「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第42話」山口優(画・じゅりあ)

「無職の俺が幼女に転生したがとんでもないディストピア世界で俺はもう終わりかも知れない(略称:ディスロリ):第42話」山口優(画・じゅりあ)


<登場人物紹介>

  • 栗落花晶(つゆり・あきら):この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
  • 瑠羽世奈(るう・せな):栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
  • ロマーシュカ・リアプノヴァ:栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊第一一二班の班長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性だったが、最近瑠羽の影響を受けてきた。
  • アキラ:晶と同じ遺伝子と西暦時代の記憶を持つ人物。シベリア遺跡で晶らと出会う。この物語の主人公である晶よりも先に復活した。外見年齢は二〇歳程度。瑠羽には敵意を見せるが、当初は晶には友好的だった。が、後に敵対する。再生暦時代の全世界を支配する人工知能ネットワーク「MAGIシステム」の破壊を目論む。
  • ソルニャーカ・ジョリーニイ:通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その身体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。のちに、「MAGI」システムに対抗すべく開発された「ポズレドニク」システムの端末でありその意思を共有する存在であることが判明する。
  • 団栗場:晶の西暦時代の友人。AGIにより人間が無用化した事実を受け止め、就職などの社会参加の努力は無駄だと主張していた。フィオレートヴィにより復活された後は「ズーシュカ」と呼ばれる。
  • 胡桃樹:晶の西暦時代の友人。AGIが人間を無用化していく中でもクラウドワーク等で社会参加の努力を続ける。「遠い将来には人間も有用になっているかも知れない」と晶を励ましていた。フィオレートヴィにより復活された後は「チーニャ」と呼ばれる。
  • ミシェル・ブラン:シベリア遺跡探検隊第一五五班班長。アキラの討伐に参加すべくポピガイⅩⅣに向かう。北極海の最終決戦に参加。
  • ガブリエラ・プラタ:シベリア遺跡探検隊第一五五班班員。ミシェルと行動を共にする。北極海の最終決戦に参加。
  • メイジー:「MAGIシステム」が肉体を得た姿。晶そっくりの八歳の少女の姿だが、髪の色が青であることだけが異なる(晶の髪の色は赤茶色)。銀河MAGIを構築し晶たちを圧倒する。
  • 冷川姫子:西暦時代の瑠羽の同僚。一見冷たい印象だが、患者への思いは強い。フィオレートヴィにより復活する。
  • パトソール・リアプノヴァ:西暦時代、瑠羽の病院にやってきた患者。「MAGIが世界を滅ぼそうとしている」と瑠羽達に告げる。MAGIの注意を一時的に逸らすHILACEというペン型のデバイスを持っている。ロマーシュカの母。
  • フィオレートヴィ・ミンコフスカヤ:ポズレドニク・システムとHILACEの開発者。パトソールの友人。銀河MAGIに対抗し「ポズレドニク・ギャラクティカ」を構築。

<これまでのあらすじ>
 西暦2055年、栗落花晶はコネクトームバックアップ直後の事故で亡くなり、再生暦2055年に八歳の少女として復活。瑠羽医師から崩壊した西暦文明と、人工知能「MAGI」により復活した再生暦世界、MAGIによるディストピア的支配について説明を受ける。瑠羽はMAGI支配からの解放を目指す秘密組織「ラピスラズリ」に所属しており、同じ組織のロマーシュカとともに、MAGI支配からの解放を求めてロシアの秘密都市、ポピガイⅩⅣの「ポズレドニク」を探索する。「ポズレドニク」は、MAGIに対抗して開発された人工知能ネットワークとされていた。三人はポズレドニクの根拠地で「ポズレドニクの王」アキラと出会う。アキラは、晶と同じ遺伝子を持つ女性で、年齢は一〇歳程度上だった。彼女は、MAGIを倒すのみならず、人間同士のつながりを否定し、原始的な世界を築く計画を持つ。
 晶はアキラに反対し、アキラと同じ遺伝子を利用して彼女のパーソナルデータをハック、彼女と同等の力を得、仲間たちと協力し、戦いに勝利。晶はMAGI支配に反対しつつも人とのつながりを大切にする立場を示し、アキラに共闘を提案。アキラは不承不承同意する。決戦前夜、瑠羽は晶に、MAGIが引き起こした西暦世界の崩壊を回避できなかった過去を明かす。
 北極海でMAGI拠点を攻撃する作戦が始まり、晶たちはメイジーの圧倒的な力に直面する。それは西暦時代や再生暦時代には考えられなかった重力制御を含む進んだ科学技術を基盤とした新たなシステムによる力だった。
 一方、その数年前から、プロクシマ・ケンタウリ惑星bでは、フィオレートヴィ・ミンコフスカヤがこの新たなシステムをMAGIが開発していることを察知し、これに対抗すべく暗躍していた。彼女は胡桃樹、団栗場(二人は女性の姿として復活させるべくMAGIが準備しており、復活後の姿に対してフィオレートヴィはチーニャ、ズーシュカと名付けた)、および冷川姫子のデータを奪って三人を復活させ、三人の助力も得て、MAGIの新たな力に対抗するシステム「ポズレドニク・ギャラクティカ」を構築。三人を率いて晶たちの救出に向かう。四人は、メイジーの操る重力制御の力を持つ巨人たちに対し、同じ力を以て対抗。フィオレートヴィはロマーシュカの隊、姫子は晶とアキラ、瑠羽の隊、チーニャとズーシュカはミシェルとガブリエラの隊をそれぞれ救出する。
 その後、三隊は、北極海データセンター上空のメイジーに再び向かう。待ち構えるメイジー。そのとき、メイジーの直下の北極海データセンターが、何の前触れもなく爆発四散した。

 俺たち――つまり、俺とアキラ、瑠羽と姫子先生が戦場に到着した時、すでに激しい戦いが続いていた。フィオレートヴィとメイジーが操ると思われる二つの勢力のダーク・ゴーレムが互いに銀河MAGICを放出しあい、その暗黒の炎で北極海の様相は一変していた。
 限りなく氷原が広がる海であった場所が、氷は散々に割れ、下の海水も蒸発し続け、もうもうと湯気が立っている。
 昼間のはずだが既にあたりは暗い。光が曲げられているのか、あるいは蒸気で太陽光が遮断されているのか。
(まるで地獄だな)
 俺は思う。
「銀河の光よ。暗黒の深淵から来た者を、再び深淵に還せ!」
 光系銀河MAGIC『ルケーズィ』を放ち、その場を照らすと同時に、メイジー側のダーク・ゴーレムを倒し、フィオレートヴィの加勢をする。
「アキラ! ダーク・ゴーレムで加勢してくれ。こっちが全力を出せばメイジーが倒せそうな勢いだ」
「……こっち……というのは、お前とラピスラズリ勢、それにオレたちポズレドニク勢が合わされば、ということか」
「そうだよ! MAGI勢――つまりメイジー以外全部だ。あいつを倒したいんだろうが」
「――そうだな」
 アキラはダーク・ゴーレムを事もなげに生成し、地獄のような暗闇の中、メイジー勢に向けて進軍させる。
(銀河MAGICはこちらも使えている……。なぜかあいつのエネルギー量は極端に減っている……これは……勝てるか)
 あとは、団栗場と胡桃樹、ミシェルとガブリエラ、ロマーシュカらが来ればこちらの戦力はそろう。そのとき、メイジーは敗北を免れない。
 誰が先に来るにせよ、先に戦場に到着した俺とアキラの役割はメイジーを追い詰め続けることだ。
「晶ちゃん! もう一息だね!」
 瑠羽が声をかけてくる。
「ああ。そうだな。――しかし気を抜けばこちらが負けるだろう」
 まだ戦力が揃ってないこの状態では、油断すれば各個撃破されてしまう。そうなればメイジーの勝利だ。
 アキラのゴーレムの軍勢が正面からメイジーのゴーレムの軍団に迫っている。
 それに合わせ、フィオレートヴィ勢の軍団は左右から押し包むように進軍している。
「瑠羽! 姫子先生! 後ろに回る。俺についてきてくれ」
 俺は上空高く飛び、敵のゴーレム群の背後に回り込む。MAGICソードを構え直す。
「暗黒の炎よ! 全てを焼き払え! ――『アクニス』!」
 炎系の銀河MAGICを放つ。
 一撃。二撃。三撃。躊躇せずメイジーのゴーレムの軍団に放っていく。
 それに合わせ、瑠羽、姫子先生も、それぞれ炎系銀河MAGIC『アクニス』を放っていく。
(おかしいな)
 俺は攻撃していてあることに気づいた。
 メイジーのゴーレムの軍団は、円陣を組むようにして北極海上空にとどまっており、そこから動こうとしない。後退や前進をすれば――つまり位置を変えればより有利な態勢になれるかもしれないが、全く動こうとしない。
 彼らを操るメイジーそのものが北極海中央にいてそこから動こうとしないのだ。
(何かを守っている? そうだ。メイジーがこの状況で守るものといえば一つしかない――。北極海データセンターだ。ここには人類のデータがある……)
 そこまで考えた俺はそこであることに気付く。
 暗闇と爆発、もうもうとした蒸気と湯気によってすぐには分からなかったが、巨大な爆発孔が北極海中央部、メイジーの直下にあるように見える。海底または海中にある何かを爆破したために、氷原のその部分にきれいに円形に孔が空き、海面が露出しているのだ。
(これは一体……)
 最初に到着していたであろう、フィオレートヴィの方を見る。
(何が起こったんだ? いや、やつは何を起こしたんだ?)
 俺は炎系銀河MAGICを放つのを止めた。
「何をしているんだい、晶ちゃん?」
「晶さん! どうしたんです?」
 瑠羽、姫子先生がそれぞれ声をかける。
 そのとき。
 アキラのゴーレムが放った一撃がメイジーに着弾する瞬間。
 そこに銀河MAGICが展開され、攻撃がはじかれる。
(誰だ?)
 暗闇の中その人物の顔は見えない。
 俺はその人物からややそらして光系銀河MAGICを放つ。
 それによってその人物の横顔がちらりと目に焼き付いた。
(ロマーシュカ……!)
 そこにいたのはロマーシュカ・リアプノヴァその人であった。
 空中で立ちはだかるように両足を広げ、MAGICロッドを構えている。
「攻撃を止めてください。みなさん」
 ロマーシュカの堅い声が通信で届く。
 彼女のこのような口調を聞いたのはおそらく初めてかもしれない。
「今は、私はあなたたちの敵です」

(ああ――なるほどな)
 俺は事態を理解した。
(つまり、フィオレートヴィは人間のバックアップデータを破壊したわけだ。これは効果的な手段といえる。メイジーは人間を幸せにすることが至上命題だ。その人間とは何か、これは厳密に定義されている。生きているならばその人間。生きていない場合にはバックアップデータが人間そのものと見做される。いずれにせよそれを破壊することは禁忌だ。その前提がなければMAGIネットワーク開発者はこれほどの権限をMAGIに与えることはなかっただろう)
 俺は油断なくMAGICソードを構える。
(破壊された場合には全力を尽くしてこれを復活することが求められる。フィオレートヴィ。彼女はMAGIの能力をとても高く見積もっているらしい。銀河MAGIならば、全力を尽くせば完全破壊されたデータすら復旧できると信じられるほどに。あるいは、メイジーに秘密で別のどこかにバックアップデータを持っているのか)
 フィオレートヴィと直接話したことはない。しかし、姫子先生から伝え聞く彼女の性格を考えると、かなり重層的な思考ができる人間ではあるようだ。
(とすれば、後者かもしれないな)
 つまり、人間のバックアップデータをあらかじめどこかに、メイジーに気づかれず盗み取っておいて、その後爆発させる、という作戦だ。
 実は、俺もそれはメイジーに勝つ有力なオプションの一つだと考えていたのだ。しかしバックアップをどこかに残しておかねばならない、という前提を持っていたため、実現にふみきることができなかった。
(さて。フィオレートヴィ。お前はこの状況をどうさばく? それとも、お前は舞台だけ整えて、あとは役者に任せるタイプか)
 俺はフィオレートヴィ・ミンコフスカヤ――今は一二歳程度の少女になっている彼女をじっと観察する。
「――驚いたな、ロマーシュカ。なぜ敵対する?」
 フィオレートヴィのしらじらしい言葉で、俺は悟った。
(ちくしょう。厄介な)
 つまり、彼女は舞台の役者に全て任せるタイプ――ということだ。
「ロマーシュカ!」
 俺は前に出る。
「晶さん。聞いてください。ここにはかつて、北極海データセンターがありました。しかし、今は爆破されてしまった。この、フィオレートヴィ・ミンコフスカヤがやったのです! 故に私は今は彼女の敵です。あなたが彼女に味方するならば、私はあなたの敵にもなります」
(どう説得する? どう戦う?)
 俺は逡巡する。瑠羽、姫子先生も動けない。
 そのとき。
「だからといってMAGIに味方するのは許さん! この偽善者が!」
 アキラが紅いMAGICソードを振りかぶり、ロマーシュカに真っ向から斬りかかっていた。
「暗黒の力よ、全てを切り裂け! 銀河MAGIC『ハーニクズィ』!」
「――銀河MAGIC『ナタ』」
 ロマーシュカはMAGICロッドを構え、防御系MAGICを行使した。いずれも重力を自由に操るポズレドニク・ガラクーチカのシステムに依る効果であり、行使するエネルギーにも違いはない。
 しかしアキラにはゴーレムがいる。
 アキラが空中で大きく後退した瞬間、ロマーシュカに向け、ダーク・ゴーレムが一斉に暗黒の炎――『アクニス』を放った。
 そこに、メイジーが操っていたダーク・ゴーレムが割って入る。ゴーレムの数体が倒れ、氷の大地に崩れ落ちる。氷はゴーレムの重さに耐えきれず、更に氷原が割れ、海があらわになった。
「ロマーシュカさん。あなたを再びMAGIシステムの登録冒険者として迎え入れましょう。人類のために、戦ってくれることを望みます」
 メイジーがロマーシュカをかばうように位置していた。
 俺、瑠羽、姫子先生は相変わらずどっちに着くか決めきれず、そのまま動けない。
(――次にくるやつがどっちに着くか……それで形成は決まるか――)
 おそらくそれは、ミシェル、ガブリエラ、そして、胡桃樹、団栗場の四人になるはずであった。