<これまでのあらすじ>
西暦二〇五五年、コネクトーム(全脳神経接続情報)のバックアップ手続きを終えた直後にトラックに轢かれて死亡した栗落花晶は、再生暦二〇五五年に八歳の少女として復活を遂げる。晶は、再生を担当した医師・瑠羽から、彼が復活した世界について教えられる。
西暦二〇五五年、晶がトラックに轢かれた直後、西暦文明は一度核戦争により滅んでしまい、その後、「MAGI」と呼ばれる世界規模の人工知能ネットワークだけが生き残り、文明を再興させたという。「MAGI」は再生暦の世界の支配者となり、全ての人間に仕事を与えることで、生活の糧と生き甲斐を与える一方、「MAGI」に反抗する人間に対しては、「暴力性向修正所」と呼ばれる収容所送りにするなど、人権を無視した統治を行っていた。
一方、西暦文明が滅亡する前のロシアの秘密都市では、北米で開発されたMAGIとは別の人工知能ネットワーク「MAGIA」が開発されていたという。MAGIによる支配を覆す可能性を求めて、「MAGIA」が開発されていた可能性のある秘密都市遺跡「ポピガイXⅣ」の探検に赴いた瑠羽と晶、そして探検隊隊長のロマーシュカ。MAGIAの操るロボットを撃退しつつ市の中心部を目指すが、そこで撃破した一体のロボットの中から人間が出現する。ソーニャと名乗ったその少女は、人間型ロボットであったが、自分達は「人間」だと名乗る。MAGIの意志に従属する者たちこそ、ロボットだと指摘する。そして、ソーニャは、西暦文明を滅ぼした核戦争は存在せず、MAGIとMAGIA(ソーニャらは「ポズレドニク」と呼んでいる)の戦いによるものだと語り、MAGIを倒すつもりなら協力すると持ちかける。
<登場人物紹介>
栗落花晶(つゆり・あきら)
この物語の主人公。西暦二〇一七年生まれの男性。西暦二〇四五年に大学院を卒業したが一〇年間無職。西暦二〇五五年、トラックに轢かれ死亡。再生暦二〇五五年、八歳の少女として復活した。
瑠羽世奈(るう・せな)
栗落花晶を復活させた医師の女性。年齢は二〇代。奇矯な態度が目立つ。
ロマーシュカ・リアプノヴァ
栗落花晶と瑠羽世奈が所属するシベリア遺跡探検隊の隊長。科学者。年齢はハイティーン。瑠羽と違い常識的な言動を行い、晶の境遇にも同情的な女性。
ソルニャーカ・ジョリーニイ
通称ソーニャ。シベリア遺跡にて晶らと交戦し敗北した少女。「人間」を名乗っているが、その肉体は機械でできており、事実上人間型ロボットである。
俺はぼんやりと、俺が寝そべっている姿を見つめていた。
やや青みを帯びた(またしても青だ)、溶液の中に横たわる俺は、何も身につけていない状態で、ただ、ぼんやりと天井を見つめている。天井は鏡になっていて、俺の姿がうつっているのだ。身につけているものと言えば、口と鼻を覆う酸素マスク、そして、頭にかぶせられているヘルメットのような器具のみ。
隣で、ざぶん、という音がして、俺と同じく裸のままの瑠羽が、俺の浸かっている培養槽を見下ろすように佇んだ。豊かな胸元を覆うように腕を組み、俺を見下ろしている。俺を幼女と見做して扱うことに関しては彼女は一貫しており、特に恥ずかしげな様子もない。それとも、嘘つきはそのうち自分の嘘に騙される――という言葉のとおり、すっかり自分でも俺を幼女だと思い込み始めたか。
「やあ、調子はどうだい?」
瑠羽の言葉は、マスクの頬骨の部分についている骨伝導マイクで俺に伝わってくる。
「特にどうということはないが」
俺は答えた。俺の声も骨伝導マイクが拾って、瑠羽に伝える。
「そりゃよかった。セーブポイントでは、私たちのコネクトームの保存と、体力の回復をやるけれど、ときどきコネクトームの走査で気分が悪くなる人がいるからね。悪い夢を見たり」
「……悪夢といえば、西暦時代の生活が悪夢そのものだったからな。それより悪い夢なんて見ないさ」
実際、俺はついさっきまで眠っていたように思うが、そのときも夢などはいっさい見ていなかったように思う。
ただ、気分良く眠っていただけだ。
(気分良く――というのもおかしな話だ。俺はこのディストピア世界に転生して絶望していたはずなんだがな)
「……そりゃ良かった」
瑠羽は満面に喜色を浮かべて言う。顔の造りは美人だから、彼女がそのような笑顔をすると、魅力的に見える――かもしれない。こいつの実態を知らなければ。
「転生後の君のメンタルケアに関しては、転生を担当した医師として私も気になっていたからね」
「黙れメンタルストレスの元凶。俺のメンタルをケアしたいなら今すぐ俺の身体を元に戻せ」
「はて?なんのことかなー? 君は八歳の晶ちゃんでしょ?」
わざとらしくとぼけた言い方。やはりこいつは俺の元々の姿を知っているらしい。
「このゲス医者が」
俺が吐き捨てるようにそう言うが、瑠羽はにやにや笑いをやめない。
「まあ『八歳の晶ちゃん』で良かったと、君もほんとは分かってるんだろ? でなければ、君は復活した日にシステムに反抗して強制収容所行きだったはずだ。違うかい?」
「……ふん。それも、お前が事前に言い含めていれば良かっただけの話だ。……本当のところ、俺をこの姿で復活させた理由は何だ? 女だけの探検隊に混ぜるとか、暴力性向修正所送りにされづらくなるとか、尤もらしい理由は聞いたが、それぞれ幼女にする以外の対策はあったはずだ。根本的な理由をお前は隠していないか?」
「さあて? なんのことやら」
瑠羽ははぐらかすように言う。それから、俺をじっと見つめた。
「な、なんだよ」
「いや、君はよくやったよ。心配したんだよ? 私もポピガイⅣの中心部を探索してたんだけどね、ロマーシュカから通信が来て、直後戦闘の音が聞こえたんだ。それで慌てて飛んできたんだが、君たちが無事で良かった。ロマーシュカに依れば、君も大活躍だったそうじゃないか。ほっとした」
その言葉は、嘘と誤魔化しが多い瑠羽の言葉の中では、本心の成分が高いように聞こえた。
「言ってろ。どうせ俺がいなくなったらからかう対象がいなくなるから面白くないとか、その程度の理由で心配してたんだろ」
「君は穿った見方をするねえ」
「……ふん、それに、ゲームは得意なんだよ。無職のとき、さんざんやってたからな」
それよりも、と俺は言葉を続ける。
「……俺は誤魔化されないぞ。俺を褒めて気分良くさせて、追求を逃れようってことだろ?」
俺が言うと、瑠羽は、あっ、と何かを思いだしたような顔をする。
「そうだそうだ。ロマーシュカの方も見てあげなきゃ! 私はこの班のドクターだからね!」
と、あからさまな言い訳をしながら去って行った。
(チィ……あの様子だとまだ隠していることがありやがるな)
俺は去って行く瑠羽の白い背中を横目で睨み、彼女の姿が培養槽の縁の向こうに消えると、再び天井に視線を戻す。
天井の鏡に、「回復完了・セーブ完了」の文字が出る。ただの鏡ではなく、表示機能もついているのだろう。
更に、「戦闘による経験値、338ポイント獲得。レベル1からレベル5へ」。
という文字が出た。
(ふん……MAGIめ。あくまで社会を運営しているという建前のクセに、妙にRPGっぽいやり方をしやがる)。
それとも、再生暦の人類はこういう表示でやりがいを感じるのだろうか。
(いや――ゲームでRPGを遊ぶという経験がなければ、『経験値』という言葉も『仕事の経験』と解釈されるのかもな)
西暦時代、俺もさんざんRPGで遊んだものだが、いくらレベルアップしても虚しいものだった。それがオンラインゲームであろうと、経験値の価値はそのオンラインゲームという閉じたコミュニティの中だけで通じるもので、社会的な価値はゼロだ。だが、MAGIが支配する再生暦の世界では、MAGIが与える『経験値』や『レベル』はそのまま社会的な価値になる。再生暦の世界に順応している人間たちは、それでぼんやりとしたやりがいを感じ、それだけで充分、生きていけるのかもしれなかった。そういえば、MAGIの世界の通貨は、『ゴールド』というが、パーティの『レベル』の合計額に応じて借りられる金額が変わってくるらしい。『レベル』は経済的な価値にもなっているのだ。
俺がそう考えている間に、「レベルアップ、開始」という文字が出た。
培養槽の内側の壁面からロボットアームが伸びてきて、俺の身体の各部に薬液を注射していく。培養液に痛み止めの効果があるのか、それとも全く痛みのない注射をMAGIが開発したのか知らないが、痛みは感じない。
その代わり、俺は身体の中に力がみなぎるのを感じた。
(筋力が増えている……体力も……)
見ると、俺の「ヒットポイント」、「攻撃力」「防御力」などの数値がゲージ表示で天井に出現し、みるみる上がっていくのが分かった。
(……ふん、おためごかしだな)
俺は思う。
ゲーミフィケーションという言葉が、西暦の世界にはあった。健康管理でも仕事でも、ゲーム性を付与することでやる気を与えるという意味だ。MAGIは人間の生活全てをゲーム化し、やりがいを与えているのだろう。だが、MAGIにとっては、人間にMAGIのシステムの枠内での生活、すなわちこのようなゲームじみた生活こそが全てだと思い込ませ、支配を容易にするための便利な道具でもあるのだ。
「レベルアップ、完了」
やがて、天井の表示はそう告げた。
俺の頭部のヘルメット型の器具が外れ、紅い髪がふわりと培養液の中に広がる。やがて、その培養液も徐々にひいていく。やがて、マスクも外れた。
(ゲームだと一瞬なんだがな……まあいい)
俺はやれやれと心中でつぶやきながら起き上がる。
「ふん、待たせてくれたもんだね」
ソルニャーカ・ジョリーニィ、通称「ソーニャ」は俺達を見下すようなまなざしをしながら、そう言った。
俺達は奈落の底へ向けてゆっくりと下っていた。俺達が立っているのは半径五メートルほどの金属製の円盤で、手すりがついていた。宙に浮いているように見えるが、円盤を帯電させて電場で制御しているようだ。
俺達MAGIの支配下の人間達は、死ぬような目に遭うことが予想されるとき、先にセーブしておくのが習慣である(らしい)。とにかく瑠羽はそう言い、ソーニャが彼女等の本拠地に招待する前にレベルアップとセーブを済ませておきたいと主張したのだ。
本来、『ポピガイⅣ』はMAGIの支配下になく、セーブポイントもなかったのだが、俺達が要求すると、大陸間弾道ロケットを使ってMAGIの本拠地である北アメリカ大陸から、ものの一〇分ほどで『セーブポイント』を送りつけてきた。それが、俺達が使っていた培養槽を含む総重量一トンほどの施設であった。主な構成は、更衣室、培養液室、そして、俺達のコネクトームデータを衛星軌道上の通信衛星に送る通信設備から成るものだ。
俺達は、ロケットの先端部から切り離され、ポピガイⅣの広場にパラシュートで降下してきたセーブポイントを利用して『セーブ』と『レベルアップ』を行っていたわけだ。
「そもそもお前達が人間の身体に固執しているからそんなことが必要なんだよ。あたしの身体は直接衛星と通信が出来るから、常にバックアップも取っている」
ソルニャーカの声は、今はロマーシュカのMAGIC(MAGIコマンド)がなくても普通に翻訳されている。パーティのドクターである瑠羽の要求に従い、MAGIはコネクトームを『セーブ』するついでに俺達(俺と瑠羽)の脳の配線を弄ってロシア語が分かるようにしたのだ。
(この世界では外国語教師は失業だな……)
俺は考える。
だが、それを言えば西暦の世界でも、外国語翻訳の仕事などはMAGIの前身であるAGIの時代から壊滅状態であったのだ。
ちなみに、ロマーシュカは奈落の中には入らず、外で待っている。俺達はソーニャらを完全に信じたわけではなかった。ソーニャらの罠という可能性もある。故に外で待機していて、ピンチになったら助けてもらおうというわけだ。
ロマーシュカはリーダーである自分が行くと言って聞かなかったが、瑠羽に、
「君はさんざん晶ちゃんとデートしただろ? 次は私の番だよ」
と言われ、曖昧な笑みを浮かべて引き下がった。
「気をつけてくださいね」
という言葉を残して。
(やれやれ……)
俺はロマーシュカと行動する方が良かったのだが。
そのとき、俺は急に後ろから抱きすくめられた。頭の上に柔らかい感触。
「お。ちょうど良いところに胸置きがあるね」
瑠羽だ。
彼女は俺を後ろから抱きすくめた姿勢のまま、にやにや笑いが想像できる声で上からそう言った。それから、俺の頭の上で、彼女がソーニャに向き直る雰囲気がある。
「それで? 私たちに協力してほしいとのことだけど、君たちの狙いは何だい?」
「ポズレドニクはMAGIを倒したいとずっと願っていた。MAGIの操るロボットの中にMAGIに反抗する意志を持つ者たちがいるとしたら、利用しない手はないだろう。お前達も、意志次第ではロボットの立場を抜け出し、「人間」にしてやることすらできる」
ソーニャは尊大な口調でそう言った。俺はソーニャの尊大な口調が、MAGIがMAGIA(ポズレドニク)の人間に敵意を抱かせるためにわざとニュアンスを変えているのかと疑ったが、ソーニャの表情自体も尊大であったので、それはないなと思い直した。
俺がそんなことを考えている間に、瑠羽の声が再び頭上で響く。
「なるほど? それが、MAGIによって派遣された探索班を殺さなかった理由か」
「お前達を殺すのは簡単さ。生かすのもな。どっちにするかは、どっちがあたしたちにより有益かによって決まる」
ソーニャは間接的に瑠羽の言葉を認めた。
「ほう?」
瑠羽は身を乗り出す(のが背後で感じられた)。俺の頭にのしかかるやわらかいものの重量が更に増大する。どうやら瑠羽は、胸の重さを支える存在として俺の頭に有用性を見いだしたらしい。
「君たちは自力でMAGIを倒してもいいと思うんだけどねえ。私たちに何を期待してるのかな? そんなにMAGIの内部に味方が欲しい理由はなんだい?」
しかも、と瑠羽は話を続けた。更に身を乗り出しながら。
「今この時点で接触したのは何故だい? わざとだろう、君が人間の姿を纏って我々の前に現れたのは。我々が人間を外見で識別するということも君たちは承知していたはずだ。つまり、その人間の形は、我々に対するコミュニケーションの試みということになる」
ソーニャはふん、と鼻を鳴らした。肯定も否定もしない。
「……否定しないか。できないだろうな。図星だからな。さあ、なんとか言ったらどうなんだい?」
瑠羽は俺の身体を抱きすくめ、胸の全ての重量を俺の上に載せながら更に前傾姿勢になる。
「……おい」
俺はついに言った。
「俺の頭はお前の胸を載せる台じゃないぞ」
瑠羽は心外な顔をした。
「……悪い感触じゃないと思うんだが……? 私は胸が重くないし、君はよい感触を味わえる。ウィンウィンだろ?」
「は? 馬鹿か?」
俺は冷たく言った。
瑠羽は傷ついた顔をした。(というフリをしているのだと俺は思っている。こんな奇矯なやつがこれぐらいのことで傷ついてたまるか)。
「やだなあ……、折角晶ちゃんに喜んで欲しかったのに」
などと言いつつも、少し背筋を伸ばし気味にし、俺の頭への柔らかい重圧を弱めることはした。
「さあ、ソーニャちゃん。答えを聞こうか」
俺との茶番じみた会話などなかったかのように、ソーニャに対して詰問する。ソーニャは逆に瑠羽を探るように見つめた。
「……分かってるんだろう? そいつをここに連れてきたって事はさ……」
ソーニャは、『そいつ』と言いながら、瑠羽の胸の下、俺の顔に視線を向ける。
「なんだ……? どういう意味だ?」
「晶ちゃんがどうかしたのかい?」
瑠羽が問い返す。すると、ソーニャはその顔に嘲弄の笑みを浮かべた。
「ふん……MAGI反抗組織『ラピスラズリ』といったところで、大したものではないな? まさかそいつの正体にMAGIが気付いていないと思い込んでいたのか? それとも」
ソーニャは更に続ける。
「そいつの正体を知らないのか?」
「……どういうことだい……? 煙に巻く話をして自分に有利にしようってことかな?」
冷静さを保ってはいるが、瑠羽が焦っていることは俺には分かった。重たい胸を通じて頭に感じる心臓の鼓動からも、それは分かる。
「――くっく。そいつはお前達の都合で復活させたと思い込んでいるわけか。MAGIも舐められたものだな。お前達が何を考え、どう行動するかなんて、お見通しなんだよ、奴には。その上でお前達は敢えて奴の想定通りに行動しているのかと思ったら……全く知らなかったなんてな」
「そろそろ、真面目な話に戻ろうじゃないか、ソーニャちゃん」
「真面目な話さ。すべてね」
ソーニャは言い、そして指をパチンと鳴らす。
瞬間、俺達が降りつつある深い奈落の上部が急に暗くなった。
「くっ……」
俺は脚に力を込め、ジャンプしようとする。俺はレベルアップとともにいくつかのMAGIC(MAGIコマンド)を新たに習得しており、その中には、跳躍力等の身体能力を飛躍的に増大させる、「ストレングス」のMAGICも含まれていた。
「ストレングス!」
俺は叫んだ。だが、脚に力が入らない。
「無駄だ」
ソーニャが言う。
「……MAGICはMAGIネットワークとの衛星通信を、お前等が背負っているMAGIノードが中継することで実現する。だが、今あたしはこの奈落の上部を通過する電磁波を全て遮断させた。だから、無駄だ。諦めな」
「……何をするつもりかな? 私はともかく、晶ちゃんを攻撃したらただじゃおかないよ?」
瑠羽が威嚇するように言う。ソーニャは肩を竦めた。
「なあに、最初に言ったとおり、『話をする』のが目的さ。だが、話すのはあたしじゃない。あたしたちの『王』なんだよ」
「王?」
ソーニャはおかしそうに、くっく、と笑った。
「王というより、女王という方が正しいんだがな。奴の性自認はなぜか男なんだよ。そこにいるそいつなら、理由が分かるかもな。なにせ、奴とそいつは、もとは同一人物だったんだから」
ソーニャがそう言ったとき。
俺達が乗っている円盤の降下が止まった。
そして、俺達の乗る円盤と、その先の回廊のような空間を、まばゆい照明が照らす。
「よく連れてきてくれた、ソルニャーカ・ジョリーニィ」
回廊の奥から、凜とした声がした。
(これは……この声は……)
西暦世界で、敢えて似た声を探すとしたら、それは俺の母親の声だろう。母親の声をうんと若くしたような声だった。
だが、この再生暦の世界では、もっとよく似た声の人物を俺は知っている。
「初めまして。と言うべきかな? ようこそ、MAGIの下僕たち。オレは、栗落花アキラだ」
そこには、二〇歳程度の外見年齢の女性が佇んでいた。俺達が着ているのとそっくりの、透明なスキンタイトスーツを着ており、両肩、豊かな胸と腰の部分には紅い装甲を着用していた。そして、おそろいの色の紅いブーツ。
背中には紅いマント。そして、燃えるような紅い髪には、白銀のティアラを着用していた。
(俺だ……!)
幼女として再生された俺が成長した姿、とでも言おうか。そいつは、俺が再生歴の世界でさんざん鏡などを見て知っている、新たな俺自身とそっくりで、但し年齢だけは、八歳の俺よりも一二歳ほど年齢が上だった。
そいつは、細いウェストに手を当て、俺を見て皮肉っぽく微笑む。
「……やあ、オレ。待っていたよ。特に君をね」
「……やあ、オレ。待っていたよ。特に君をね」