新作紹介『トーキングヘッズ叢書THNo.86 特集・不死者たちの憂鬱』高槻真樹

新作紹介『トーキングヘッズ叢書THNo.86 特集・不死者たちの憂鬱』

書名:『トーキングヘッズ叢書THNo.86 特集・不死者たちの憂鬱』
著者:岡和田晃、藤元登四郎、石和義之、高槻真樹、宮野由梨香、仁木稔、阿澄森羅、穂積宇理他
出版社:アトリエサード
発売日:2021年5月13日 
版型:B6版 
ISBN:978-4-88375-439-7 
定価:1389円(税別)

SF方面へも丁寧な配慮で知られる季刊アート誌『トーキングヘッズ』の最新号が出ました。はや86号。今回は「不老不死」がテーマということで、SFとは親和性の高い論考が多数揃いました。なんといっても萩尾望都『ポーの一族』は代表例のひとつといってもいいでしょう。宮野由梨香は「<夢>の反転」と題し、半世紀に及ぶ作品の変遷を振り返っています。
 そして『ポーの一族』といえばヴァンバイア。精神科医師でもある藤元登四郎は、自身の専門の視点から、「ヴァンパイアと浦島太郎にみる不老不死と無意識」についてユニークな分析を寄せています。
 不老不死をテーマに据えたマンガといえば、手塚治虫「火の鳥」シリーズも忘れられません。仁木稔は、「『火の鳥』からヒーラ細胞へ」と題し、現実に存在する不老不死の癌細胞も絡めつつ、自らの作品歴における、「火の鳥」の影響の深さを丁寧に分析しています。仁木さんが生い立ちを語ることは大変珍しく、ファンなら必読の資料と言えるでしょう。
 不老不死は、実に様々な形でテーマとして取り上げられています。石和義之は、「ゆっくりと動くこと」という記事において、詩人で芥川賞作家でもある松浦寿輝の作品内で取り上げられる不老不死について、緻密に分析を重ねています。穂積宇理は、北朝鮮映画の中でももっともよく知られた作品のひとつである「プルガサリ」を、「不死の怪物」という側面から、あまり知られていない民話や小説版も交えて紹介しており、大変興味深いものです。阿澄森羅「あなたも不老不死になれる(かもしれない)秘薬・霊薬・仙薬の処方箋」は、実際に文献に登場する不老不死薬がどんなものであったか、紹介したものです。きっと命を縮める効果しかなかったであろう、怪しげな薬物の数々に、人間の業の深さを感じ、もはや苦笑するしかありません。
 他にも『ガリバー旅行記』や輪廻転生、ドリアン・グレイ、荒川修作など、様々な切り口の「不老不死譚」を読むことができます。私も、キム・チョヨプをはじめとする韓国SFにおける不老不死の描かれ方を紹介しました。よかったら、ぜひご覧になってください。
 書評も充実しています。特集に合わせ不老不死関連の書評を集めたコーナーでは、M・ジョン・ハリスン「からっぽ」(待兼音二郎)評、TH特選街レビューでは郝景芳「人之彼岸」(放克犬)評が掲載されています。ともにじっくりとした分析で読み応えがあります。
 岡和田晃「山野浩一とその時代」は、はや15回目。豊富なデータを活かした迫力ある評伝になっており、完結がとても楽しみです。(高槻真樹)