目を覚ますと、カーテンの外は暗く、豆球の光が、室内、薄ぼんやりと橙色に沈めている。身体を起こして、となりの三畳の板張り、台所を見たが、なにも、誰も、居ない。畳の上にあぐらをかき、脇のテーブルに目を向けると、角瓶の上を切った形のグラスに、液体が残っているのを見て、口に運んだ。氷はとうに溶けて、ぬるい、うすくなったホワイトホースの残りを、ぐい、ぐいと二息で飲み干して、ふう、溜息をついた。
三カ月ほど前から、訳あって家族と別れ、一人暮らししている。相生町のアパート、六畳間に三畳の台所、風呂とトイレがいっしょ、古びた二階建ての一階、角部屋、家賃も格安だ。なにより甲府・桜座まで、歩いて五分というのは魅力である。
とはいえ、ここ数日、桜座でライブはなく、自然と、飲みながら、テレビもラジオもなく、ノートパソコンこそあるものの、ネット接続はしておらず、配信で映画を観るのもままならない。となると、飲む以外の暇つぶしは読書となるが、世間が六月の梅雨となったように、読む力も梅雨。昨今の読書について話せば、雨季と乾季のごとく二分されてしまい、なにか手がかりをつかんで読み出すと、ぎらぎら内容が、こころに焼きつく時期、乾期とすれば、今は、いくら活字を眺めても、こころどころか頭にさえ入って来ない、雨季の雨のごとく、視界から流れていく。
昔はこんなことはなかった、本を読むのは呼吸のようなもの、独り飲みながら読むのが何よりの楽しみ、それが。飲み過ぎたせい、歳のせい、わからないが、どうでもいい。しばらく雨季の中、飲みつづけ、桜座でライブがあるときは足を向ける。梅雨が明ければ、わたしの雨季も終わり、活字をむさぼるかもしれないけれど、わからないし、どうでもいい。原稿は進んでいるのだろうか、酔いの残った心身、ぼんやりノートパソコン、〈創作〉と書かれたフォルダに入った文書を開いた。
◇ ◇
宮沢賢治 アンドロメダもかゞりにゆすれ。アンドロメダ、銀河で、なんか書きたいな。
七人の侍、ならぬ、七人のホラー作家。悪魔を倒すため、七人のホラー作家を集める。
◇ ◇
ノートパソコンを閉じた。見なければ良かった、ここに引っ越してきて、打ち込んだ全文章が、これだった。ホワイトホース、四リットルペットボトルを引きよせると、軽く、グラスの上で逆さにする、たらり十センチほど流れ、雨粒がつづき、途絶えた。
手を伸ばし、蛍光灯から伸びた紐を二度引くと、明るくなり、壁際の畳の上、目覚まし時計、八時になろうとしている。外の暗さから午後八時だとわかる。テーブルにあった財布を見ると、小銭以外にも五千円札が入っている。月々の、娘からの仕送り、まだ残っていたか。買い出しに出よう、立ち上がると、足元あやしい、いつものことだ。意識を酩酊に持って行かれず、こちら側に引きよせていられるだけ、ましである。
一縷の望み、部屋に置かれた二つの電化製品、ひとつはノートパソコン、もう一つは冷蔵庫、氷、炭酸と水を冷やすのに入り用で、引っ越したとき、ハードオフへ行って、小型のものを買った、その扉を開けると、チーズ、サラミ、スーパーで半額で買ったキムチといっしょに宝缶酎ハイ五百ミリリットル缶がひとつ、ごろん、横たわっている。吉と出たな、これで近所のコンビニに行くまで、淋しい思いをしなくて済むとばかり、プルトップを開けて、飲みながら部屋を出た。
ところがこれ、凶だったらしい。引っ越ししてから、日が暮れたこの時間、桜座へ行く以外、外飲みせず、出たことなく、それでも間違うはずもないと、飲みながら、暗い道を進む。狭い路地に入ってしまい、なに、すぐ平和通りか遊亀通りに出る、と思って、引き返さなかった、引き返せなかった、験を担ぐわけではない、否、担いでいるのだ、充分に。自分のやってきたことを否定されるようで、戻るのは、その暗示となって、自ら失敗を認めてしまう、それが厭だし、怖い。
車は通らず、通ったとしても、せいぜい一方通行の道幅、自転車やバイク、歩く人もいない前方に灯りが見えた。コンビニの明るさではなく、個人商店、この時間、こんな人けのない場所でやっているのは、酒屋もしくは居酒屋ではないか、推測をつけながら足どり、やや早めたところ、どちらでもなく、店先に〈ゆ〉と暖簾がかかっている。銭湯か、甲府市内の銭湯は、ほとんどが温泉である。
とたんに、一風呂浴びるか、とつぶやいていた。温泉好きでかつては、暇があれば、暇などいくらでもあった、家人と連れだって、巡ったものだが、ひさしく入っていない。偶然見つけたのも何かの縁、ふらふら引き込まれるように暖簾をくぐり、と、やはり酔いは、だいぶ廻っていたらしい。気がつくと、全裸となって、冷たいタイル敷きの浴室内に立っている。戸惑いはあったものの、文句をつけられず、こうしているのは、湯銭を払った証拠、これに限らず、近頃、この手の記憶の飛躍は多く、今さらおどろくには当たらない。
それにしても、ずいぶんとうす暗い、前方に浴槽が二つ並んでおり、左のほうには、先客が一人、向こうを向いて、湯に浸かっている。ざっと身体を洗い、右側の、空いているほうの湯船に入った。それにしても、ぬるい湯だった。やはり温泉だ、太宰の書いた、甲府、湯村温泉の話を思い出す。若い頃、太宰が甲府を書いた話をリストアップしたことがあり、湯村温泉を書いた短編は「美少女」だったと、ぼろぼろとなった記憶の底から、浮かんできた。暗唱こそできなかったが、内容、浮かんでくる。甲府に新居を構えた太宰夫婦、奥さんが汗疹に悩まされ、皮膚病に効き目がある湯村温泉へ通った、太宰も誘われて足を運んだところ、ずいぶんとぬるく、閉口し、先に出てしまった、タイトルの所以は、そこで出会った少女から来ている、当時は混浴だったのだ。寒いのをがまんして、じっくり浸かっていると、じわじわ効能が染み入ってくる、酔った身には、このくらいの、ぬるい湯がいい、と勝手に思い、首まで浸かった。
目を閉じていると、となりの浴槽から水音、ゆるい湯音か、が聞こえ、先客があがるらしい。洗い場を歩く、その後ろ姿を見て、驚いた、女である。暗い照明の中、ぼうっと浮かび上がる白い裸体は、まちがいなく、女性のものだった。しかし現在では、混浴の温泉が、甲府市内にあるとは考えられないし、耳にした記憶もない。酔いにまかせて、確かめもせず、女湯に入ったか。これはまずい、別の客が来たら、一騒動どころか大騒ぎ、若い頃からの悪行が祟り、あいつならやりかねません、知人たちは声を揃えるだろう。
身体を洗うのもそこそこ、逃げるように、衣服をまとい、外へ出ると、くしゃみ、身体の震えは止まらず、何とか身体を温めなくては、と、歩き、鉤状に曲がった道を進むとぼんやり赤提灯、居酒屋にまちがいない。歩調をはやめ、縄暖簾くぐり、磨り硝子の引き戸は、立て付けが悪く、がたがたがた、三度止まりながらも、開いた隙間から入る。
縦長の店内、カウンターに席が五つ、背後に二人向かい合って坐る狭いテーブルが二つ、並んでいる。カウンターの中に、小柄な親父が一人、客はいなかった。
「たいしたものはできないが」
親父はぶっきらぼうに言った。ビールを、と言い、私は入口に一番近いカウンター席についた。ラベルに赤い星がついた瓶ビール、コップといっしょにさしだされ、すぐにコップに注いで、一息で飲んだ、ぬるいビールだった。空のコップを置いて、継ぎ足しているとき、寒くてたまらず、この店に入ったのに、と勝手に苦笑が浮かぶ、だからぬるくて良かったのか、先の湯と同じで、このくらいぬるいほうが、効能がある、何の?
「たいしたものはできないけど」
ふたたび親父が言った。
「なにがあります?」
「ぬか漬け。と、鳥の塩焼き」
つづきを待ったが、親父は口を閉ざした。
「じゃ、両方ください」
二杯目のビールを空け、三杯目を注いだとき、親父がうつむいたまま、口を開いた。
「あんた、どこから来たの?」
「近所です。相生×丁目にあるアパートに、最近、越してきて。ここもまだ、相生町ですか? それとも……」
返答を待ったが、親父は口を開くどころか、顔も上げない。顔、顔ってどんな顔だった、間近に見たばかりなのに、浮かんでこない。福笑いのように、目鼻、口をつけようとしても、つるん、滑って、落ちてしまう。たまらず、口を開いた。
「暗いから、よくわからないけど、たぶん、はじめて来た道なんです。あそこにある風呂屋、なんて言うんですか?」
「入ったの?」
「ええ。とにかくぬるくて、それにここだけの話、女湯に入ってて、すぐに出ましたけど」
親父はうつむいたまま、胡瓜と茄子の漬け物が入った皿を、トンと、カウンターに置いた。黙って下を向いたまま、何かしている。もう一品のほう、鳥の塩焼き、とやらに、とりかかったらしい。
漬け物をつまみながら、ビールを飲みつづけた。茶色いガラスを透かしてみると、ほとんど残っていない。カウンター奥の隅、一段高くなったところに、一升瓶が三本、こちらから〈菊正宗〉、〈七賢〉、一番向こうの一升瓶に〈二階堂〉とあったので、ほっとした。日本酒はべたりとして、苦手、飲むのはウイスキーか焼酎の、蒸留酒に限る。
「二階堂をロックでください」
親父は冷蔵庫から取り出した氷を丼に入れ、わたしの前に置いただけで、作業を再開する。
「あの、どうすれば」
「コップはそのまま、あとは自分でやって」
かちんと来ないでもないけれど、勝手に飲んでいいというのだから、むしろ気楽、と思い、腰を上げて、二階堂の一升瓶を取りに行った。中身は、三分の二以上、残っている。全部飲んで、いいのか、会計は……すぐに考えるのを止めた、五千円あれば、御の字、駄目なら……などと考えず、酔ってしまえ。
何杯飲んだか知らず、だいぶ廻っている、気がつくと「蚊帳って、知ってますか?」とつぶやき、すぐに「すみません。知らないわけないですよね」と親父に言った。
「蚊帳が、どうかしたの?」
「ええ、この頃、夜更けに母が、相生町のアパートに来るんですよ。ふと気がつくと、台所にいるんですが、蚊帳の中に入って、現れるんです」
親父はうつむいたまま、無反応だった。二階堂のロックを飲み干し、一升瓶から継ぎ足して、口を付ける。
「それで?」と親父が言った。
「えっ? 何がですか?」
「お母さんが来るんだろ」
「ああ、そうなんです。てっきり、関心がないかと思って……」厭味ではないが、一言言ってから、話をつづける。「蚊帳の中に坐って、わたしを、じっと見ているだけのこともあれば、先日は、手にした便箋に目を落とし、それはわたしに宛てた手紙で、読むんですよ。
『その後、小説は進んでいますか。こっちは、しんしんと冷え込む毎日です。しかしあまり思い悩むと、あなたのところまで伝わってしまうのが恐ろしく、努めて、気丈夫に、寒くない寒くないと、自分に言い聞かせています』
そこで終わりになりましたが、わたしのことを心配してくれているのが伝わってきて」
感傷的な気持ち、脹(ふく)れあがって、話せなくなり、ほかにすることと言えば、グラスを口に運ぶことだけ、と、ふと笑ってしまった。
「いえね、母が来ると知った者がいて、母に似せて、出てくるんです。蚊帳がないので、贋者だとわかります。それだけじゃない。ほんものの母は、唇の左上に、小豆ほどのほくろがあり、それが目印、贋者には、これがない。一度、あったので母かと思って話していると、どうもかみあわない、よく観察すると、ほくろは右側についていた、蚊帳もない。それでも、その晩は、かなり酔っていたこともあり、からかってやろうと思ったんです。
『母さん、お願いがあるんだ』
『なあに。なんでもしてあげるわよ』
さてなんて切り出そう。酔った頭で思考はとろけ、まとまらない、できるだけ難しいことを、できないことを言いたい、と、気がついたら、口から出ていた言葉は、
『ガヴァドンみたいに、壁に描いたものを生かせますか?』
贋の母は黙っている。何を言ってるのか、分からないんでしょうね、わたしだって驚きました、なぜ、そんなことを口走ったのか。
『ほら、ウルトラマンに出てくる怪獣です。第15話「恐怖の宇宙線」。少年が壁に落書きした怪獣が、実物になって現れるんです。母さんなら、できますよねえ。ねえ』
念押しすると、顔全体を泣き出しそうに、くしゃりと歪めながらも、
『もちろんよ。で、何を書くんだい?』
『鳥です、椋鳥。それも大群で、空が真っ暗になるくらい、大群の』
まだ家族と暮らしていた頃、夕暮れ時、ふと窓から空を見たら、たくさんの鳥が、空を覆いながら飛んでいました。最初は鴉(カラス)かと思ったんですが、どうも鴉より、寸足らずに思える。夜になって、酒が廻ったとき、家人にその話をしたら『椋鳥だよ。最近増えて困ってるんだって』と言ったんです」
グラスを口に運ぶが残っていない、一升瓶をつかみ、継ぎ足したとき、気づいた、カウンターに、大きな平皿が置かれている、載っていたのは、鳥の丸焼き。
「これは?」
「椋鳥の塩焼き」
「椋鳥の? 鶏じゃなくて?」
「こんな小さい鶏、ひよこじゃあるまいし。形だって、違う」
改めて皿を見た。一匹一匹が小さくなる代わりに、数がどんどん増えている。皿には収まり切らず、溢れ出したものは、金魚鉢から飛び出した金魚たちのように、カウンターの上を跳ね回り、やがて宙に舞う。辺りを飛び回り、灯りさえ届かぬほどに数を増し、わたしを取り囲む、堪らず、一升瓶をつかみ、ぐいぐい喇叭飲みする。
「こっちへ」闇の向こうから、母の声がする、となりの部屋から、蚊帳の裾をあげて、手招きしている。「さあ、はやく」両腕で頭を抱え、腰を屈めて、歩を進めた、手を伸ばすと、母の指先がふれた、冷たかった、が、母はしっかり、わたしの手を握りしめ、ぐいと引っ張り、わたしは蚊帳の中へ入ったのである。
気がつくと、母の胸に抱かれていた。蚊帳の外を見るとわたしがいる、アパートの六畳間で酒を飲んでいる。母はわたしの頭をやさしく撫でながら、蚊帳の外のわたしに言った。
「その後、小説は進んでいますか?」
「ええ。少しですが」
わたしは答えているけれど、わたしには嘘だとわかる、ところが、蚊帳の外のわたしは「今日できた分を読んでみますね」とノートパソコンを見つめながら口を開いた。
◇ ◇
真っ赤な花だった。何という花なのか知らないけれど、とってもきれい、と幸子は思った。目をさますと、ベッド脇の小机の上、ガラス瓶に、その花が一輪、挿してあった。
お母さまが、持ってきてくれたんだ。
幸子の母親は仕事が忙しくて、見舞いに来られない。いつもやさしくしてくれる看護師さんが教えてくれた。それでもさみしくて。
「どうして、どうして」
しつこく訊ねると、こっそり教えてくれた。
「この間、来てくれたのよ。でもサッちゃん、眠っていたから、黙って帰ってしまったの」
「今度来たら、起こして。約束だからね」
指切りしたのだが……。でも仕方がない。幸子は手術を受けて、今やっと、目をさましたばかりなのだから。
お母さまだ。この花は、お母さま……。
ぼんやりとだったが、もっともっと幼かった頃のことを覚えている。
「きれいな花だねえ」
こっそり襖を開けると、畳に腰を下ろしたお母さまは、大きく股を開いていた。そこに男が顔を埋めて、そう言ったのだ。
あたしのお母さまは、きれいな花なんだ。それなら、あたしも?
こっそり鏡で見てみたけれど、花などどこにもなかった。はやくお母さまみたいに、きれいなお花になりたい。口に出しては言わなかったけれど、お母さまは知っていた。だから、あたしのために持ってきてくれたのよ。
幸子は母親に見守られている気がして、花に向かって、にっこり微笑んだ。ほんとうは話しかけたかったのだけれど、声が出せない。
でも、聞こえるわよね? 聞こえるでしょ、お母さま? あたし、あたし……。
すると不思議なことに、花が首を縦に振った。病室の窓から吹きこんだ風の悪戯だったのだが、幸子は気づかない。
お母さま! もしかして、あたしを迎えに来てくれたの?
またしても花が肯いた。幸子のこころは、ぱっと明るくなった。手術が無事に終わったので、お母さまは忙しい仕事をやりくりして、迎えに来てくれた。これで退院だ。これからは、お母さまといっしょに仲良く暮らすのだ。
お母さまといっしょに暮らすのは、ずいぶんとひさしぶり。ずっとずっと、そうしたかった。そのときが、ついにやって来た。
「いくつだったんだ?」
「さて……。着の身着のままで、施設の前に棄てられてたんだって。赤い薔薇の花が一本、掌にマジックで〈幸子〉とだけあったって、看護師さんから聞いたことがある」
自分の名前を呼ばれ、幸子は、そちらを向いた。同じ病室の患者さんたちが、幸子を見て話している。幸子はにっこり微笑んだ。
お母さまが迎えに来てくれるので、一足お先に退院します。みなさま、お元気でね。
「それで最期も、赤い薔薇の花ってわけか」
患者さんは、赤い花を見ながら言った。
赤い薔薇? ああ、そうだわ。あたしのお母さまは、赤い薔薇だったのね。
花を揺らした風は、さらに幸子の顔をおおっていた白い布を吹き飛ばした。
「おやおや、今かけてあげるからね」
患者さんの一人が、幸子に近づいた。顔を見て、大きく目を見開いた。
「この子、笑ってる」
「ほんとうだ。泣いてばかりいたのに」
「やっと楽になれて、うれしいんだろう」
患者さんたちは湿った表情で、幸子に向かって、両手を合わせた。
ちがうわ、お母さまと会える。だから……。
幸子の唇が、いっそうほころんだ。
◇ ◇
読み終えて、三畳の台所を見た、蚊帳の中、母が愛らしい笑みを浮かべて、わたしを見ている、しかし手招きはしない。室内の闇が動いた、硝子窓を抜けて、外へと飛び出していく。闇ではなく、無数の鳥、椋鳥が室内をおおっていたらしい。
最後の一匹がガラスにぶつかり、畳に落ちた。すぐ起き上がり、東に面した硝子窓、夜は明けたらしく、日差しが差し込む空へ向かって、抜け出していく。室内が明るくなった、と、台所の蚊帳も、母もいなくなっている。(了)