティカ」を構築。三人を率いて晶たちの救出に向かう。四人は、メイジーの操る重力制御の力を持つ巨人たちに対し、同じ力を以て対抗。フィオレートヴィはロマーシュカの隊、姫子は晶とアキラ、瑠羽の隊、チーニャとズーシュカはミシェルとガブリエラの隊をそれぞれ救出する。
 その後、三隊は、北極海データセンター上空のメイジーに再び向かう。待ち構えるメイジー。そのとき、メイジーの直下の、人類の復活のためのデータを保存した北極海データセンターが、何の前触れもなく爆発四散した。
 そこにやってきたロマーシュカ・リアプノヴァは、データセンターの爆破はフィオレーヴィの仕業だと指摘し、メイジーに味方し、フィオレートヴィに敵対することを宣言する。アキラらがロマーシュカと戦っているうちに、メイジーは人類の復活のためのデータを復元してしまう。

「私のエネルギーをあなたに戻すのはお待ちください、メイジー」
 ロマーシュカは冷静に告げた。
(まだ攻撃する気か……)
 俺は奥歯をかみしめる。
「どういう意図です」
 メイジーにとっても意外な言葉だったらしい。
「あなたを倒すのに必要ですので」
 ロマーシュカの言葉に、メイジー、俺、そしてその場の全員が目を見開いた。おそらく、フィオレートヴィをのぞいて。
 ロマーシュカはMAGICロッドの黄金の宝珠をメイジーの腹に突きつけた。
「銀河特殊MAGIC『カラーザ・ダニーク』――人類のデータは私にいただきます」
「……ロマーシュカさん……なぜ……!」
 メイジーが信じられないような顔でロマーシュカを見る。
「銀河特殊MAGIC『プレヴォスコドナーヤ・ナパデニーヤ』!」
 怒濤の奔流のような黄金の光がメイジーを貫く。
 メイジーが反射的に展開した防御MAGICが、ロマーシュカの攻撃をかろうじて防ぐが、更にロマーシュカのMAGICロッドが光る。
「……『ネプリブナーヤ』!」
 その奔流が連打される。メイジーの防御魔法は耐えきれなくなっていく。
「なぜ……なぜ裏切るのです……」
「裏切ったのはあなたです。あなたは人類を幸福にするという使命を持っていたのに、実際には不幸にした。それを裏切りと言わずして、何を裏切りというのでしょう?」
 ロマーシュカが連続して放つ黄金の光の奔流の中、メイジーは右手を掲げた。
 その瞬間、彼女の周りの光は暗くなり、彼女自身が暗い時空の底に沈んでいく――ように見えた。
「何が起った?!」
 俺は思わず言う。
「転移しましたね。行き先は分かりません」
 ロマーシュカはつぶやいた。
「アキラさん。おけがはありませんか? 演技とはいえ攻撃したことは謝ります」
 倒れていたアキラを見下ろし、言う。
「……チッ。本気に思えたぜ」
 アキラは飛行MAGICで上空にやってきて、周囲を見渡した。
「奴は人間のデータを既に手にした。地球や太陽系にこだわる理由がなくなったわけだ。引き続き、奴のほうがエネルギーが上だし、勝ったとは言えんな……」
「――私の戦略ミスだね。こんなにも早くデータを復活する手法を思いつくとは……」
 フィオレートヴィもこちらにやってくる。
「フィオレートヴィ。あなたには謝りませんよ。メイジーは倒すべき敵ですが、あなたのやり方も私は許せません」
「――人類のデータを破壊したと思って、怒っているんだね」
「……違うんですか? メイジーに察知されずに別のところにバックアップを作ることなど不可能でしょう。あなたはメイジーが自力で人類のデータを復活させることに賭けた。そしてそのために時間がかかることを見越していて、そのすきにメイジーを倒すことを目指していた……つまり人類データの復活は保証されていなかった」
「――いや、私なら復活させることはできたよ。それは保証しよう。但し、全てが終わってからだ。メイジーには、今彼女がやらなければ誰もデータを復活させないと信じさせる必要があった。それが唯一の弱点だったからね」
「――そういうことにしておきましょう」
 ロマーシュカはじっと上空を見つめた。俺は彼女の隣に行く。
「倒しに行くしかないな」
「……晶さん」
「奴は逃げただけだ。危機は去ったわけじゃない。人類データを人質にする作戦も失敗した。奴を追い、倒す。それしかない」
 俺はその場の勢いでそう言ったつもりはなかった。
 メイジーとMAGIネットワークはやはり人類には不要なものだ。無職であった俺がこういうのはおかしな話かもしれないし、ヒトは社会的な動物だから仲間が必要なのも分かる。
 それでも、社会的なつながりを与えるために仕事を与えるというメイジーの考えは間違っているし、一つの惑星を一人の人間に与えてロボットにかしずかせるというメイジーの新たな考えも間違っていると思う。
 人間と社会集団の間には独特の距離の取り方がある。それは自分の意志と社会の相互作用のようなもので、「こうすればいい」という正解があるわけではない。いくら人間社会を「リセット」しても、答えにはたどり着かない。
 無論、アキラの主張するように全ての人間を孤立させ、対立させるのも間違いだ。
「――俺たち人間は不幸と幸福を隔てる渓谷に橋を架ける存在だ。幸福にさせられることは、俺達が果たすべき機能じゃない」
「何が言いたい。ニーチェでも気取ってるのか」
 アキラが突っ込んできた。
「幸福なんてものはシステムによって与えられるものではないってことさ。それは人間社会で生きていく中で、社会との間合いをはかりつつ、自分で定義するべきものだ。機械的に定義されたら、その定義に外れた幸福を己が見いだした瞬間に不幸になる」
「オレの定義する社会もそうだってことか」
「お前のは社会とすら言わないだろ」
「……しかし、それだったら、メイジーの言うとおり、惑星の王になれればいいじゃないか」
 フィオレートヴィが言う。
 俺は首を振った。
「ダメだ。それで幸せになれない人もいる。俺もそれで幸せになれる自信はないな」
 それからアキラを見返した。
「アキラ。頼みがある。地球を守ってくれ」
「――守れ? だと」
「自力でレベル100まで到達したお前にしか頼めない」
 それからロマーシュカに向き直った。
「ロマーシュカ、フィオレートヴィ。この地球で人間を復活させ、再生暦を滅ぼして西暦を復活させてくれ」
「……私に頼んでいいのかい? 人類の復活自体はやぶさかじゃないが、私は競争原理の信奉者だよ」
「だからロマーシュカを残すんだ。彼女に人類の安寧を託したい」
「……晶さん……じゃああなたは?」
「俺は……メイジーを倒しに行く」
 それまで黙っていた瑠羽が首をかしげた。
「私は?」
「俺と一緒に来い」
「晶ちゃん! やっぱり彼女は連れて行きたいんだね」
「勘違いするな。アキラにフィオレートヴィ。それぞれ人類を守る力と人類を復活させる力として残していくが、二人ともトラブルメーカーだ。ロマーシュカ一人で押しとどめるのも大変だろう。この上トラブルメーカーを残していけるか」
「わ、私がトラブルメーカー……?」
「俺にとっては再生暦時代で最悪のトラブルメーカーだよ。メイジーをのぞけばな。だが頭は回るから参謀役に連れて行く」
 更に姫子先生に向き直る。
「あなたも来てほしい。二人では心許ない。冷静な第三者が必要だ」
「確かに、あなたと世奈先生だけではなんとなく心許ないですね。分かりました。引き受けましょう」
 それからアキラに向き直った。
「――残りの4人。つまり、ガブリエラとミシェル、団栗場と胡桃樹については、お前に任せる。うまくやれないと思ったら、俺の方に回せ。うまくやれるならそのまま地球に残せ」
「まるで遠足の班分けのような決め方をするじゃないか」
 瑠羽が突っ込む。
「――俺は言ったはずだ、社会との距離の取り方は自分で決めないと幸せになれないと。アキラは俺だ。幸せになってもらいたい。それだけだ」
「――ふん。好きにするさ」
 アキラは言った。ぶっきらぼうなその声は、わずかに震えているように聞こえた。
「では君たちがメイジーを追うのにふさわしい船を用意しよう」
 フィオレートヴィが言い、彼女の配下のダーク・ゴーレムに手をかざした。
「時空を超越する巨人たちよ……天かける船となれ! 銀河標準MAGIC『ズヴェズドレート』!」
 ダーク・ゴーレムは、時空を揺らがせるその輪郭の不確定さを保ったまま、そして数百メートルの巨大さは維持したまま、巨人から細長い流麗なシルエットへと姿を変えていく。
 フィオレートヴィは微笑んだ。
「さあ、乗っていくがいい。ポズレドニク・ガラクーチカの技術による宇宙戦艦だ」
 彼女は相変わらずの不敵な表情を浮かべたまま、言葉を続ける。
「メイジーはすでにこのような船を開発済みだ。君たちも持っていなければ不公平になる。メイジーが勝つか、君たちが勝つか。まだ勝負は決まっていないようだからな」
 

 西暦四一一五年。
 あれから俺達の体感時間において五年が経った。
 メイジーが支配する銀河MAGIは、北極海決戦のあと、銀河中央ノードを中心として体制を立て直し、新たに「銀河人類保全機構」を設立、支配下の各惑星に人類を復活させ、そうした人類の委任の下に「機構艦隊」を成立させて、太陽系の再征服を狙う構えをみせていた。「機構」に人類が満足し、その支配領域を広げようとすること自体は特に驚かなかった。メイジーの考えにも正しい部分はある。膨大な領域を支配し好きなことをして生きられる。他者に煩わされることもない。それはひとつの幸福の形ではあるだろう。
 しかし、そうは考えない人たちの選択肢も残しておきたかった。俺達はポズレドニク・ガラクーチカを再編し、「太陽系自由条約」を成立させ、条約艦隊としてオリオン渦状腕およびペルセウス渦状腕に橋頭堡を築いて、メイジーの「機構」に対抗した。
 俺達を追うように、太陽系から次々と人が送られてきた。ミシェル、ガブリエラのように北極海決戦に参加していた人々、そして、決戦の後の新しい時代にアキラたちが復活させた人々だ。少なくない人々は機構に亡命していったが、俺たち自由条約側はそれを容認していた。
「いよいよ決戦か」
 俺はつぶやく。この日、ついに俺達は機構軍の主力と会敵する予定であった。銀河MAGICを用いた超時空跳躍を多用し、俺達の艦隊は敵の艦隊が通過するであろうポイントに先に布陣していた。
 鏡の向こうには一三歳の栗落花晶がいた。
 俺はセーブデータでの肉体の復活などの処置をとくにとらなかったので、そのまま五年分成長し、一三歳の少女になっていた。自意識は変わらないつもりだが、なんとなく精神が肉体の影響を受けつつあるようにも感じる。
「やあ、晶ちゃん! 今日もかわいいね」
 瑠羽世奈が後ろから抱きついてきた。この8年、こいつはいつでもべたべたべたべた、俺にまとわりついてきるので、いい加減、ふりほどくのもうざったくなってそのまま放置している。
 そうしたら、新参の艦隊スタッフらは、「瑠羽世奈氏は艦隊司令官閣下(俺のことだ)の恋人である」という暗黙の了解を得てしまい、俺は指摘されるたびに否定しているがそれも「ツンデレ」の一種だと思われているらしい。
 俺が歯磨きをしている間に、瑠羽は勝手に俺の髪を三つ編みに結って、その上に制帽をかぶせた。
 条約軍のロゴマークは、RRAVEジョブを与えられた栗落花晶が使っていたMAIGCソードがあしらわれている。多少気恥ずかしいが、何事も慣れだ。
「よし。艦橋に行く」
 俺は副官である瑠羽を従え、超時空戦艦「夢洲」の艦橋に入室した。艦名は何かの冗談ではないかと思うが、俺の出身地にちなんだ地名である。
「敵は」
 艦長である冷川姫子に問う。
「我々の展開している超時空跳躍阻害MAGIC障壁を検知、艦隊の前面で通常時空に出現、我が方と決戦すべく陣形を整えているようです」
「ふん。迂回しなかったか」
「そうすれば側面を突けたのにね」
「敵は俺達よりも遙かに賢いAIだ。そう簡単に罠にはかからないさ」
 俺は腕を組んだ。艦橋の、そして、艦隊の全員が、俺の命令を待っている。
 俺がこの場所にいるのは今でも何かの冗談だろうと思っている。メイジーが俺に執着しているから俺がトップにいるのが都合がいいという意見もあったし、瑠羽は「アキラ」という前例があるから俺にはこのMAGIの時代に高い能力を発揮できるポテンシャルがあったのだろうと言っている。
(いずれにせよ……本来の俺は無職がいいところだったさ……それでも、俺の今の社会との距離の取り方としては、こういうあり方も悪くはない。それは誰か他人に決めてもらうものじゃない……。大昔なら、強制的に何かの立場に就かされたり、何の立場にも就けなかったりするんだろうが……)
 少なくとも俺は、今の立場を維持するか辞任するかは自由だ。あるいは機構に「亡命」して、安楽で退屈な生活を送る程度の選択肢は与えられている。
 それでも俺は今の立場を選択している。たぶん、西暦時代の俺ならこうはしなかった。再生暦時代の経験があったから、そうしているのだろう。そういう意味では、メイジーが一〇〇%間違っていたわけではない。しかしあのままの人生は、俺はいやだ。
「全艦、銀河標準ワープ阻害防御MAGIC『ザシュチータ』展開。ワープミサイルMAGIC『ズヴェズドラケータ』発射準備完了。全クルー、セーブデータ取得及び後方ノードへの転送、確認済み」
 俺は脚を組んだ。五年も経つと、だんだん背が伸びてきて、こういう姿勢もさまになるようになってきた。
 手元のMAGICロッドで通信MAGICを発動、全艦との通信を確立させる。
「全艦、戦闘を開始せよ」