「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介」宮野由梨香(質問者 柳ヶ瀬舞)
「SF Prologue Wave って、どんな人たちが作っているの?」という声にお応えし、SF Prologue Wave編集部メンバーに、別のメンバーが質問をしてみました。
1・宮野さんはSF Prologue Wave第1期の編集もされていたそうですね。その頃といま(SFPW 第3期)の雰囲気の違いなどありましたら、教えてください。
更新が毎週になったせいもあるのでしょうが、動きが速くて活気がありますね。第1期はメーリング・リストで連絡や相談をしていましたが、今はチャット・アプリです。
私自身の環境も、かなり変化しました。第1期の時は、都心でフルタイムの仕事をしながらの子育て真っ最中だったので、睡眠時間を削りながら作業をしておりました。今は、その時よりも時間的にも精神的にも余裕があるのですが、その分、自分自身の技量という問題に向かい合わなくてはならない機会が多くなりました。人間の脳は刺激によって向上を続けるそうですから、とにかく仕事をしていきたいと考えております。
2・私の勝手な推測ですが、扱われる土地特有の問題と、地霊(ゲニウス・ロキ)を鍵にしたSFをお書きになるイメージがあります。ご旅行などはよく行かれるのでしょうか?
地霊をはじめて意識したのは、日本SF評論賞の受賞者持ち回りで、「第49回SF大会 TOKON10」の準備ブログに「東京SF大全」を書いていた時のことです。ある場所を取り上げて書く時、脱稿前にその場所へ行ってみないと落ち着かない自分を発見しました。行ってみて納得できた時もあれば納得できない時もありました。納得できない時は、原稿を書き直しました。
旅行は大好きで、よく行きます。旅行から帰ると、今までいた場所がちょっと違うふうに見えることがあります。行っている間も楽しいですが、帰って来てからも、いろいろな意味で楽しいです。
3・SFPWの見どころを教えてください。
毎週、これだけの質のコンテンツを読めるところなんて、なかなか無いですよ!
例えば、飯野文彦さんの甲府を舞台にしたホラー連作は、他では読めない作品群です。まとめられて、かつ書下ろし作品も加えて、2023年8月にSFユースティティアから『甲府物語』という単行本になって発刊されました。実は私は甲府で生まれ育った人間なんです。飯野さんの作品を読むと、じくじくとあの時代の甲府が甦って来ます。それは「懐かしい」というのとは少し違って、むしろ意識下に押さえ込んでおいた黒歴史を掘り起こされる感じです。甲府を舞台とした作品は結構読んでいるのですが玉石混交で、ただ地名として「甲府」を入れているだけの作品も多いです。飯野さんの作品は、もうそのまま、私が子供時代を過ごした「甲府」だからこそ、安易なノスタルジアでは済まない部分までが喚起されるのでしょう。「文章の力で、時空間をここまで封じ込めることが出来るんだ!」と、びっくりしました。ぜひ読んでみて下さい!
4・SFPW以外で興味を持たれていることを教えてください。
2024年7月6日・7日に開催される「第62回日本SF大会 やねこんR」です。光瀬龍が食道癌で71歳で亡くなったのは、1999年7月7日でした。没後25年の命日に当たります。会場は長野県の「白樺リゾート 池の平ホテル」です。長野県で前回開催された「やねこん」は、1999年7月3日・4日でしたから、なかなか因縁深いものを感じます。「これはもう光瀬龍を顕彰する企画を何かやるしかない!」と思っています。これから頑張ります!!
5・執筆する日の1日のルーティンを教えてください。
「1日のルーティン」というものが存在しません。畑の面倒もみているので、天気や気候や季節に合わせて、その時にやらなくてはいけないことを、ただひたすら片づけていくという感じで暮らしております。外の作業は、夏は早朝か夕方、冬は10時~14時でないと無理なんです。それも、ある日を境に急に変わるわけでもありません。
「執筆する日」というのも存在しません。執筆だけをしていられる日なんてないし、やろうと思っても出来ません。
「使役することが許されるのは、今、ここにいる自分だけ」という感覚を持っているからかもしれません。計画に従って動くことを「現在のことを何も知らない過去の自分に使役されること」と感じてしまうのでしょう。だから、常に臨機応変をこころがけながら、淡々と目の前のことをやりとげるようにしています。
6・今後SFPWでやってみたいことなどありますか?
インタビュー記事を作成することですかね。第1期に少しやらせていただいたのですが、なかなか上手にできませんでした。今なら、もう少しはマシなことが出来るのではないかと思います。「インタビューされてもいいよ」という方がいらしたら、ぜひご連絡下さい!
7・これだけは伝えたい、と思うことを教えてください。
光瀬龍第二長編は、2023年現在『百億の昼と千億の夜』というタイトルで流通しております。しかし、著者がこの作品につけた本当のタイトルは『百億の昼、千億の夜』です。漢文によく見られる「互文」という修辞法を使っています。「互文」とは、対になる組み合わせの言葉をあえて入れ違いにして、お「互」いに意味が両方にかかるようにした「文」のことです。例えば「神出鬼没」とは、「神のように現れ、鬼のように居なくなること」ではありません。AaBb=ABabとなるのが「互文」ですから、「神出鬼没=神鬼出没」、つまり「神鬼のように出没すること」という意味になります。
『百億の昼、千億の夜』は「百億千億の昼夜」つまり「膨大な時間の流れ」のことなんです。ほら、疑問が雲散霧消するでしょう? いくら沈思黙考しても、タイトルが現行の『百億の昼と千億の夜』のままでは、この意味は出てきません。
著者に無断で、担当編集者によって改竄されたタイトル『百億の昼と千億の夜』が定着してしまっていますが、作者がつけた本来のタイトルに戻すべきだと思います。
本来のタイトルには、これに加えて、エピグラフの掛詞とともに、もっと深い意味もこめえられています。詳しいことは拙稿「夜から生まれた『百億の昼と千億の夜』――光瀬龍と萩尾望都」(アトリエサード〈トーキングヘッズ叢書 No.91〉所収)に書かせていただきました。ご興味がある方は、ぜひお読みください。
◎質問を終えて 柳ヶ瀬舞
宮野さん、質問に答えてくださりありがとうございました。
宮野さんとはまだ直接会ったことがなく「ご本人のペース」が分からす的外れな質問をしてしまったかもしれません。しかしその分率直なやり取りが出来たと思います。自然と本に囲まれ「使役」を嫌う宮野さん。そんな宮野さんにぜひ会いに行きたいと思っております。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
宮野由梨香(みやの・ゆりか)
1961年甲府市生まれ。評論家・人類史研究家。SF Prologue Wave編集部員。宮澤賢治研究会会員。「阿修羅王は、なぜ少女か―光瀬龍『百億の昼と千億の夜』の構造」(〈SFマガジン〉2008年5月号に掲載)で、第3回日本SF評論賞受賞。著書に『「海のトリトン」の彼方へ』(風塵社から、古澤由子名義にて発刊)、共著に『しずおかSF 異次元への扉』(財団法人静岡県文化財団・序章と「羽衣」(星新一)論で参加)、『北の想像力』(岡和田晃編・寿郎社・「氷原の彼方へー『海燕』『太陽の王子ホルスの大冒険』『自我系の暗黒めぐる銀河の魚』」で参加)等がある。雑誌〈TH(トーキングヘッズ叢書)〉(アトリエサード)にNo.78からほぼ毎号寄稿し、『サイボーグ009』(石ノ森章太郎)・『紅楼夢』(曹雪芹)・『サラムボー』(フローベール)などについて論じている。