(PDFバージョン:SFsaienfikushon_inotakayuki)
僕の書いたSFが売れて、勤めを辞めてからどうしよう。東京を離れ、もっと環境のいいところで暮らせないかなぁ。
日本は寒いので、暖かいところがいいなぁ、というのが、第一の条件です。すこしは言葉が通じる方がいいので、英語圏か、以前住んでいたタイあたりが有力候補です。
でも、SFを書くだけではきっと生活ができないので、別の仕事も考えなければいけません。そうすると、就労ビザのいるタイよりは、ハワイ、しかも観光客もさほど多くなく、けれど生活には便利なマウイ島あたりがいいか、ということになります。
マウイと言えば、タマネギ。マウイオニオンです。甘くて、生でも食べられます。ブランドものなので、結構高く売れるんじゃないかと思います。
農作業は大変ですが、そのうちロボットがやってくれるようになるでしょう。開墾から種まき、雑草を取ったり、肥料や水をやったり、大変な仕事はロボット任せで、それを家のポーチから眺めます。
もちろん、膝の上には日本から連れて行った猫たちがいて、気が向くと何かを探しに農園に行ったり、どこでも好きな場所を掘ってトイレをしてきたり、きっとでっぷりと太った芋虫を咥えて帰って来ることでしょう。
収穫を迎えると、ロボットたちが、タマネギをサイズや品質にあわせて仕分けし、
「伊野INO マウイMAUI オニオンONION」と書かれた箱に詰め、世界中に発送してくれます。世界中のマーケットで、高品質のブランドタマネギとして高値で売れるでしょう。環太平洋全域のパシフィックリム三つ星レストランでは必ず使われる素材…。
順風満帆です。
農園を拡充し、新たにロボットを増やし、観光コースにしてオニオンレストランを併設してもいいかもしれません。
ところが、そんないいことばかりは続きません。
まず、変な虫がつきます。その虫がつくと、タマネギは酸っぱくなったり、苦くなったり、夜中に歌い出したりします。そんなタマネギを駆除するために、新しいロボットを導入しますが、そのロボットは従順ではありません。仕事をするふりをして農園に出ますが、結局、ネコと遊んでいます。
偽ブランド品にも悩まされそうです。安くて、品質の劣る「IMO MAUI ONION」のせいで、評判はがた落ちです。
そんなこんなで、農園の経営は傾きます。農園の経営を立て直すためには、資金が必要です。もちろん、銀行はお金を貸してくれないので、自分で稼ぐしかありません。
自分で稼ぐには、原点に立ち戻り、SFを書くしかありません。
マウイ島の農園で、ネコとロボットたちが繰り広げる波瀾万丈の物語。
菜園(サイエン)・フィクション。
こんなのはいかがでしょうか?
伊野隆之既刊
『樹環惑星
――ダイビング・オパリア――』