「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その9」(柳ヶ瀬舞 質問者大野典宏)

「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介」柳ヶ瀬舞 (質問者:大野典宏)
「SF Prologue Wave って、どんな人たちが作っているの?」という声にお応えし、SF Prologue Wave編集部メンバーに、別のメンバーが質問をしてみました。

●二人が知り合うきっかけとなったフェミニズム読書会のフェミ勉など、グループ活動を積極的にしている動機は何でしょうか?
 グループ活動のメリットは自分にはできないことを他人にしてもらう、という点にあります。
 フェミ勉でしたら自分にない解釈を教えられたり、LGBTQA創作アンソロジーの場合でしたら自分にない物語があったり。そういう点に強く惹かれます。
 単純に「いま生きる」困難さを他人がどのように受け止めているかにも興味があります。グループ活動では他人の困難さに気づくことができます。同じ本を読んでも、同じテーマで小説を書いていても、まったく違うことを考えることに素直な驚きがあります。

●百合やフェミニズムに特に強い関心が感じられます。それと幻想的な手法で現実を写し取るというヨーロッパ文学にみられる手法――ファンタスチカとの接点をどう捉えているのでしょうか?
私にとって百合やフェミニズムは生きていく上で欠かせない、当たり前のものです。日常に女性同士で交わされる感情やフェミニズムについて考えています。その上で幻想や空想に想いを巡らせます。百合やフェミニズムそれ自体には幻想的な要素は薄いかもしれません。
 ひとが空想を巡らせるとき何を土台にしているかが重要な気がします。私の場合、百合やフェミニズムが土台です。私には、女性同士のさまざまな感情やフェミニズムが、とても不思議で魅力的に感じられます。その「不思議な魅力」がしっくりとくる形で表現されていれば、ファンタスチカになるのではないでしょうか。

●小説の他にレビューなどをWeb媒体に書かれていますが、小説と評論どちらを主軸と捉えているのでしょうか?
 できれば小説に力を入れたいと思っています。最近は不調が続いていて、ぜんぜんできていないのですが……。
 小説を書くうえで、ひとさまの作品に触れることは大事な過程だと思っています。小説を書くうえで想像力はとても重要だと思います。作品を読んで「自分なら話をこう進める」「先の展開はこうであったなら」と考えをめぐらすことは多くあります。
 自分の書く小説の理想形は自分自身では認識できません。フィクションに触れることによってあるべき姿が浮かび上がります。なるべく多くの作品を読んで自作の解析度をあげていきたいです。
 読んでいて注目すべき、新しい、と感じる作品は、惹かれた想いを文章化してWeb媒体に載せてもらいます。 
 
●これまでに最も影響を受けた小説・映画・漫画・音楽などを教えてください。また、なぜ惹かれたのか、その理由もよろしければ。
 小説は中井英夫さんの『黒鳥譚』より「青髯公の城」。大学時代に読んで強烈な印象が残っています。「青髯公の城」は異性愛の物語ですが、百合でこんな話を書けたらと今でも思っています。
 映画はミヒャエル・ハネケ監督イザベル・ユペール主演の『ピアニスト』。ピアノ教師のエリカが年下の男性に好意を寄せられるありきたりな筋ですが、ラブストーリーとはこういうものだという固定観念をぶっ壊してくれる仕掛けがあります。
 マンガのオールタイムベストは岡崎京子さんの『愛の生活』。愛を知らないひとたちの話で、『リバーズ・エッジ』『ヘルタースケルター』に並ぶ良作だと思っています。

●これからの活動に対して、何らかの展望なり希望があれば教えてください。
 長編小説を発表したい! です。
 長編小説一作目はすでに第一稿が書けているので、早く公開できる形にしたいです。そのためにも、きちんと伝わる適切な日本語を身につけたいものです。
 マンガのレビューも続けていきます。
 SFPWにも定期的に小説を載せていきたいし、紙媒体の文芸誌への掲載も目指しています。SFにこだわらず恋愛やミステリー、純文学といった他ジャンルの小説も書いていきます。

●最近では論争が激しくなっているLGBTQ+に関しての考え方を教えてください。
 トランス差別に反対です。
 この問題を語っておかなければと思っております。トランス女性は脅威ではないです。そこをはき違えている悪意に満ちた記事を散見します。すごく心が痛みます。

●SNSでのエコーチェンバー現象や、オルタナライト化など、論理のドミノ倒しが始まっていますが、どこで止めるべきだと考えていますか?
 すごく難しい問題ですね。ひとりひとりが自分の言葉に責任を負う、ということが大事ではないでしょうか。自分の名の下に判断し、発信している、という意識が薄いのでしょうか。無責任は気楽ですが、他者に依存しているということでもあります。私は生殺与奪の権利を他人に握られたくないですね。

◎質問を終えて 大野典宏
 柳ヶ瀬さんは作品には粗削りなところもありますけど、次々アイデアを出してくれますし、秘めている情熱は人一倍のものがあります。この熱心さがあれば、これから凄い奇想天外な作品を生み出してくれるものと期待しています。
 ただ、私とは生まれ育ちが違うので、時々「なんでそうなるの?」という意見が来ますけど、それはそれで私にとっても良い気付きになっています。
 めげない努力家だという点は動かないので、これから知識の吸収に励んでください。

柳ヶ瀬舞(やながせ・まい)
1983年埼玉県生まれ。小説家兼ライター。日本SF作家クラブ所属。SF Prologue Wave編集部員。
20年 『ユリイカ 2020年9月号 特集=女オタクの現在 ―推しとわたし―』(青土社)にて「腐女子はバッド・フェミニスト(?)」でライターデビュー。
22年 SF Prologue Waveにて「翡翠の川」で小説家デビュー。