「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その7」高槻真樹(質問者 忍澤勉)

「SF Prologue Wave編集部メンバー他己紹介その7」高槻真樹(質問者 忍澤勉)

「SF Prologue Wave って、どんな人たちが作っているの?」という声にお応えし、SF Prologue Wave編集部メンバーに、別のメンバーが質問をしてみました。 

1・長くSF Prologue Wave編集部に参加されていますが、印象的な出来事や思い出などはありますか?

 やはり発足当時、手探りでいろいろ試していた頃が印象に残りますね。縦書きがいいか横書きがいいか、長さはどのくらいまで認めるか、ひとつひとつああでもないこうでもないと議論していたのは楽しかった。今から考えると、大事なのはそこじゃない、という気がしますが(^^;。企画もいろいろ考えて… 中でも、正月の書初め代わりに企画した「1行SF」は、奇作・怪作が揃って大変にぎやかでした。

2・『戦前日本SF映画創世記: ゴジラは何でできているか』や『活動弁士の映画史 映画伝来からデジタルまで』など、日本映画創世記についての著作を出されていますが、この分野にご興味をお持ちになった理由を教えていただけますか。 またその時代以外で関心をお持ちの映像作家はいらっしゃいますか?

 詳しくは拙著2冊目の『映画探偵』で触れていますが、要点だけ触れましょう。大学時代に京都のフィルムアーカイブでたまたまバイトしていたことから、謎多き初期映画の世界に入り込みました。その後はしばらく、発掘フィルムの再上映を追いかける程度の時期が続きます。しかし、評論賞を取って自分にしか書けない本ってなんだろう、と考えたときに
「戦前の特撮って映画史本では、忍術映画のあといきなり『ハワイ・マレー沖海戦』だよな…… しかも全体で数ページ。自分ならまるまる一冊書けるんじゃないか?」
と思いついた次第です。
 うーん、この時代(第二次大戦以前)以外で興味のある映像作家、ですか。つまり現代の話ですよね。日本映画だと是枝裕和、濱口竜介、原一男、想田和弘。海外だとフレデリック・ワイズマン、アレクサンドル・ソクーロフ、タル・ベーラ。ピーター・グリーナウェイとかラース・フォン・トリアーは、最近の作品はイマイチですが、映画史上ベスト級に好きな作品もあります。「ZOO」と「エレメント・オブ・クライム」および「ヨーロッパ」。まあなんというか、作家として継続的に紹介される監督はうんと減りましたよね。ちなみに、スタンリー・キューブリック、ルキノ・ヴィスコンティ、ドゥシャン・マカヴェイエフなどの物故者は除いています。

3・実際に映画を製作されたことがあるそうですが、それはいつぐらいの時期で、どのような内容のものだったのでしょうか?

 大学時代から映画研究会と地元の実験映画団体で撮っていました。最初は「W」とか「K」とかの10分弱の抽象的なサイレント作品。卒業後は少し作風が変化し、年1本ペースで「内なるニュース」なる20~30分程度のエッセイフィルムを10本ほど撮りました。何か事件のあった場所に、すべて痕跡が消え失せた後に出かけて、風景を撮るというものです。「6km」という作品では、ひき逃げされたあと6kmも引きずられて亡くなった少年の死亡事故現場で、その6kmを歩いてたどりました。その後、2010年に新作の準備中に東日本大震災が発生し、制作を中止。SF評論の活動が忙しくなったこともあり、撮らなくなって現在に至ります。そろそろ新しく撮ってみたい気もします。

4・「狂恋の女師匠」で第四回東京創元社のSF短編賞の日下三蔵賞を受賞されていますが、どんなきっかけでお書きになったのでしょうか。また今後、フィクションの作品をお書きになる予定はありますか?

 受賞当時から言っているんですが執筆動機は、評論賞メンバーで誰か書くのかなと思っていたら誰も書く様子がないので、やむを得ず、というところです。忍澤勉さん、渡邊利道さんが相次いで受賞し、次も誰か書かないといかんでしょう、と思っていたので。この後途切れてしまい実に残念です。この作品は当初から言っているとおり「日輪」(衣笠貞之助監督)、「腹の立つ忠臣蔵」(マキノ正博監督)で、ロストフィルム三部作として完結させる構想で書いています。そして二作目が活動弁士二人の「プレステージ」的な対決を描くものとすることも決まっているので、下調べの意味を込めて『活動弁士の映画史』を書きました。これだけ分厚い本を書いておきながら、フィクションの方はいっこうに筆が進まないのは申し訳ないとしか言いようがありません。脳がノンフィクションになっていると、なかなか実際に書き出すエネルギーが得られず、どうしても先延ばしになってしまいます。そろそろなんとかしたいと思っています。

5・今までSF Prologue Waveで読まれてきた作品の中で、気になった作品や書き手はありますか?

 第一回星新一賞にて、「朝に目覚ましが鳴る世界」で東京エレクトロン賞を受賞した窓川要さんです。非常にポジティブに世界を描きながらも、きわめてインパクトの強い形で読み手を揺さぶってくる。ネガで尖った話を書くのは、そんなに難しいことではありません。ポジでそれをやってのけたのがこの人のすごいところ。その後PWで再会し、変わらぬ「ポジティブなインパクト」に熱狂したものでした。2014~17年に5本の作品を寄稿いただいています。結局ポジィティブに徹し切れず、そこで寄稿が途切れてしまったのは、本当に残念でした。窓川さん、私は忘れていませんし、今も新作を待ち続けています。もしも見ておられましたら、連絡ください。

6・SF Prologue Wave外で気になっていることや、人、作品はありますか?

 北野勇作さんの「100字SF」がどういう方向に向かうのか、ちょっと気になっています。これだけ我が道を行きつつ、読者を振り捨てずに長く書き続けることができているのは、ある意味驚異である気がします。4000本を超え、この先の行方がちょっと気になっています。

7・普段はどういう生活をしているのですか?
 新聞の割り付けの仕事をしています。見出しをつけたり、扱いを決めたりという形で紙面をデザインする担当ですね。大半が夜勤でかなり集中力を必要とするのですが、仕事時間がきっちりと決まっているのはありがたいことで、長く続けられています。おかげで、オフの日には、好きなことを好きなだけ調べて好きなように書くエネルギーが生まれるというわけです。

◎質問を終えて 忍澤勉
 私の偏りがちな質問にお答えいただき、ありがとうございました。高槻さんには以前、拙著『終わりなきタルコフスキー』(寿郎社)についてのインタビューをしていただき、またSF評論賞の先輩で、映画への関心についても同好の志であるので、今回の企画はとても楽しみにしていました。もちろん短編小説を書かれていることは知っていたのですが、映像作品も数多く製作されていたことは知りませんでした。もし発表される機会があれば、最前列で拝見したいと思います。すでに著作などで明らかなのですが、今回、映画黎明期から現代に至るまでの知識のフィールドの広さを再認識しました。ぜひまた機会をつくって、映画の話に花を咲かせてみたいと思っています。

高槻真樹(たかつき・まき)
SF評論・映画研究者。「SF Prologue Wave」校閲担当。唯一残る創設時からのメンバー。第五回日本SF評論賞にて「文字のないSF―イスフェークを探して」で選考委員特別賞を受賞。岡和田晃とは同期。第四回創元SF短編賞では「狂恋の女師匠」にて日下三蔵賞を受賞。著作に『戦前日本SF映画創世記』『映画探偵』(ともに河出書房新社)『活動弁士の映画史』(アルタープレス)などがある。