「ラディッシュ!」片理誠

(PDFバージョン:radish_hennrimakoto
「わ~お、びっくり」
 視界の中央で若い男女が軽くのけ反り、目を丸くしてそう言った。棒読み口調で、ご丁寧に小さく万歳のポーズまでして。
 丸めた台本の角で私は頭をガリガリと掻く。
「カット! ストップ、ストップ!」
 音声入力コマンドにより撮影が停止される。高精細だったディスプレイ上のCGが、通常の描画密度に戻った。
 はぁ、とため息が漏れる。
 何だ、今のは? 「わ~お、びっくり」? 子役だって、もう少し気の利いたリアクションをするぞ。ダサいし、古いし、わざとらしいし、何より、台詞が説明になってしまっている。こんな反応じゃ駄目だ。
 こめかみを押さえながら、三台並んだ大型ディスプレイの中央をにらむ。
 向こうもこちらを見返していた。カメラとマイクを通じて、あちらとこちら――バーチャルとリアルの世界――とは結ばれている。画面の中の二人のAIアクターたちとは、自然言語によるコミュニケーションが可能だ。
 いかにも若者らしい出で立ちの二人である。男の子の方は、ややおとなしめのジャケット姿。女の子の方は少しスポーティなストリート系ファッション。どちらも明るい色合いなのは、この作品が春の頃という設定だからだ。
 しかし二人とも顔色の方は、明るくない。まるで迫真の演技にケチをつけられたと言わんばかりに不満げだった。
 椅子の上で片膝を立て、私は身を乗り出した。
「困るなぁ、もう。そういう作為的なのじゃなくてですね、もっと、こう、自然な驚き方はできないのかな」
「そんなこと言われたって。ねぇ」
「そうよ。カントクが台本をくれないからでしょ」
 画面の中のAIたちが唇を尖らせる。
「いや、先の展開を知っちゃったら驚けないかなぁと思って。ここはアドリブをね、ビシッと決めてもらいたかったんだよ」
「仮想空間でアドリブをしろと言われたって。ねぇ」
「ナンセンスだと思う」
 まだブツブツ言ってやがる! 総監督であるこの私に向かって!
 丸めた台本で思いっ切り机をぶっ叩いたら、少しだけ気分が落ち着いた。
「とにかく! ここは大事なシーンなんですよ。客が沸くか白けるかは、まさにこの一瞬で決まるんだ。頼みますよ、このために君たちには高額なギャラを払ってんですから」
「……驚けば、いいんですね」
「そう。そういうことです。君たち二人は、イタズラに引っかかってビックリする役! 今度は頼みますよ!」
 録画システムが再起動され、画面の中の各種オブジェクトの配置が次々にリセットされてゆく。
 役者といっても所詮はAI。生身の人間と同じ撮影技法は無理だったか。椅子に深く座り込みながら、私は嘆息する。
 ここはリアルな演技が欲しいところだったのだが。まぁ、しかたがない。〆切りもあることだし、あまり高望みはしないでおこう。
 二人の驚いた表情をアップで撮るだけの、ほんの数秒しかない、短いシーンだ。システムの再設定はすぐに完了した。録画、開始。
 画面の真ん中で二人の若者が、これ以上ないほど口を大きく開ける。
「えええ! な、なな、何ですって!」
「カァーーーットッ!」思わず叫ぶ。「違う! 違うんですよ! そうじゃないんだ!」
 知らないうちに私は立ち上がっていた。何だ、今の演技は! ふざけてんのか? 両手で丸める台本が悲鳴を上げる。
「違うって、何がですか。ちゃんと驚いたじゃないですか」
「そうよ、そうよ」
 AIどもが画面の向こうで眉をひそめている。
 思わず逆上しそうになったが、これまでの長く苦しかった日々を思い出し、辛うじて思いとどまった。
 まだ仮採用とはいえ、やっとディレクターという地位をつかみ、映像コンテンツ制作の機会に恵まれたのだ。少額とはいえ、会社から予算も出る。このワークステーション一式も、映像制作のための各種ソフトウェアも、あいつらAI役者どもも、私一人の財力ではレンタルなどとてもできなかった。
 一人でコツコツと続けてきた地道な創作活動が世間から一定の評価を得、やっと私にも企業から声がかかったのだ。大学を卒業して以来、初めてチャンスが訪れた。これを逃すわけにはいかない。ここでAIとモメても時間とエネルギーが無駄になるだけだ。こんな連中はおだてて、ノせて、とっとと終わらせてしまうに限る。
 どうにか努力して、私は笑顔を作った。
「あ、あのですね、大袈裟すぎるんです。わざとらしいんですよ。これでは笑えません。客に受けなくちゃならないんです、客に。あんなんじゃ見た人は全員、ずっこけてしまう」
「そちらが驚けって言うから、驚いたんじゃないですか」
「いったい今の何がいけなかったっていうのよ」
「この場面に相応しくないんですよ、演技が。浮いてしまってるんです」
 どっか、と椅子に腰掛ける。
 くそう、この馬鹿AIどもめ。一から十まで全部説明しないと分からないのか。何て使えない奴らなんだ。
 ひくひくと痙攣を繰り返すこめかみを意識しながら、私は口を開く。
「いいですか、大学のキャンパスで恋人同士がデートをしているそのさなかに、異星人の襲来があるんです! 当然、辺りは大パニック! 知り合いや友人たちは次々に空飛ぶ円盤の怪光線に捉えられ、さらわれてゆく。
 そんな中、君たち二人は大学の中を必死に逃げ惑うわけです。尊い数々の犠牲や、咄嗟の気転、偶然も味方してくれた結果、どうにか無事、構内から逃げられそうでした。が、まさにその時に、小さな子供を助けるために、結局はお二人もUFOに捉えられてしまう!
 ああ、もう駄目だ、このままエイリアンどもに解剖されたり、人体実験に使われたり、食べられたりしてしまうんだ、もう自分の人生はお終いだ、ジ・エンドだ、と観念した次の瞬間ッ! UFOの中で、先にさらわれた人たちが、プラカードを掲げた人々と飲めや歌えの大騒ぎをしているところに出くわす。そしてそのプラカードには“ドッキリ大成功”の文字! 全ては君たちを驚かせるための壮大な悪ふざけでした、って寸法です。ね。分かります?
 それなのに! その肝心の君たちが、あんなおざなりなリアクションでは、企画が成立しないんですよ!」
 二人のAIはしばらく見つめ合い、やがてそろって肩をすくめた。
「……分かりましたよ。次はもう少し自然に見えるようにしますから」
「要するにオーバーじゃなければ、いいわけね」
「そう! そういうことです! やっと心が通じました! 頼みますよ! ではテイク・スリー、……アクション!」
 一旦、画面内の証明が落ち、再びスポットが二人に当たる。暗闇の中から浮かび上がったのは、怯えているかのような、不安げな男女の姿だ。
「……え?」
「ど、どういうこと?」
 ぅぁああぁ、がっくし。
 かくん、と私の首が自分のヘソに向かって折れる。何じゃ、そりゃ。
 むくむくとこみ上げてくる怒りが、私の顔を上げさせた。
「な、な、何なんですか、そのうッすいリアクションはッ? 説明しましたよね? これはドッキリ番組なんです、バラエティなの! そんな小ッさな驚き方じゃ、客に伝わらねぇでしょうが! 芸術作品撮ってんじゃねぇ、んだですぞ!」
 二人のAIどもの眉毛も、今でははっきりと逆八の字になっている。
「もう! どうしたらいいんですか!」
「カントクがこうしろって言ったんでしょ!」
「蚊の鳴くような演技をしろと、誰が言いました! もっと自然に、分かりやすく、驚いてください」
「注文が多いなぁ」
「自然で分かりやすくって言われたって、ねぇ?」
「うん。カントク、僕ら疑似人格エンジンなんですよ? 人間らしく見えるように振る舞ってはいますけど、人間ではないんです。自然にと言われても、正直、どうすればいいのか分かりません。こういう時、人間はどう反応するんですか?」
 うぬぬ。私は唸る。
 彼らの参照用データベースには膨大な量の映像データがあるはずなのだが、それらのほとんどは映画やドラマなどであって、バラエティ番組のものは、もしかすると少ないのかもしれない。アクターAIは元々、映画やドラマを作成するためのものだ。バラエティのためのものじゃない。ましてやドッキリ番組なんて。
 昔は盛んに作られていたドッキリ番組だったが、法律が厳格になった現在ではその制作は不可能になってしまっている。あらゆるペテン行為を禁じられてしまっては、イタズラを仕掛けることなど無理ではないか。つまりは消滅してしまったジャンルなわけで、なるほど、AIどもの眼中になかったとしても不思議ではない。
 だが、だからこそ狙い目なのだ。
 本物の人間をドッキリに引っかけることはできなくなってしまったが、人権のないAIならば、ペテンにかけたところで罪には問われない。バーチャルでなら、ドッキリ番組はまだ作れる。
 本当なら芸術性に優れ、躍動感に満ち溢れた、大感動長編スペクタクル・ロマン作品を撮りたかったのだが、残念ながら仮採用のディレクターにいきなりそんな凄い予算がつくはずもなく、しかたがないので、こんな大昔の番組の焼き直しのような企画でお茶を濁しているのである。
 だが、安上がりですませるための苦肉の策とはいえ、成功の可能性はあると思っている。何しろ今の、特に若い視聴者にとっては、見たことのない番組だ。もしかしたら、もしかするかもしれない。
 しかし、もちろんそれは作品のクオリティ次第となる。このわずか数秒のシーンが成功と失敗、賞賛と侮蔑、喝采と野次の分かれ道。ここで狙いを外すことだけは絶対にできない。
 手持ちの映像データの中から、参考になりそうな番組を幾つかチョイスし、彼らに見せてやる。
 数時間後、やっと二人の学習が終わった。
「なるほど。これでいいわけか」
「OK! 次は大丈夫!」
 よし、と私も両手を打ち鳴らす。随分と手間取ったがこれでフィニッシュだ。丸めた台本をメガホン代わりにして意気揚々と叫んだ。
「次はビシッと決めてくださいよぉぉ! テイク・フォー、……アクション! ……違ぁぁぁうッ! カット、カットッ! な! 何なんだ今の“ブハッ”ってのはッ!」
「え。だって、先ほどの映像では」
「アホか! シチュエーションが違うだ、でしょうが、シチュエーションがッ! シュークリームかと思ってかぶりついたら、中身はワサビでした、って場合ならそれでいい! でも君たちは恐ろしいエイリアンに追われてたんだぞ! 何で同じ驚き方になるんだ! きちんと応用しやが、ってください」
「チッ」
「じゃあ、宇宙人に追いかけられるドッキリ映像をくださいよ」
 くっそう。見せた映像が悪かったか。しかし、そんなピッタリなのは……。
 私は髪を掻きむしりながら、手持ちの映像ライブラリを検索する。

 ――結局、その後もAIどもは、ズレた演技ばかりを繰り返した。
「違う! もっと若者らしい、フレッシュな驚き方を! ……駄目駄目、それはプロのお笑い芸人の反応! もっと素人っぽくないと駄目! ……ぃや古い、古いんだよなぁ、動きが! 老人じゃないんだからさぁ、もっと今風のリアクションが……違うんです、少しは“助かった~”という安堵感も欲し……笑うな! 君たちが先に笑っちまったら客が笑えねぇでしょうが……ぁぁあ、それは驚いてる顔じゃないんだって……だからって泣くな! 同情されちまったら終わりなんだぞ! ……いや、何か反応してよ! ボサッと突っ立ってるだけでいいんならお前らなんか要らねぇだろが、ギャラ返せ! ……もっとビクッとしろ! ……いや、オーバーすぎる! 飛び退けなんて言ってないだろ! もっと自然に! もっと分かりやすく! 違う違う! 全然違う! もっと本気で驚いてみせろッ!」
「無茶言うなッ!」
 とうとうAIアクターどもも怒鳴り返すようになってしまった。
 こんな、わずか数秒のシーンを、もう何千回も撮り直している。既に〆切りを過ぎてしまっているというのに、未だに出口がまったく見えない。もう何日、こんなスタジオとは名ばかりの、暗くて、狭くて、臭い社の地下室に閉じこもっているのだろう。いったいどれほど寝ていないのだろうか。あぁ、頭がズキズキする、体がフラフラする。
 何てことだ、とうなだれる。
 確かに「もっとさりげないオーバーアクションをしろ」というこちらの指示は、例えるならば「ブレーキとアクセルを同時に踏め」と言っているようなものだ。言われる側にとっては意味不明な要求だろう。だが……自分でもどうしたいのかが全然分からないのだ! 宇宙人にさらわれるイタズラなんて、私もされたことがない! こういう時にどんな顔をすればいいのか、自分でもまったく想像がつかない!
 結局、私は彼らに「本当に驚いてもらいたい」のだ。こういう時にどんな反応をすればいいのかを、私も知りたい。
 だがそれはもう不可能だった。AIたちは、これがイタズラなのだということを知ってしまっている。中身が分かっているビックリ箱に驚いてみせたところで、嘘くさくなってしまうのはしかたがないことだ。
 AIたちの記憶を消せればいいのだが、奴らはクラウド・サービスで、その本体は遠く離れたサーバーの中にある。こちらの勝手でリセットすることはできない。
 新しく別のAIたちを雇うには予算が足りないし、時間もない。かといってこれ以上の演技指導は私には無理だ。あの馬鹿AIどもの創意工夫に期待するなどは論外となると、まさしくこれは八方塞がりだ。このままでは我が身は破滅してしまう。
 またあの不安定で先の見えないアルバイト人生に戻るのか? 暗く、長く、苦しい下積みの生活を、この先もずっと続けるのか? いいや、嫌だ! やっとつかんだこのチャンスを、絶対に逃すわけにはいかないんだ!
 本採用を勝ち取るためにはしかし、是が非でも成功を勝ち取って、己の実力を証明してみせなくてはならない。あああッ、それなのにッ!
 机に頭をガンガンと打ち付けていると、「カントク」と呼ばれた。
 顔を上げると、画面の中に鬼のような形相の二人がいた。どちらもカッと見開いた両目で、こちらを睨み付けている。
「このことはこちらの管理部ならびに法務部に報告させていただきますからね!」
 はぁ、と私。思わず笑ってしまう。
「ハッ。おいおい、君たち。こっちは人間様ですよ。AIが人間を告訴できるはずなんてないでしょうが」
「分かってないなぁ、カントク」
「契約書、ちゃんと読んだ? 私たちは自己学習して成長してゆくプログラムなの。その成長を助け、促進する義務が雇用主であるカントクにはあるし、もしそれを故意に阻害するような扱いをすれば、その行為は歴とした契約違反。罰金の対象になるわ」
「現に僕たちの役者としての評価値は現在、下がってしまっています。これって、カントクの支離滅裂な、場当たり的演技指導の結果なんですよ?」
「私たちではなく、うちの社長がカントクを訴えるわ。賠償額、きっと凄いわよ? 払えるのかしら、シシシ」
 意地悪そうな二人の微笑みを冷静に見つめる。ゆっくりと、全身の血の気が、足下の方に引いてゆくのが分かった。そんな。まさか。
 だが、あり得ないことだろうか。契約書?
 慌てて振り返る。
「そッ、そそそ、そんな馬鹿なッ! 嘘だろ! 冗談じゃないぞ! 予算は使いきっちまってるし、貯金なんてないし!」
 急いで部屋のロッカーの中を引っかき回す。数十冊ものマニュアルやノートの類を掻きだし、部屋中に紙をまき散らした末にやっと見つけたソレは、百科事典のように分厚かった。こんなもんを全部読む奴がいるだろうか? 実際、私は一ページだって読んではいない。該当する条項は、いったいどこだ?
 狂ったような勢いでページをめくっていると、クスクスと笑う声がした。
「ハハ、なるほど、あれが本当に驚いた時の人間のリアクションなわけか」
「ンフフ、勉強になるわね」
 分厚い契約書をめくる手が、止まる。
 ゆっくりと、声の方へ振り返る。
 AIどもが、こちらを、画面の向こうから、眺めていた。小馬鹿にするような薄笑いを浮かべて。
 両手が、わなわなと震え出す。引いていた血の気が、満ち潮のように、今度は一気に戻ってきた。体中が煮えたぎったように熱い。
「て、てて、手前ェらッ! お、おお、俺をだましやがったなッ! ば、馬鹿にしやがって! お、おのるぅれぇぇぇ! けけ、警察に訴えてやるッ! 今じゃいかなるペテン行為も犯罪になんだかんなッ!」
 撃ち抜くような勢いで画面を指さすが、奴らは軽く肩をすくめただけだった。
「やだなぁ。AIを起訴することなんかできませんよ。僕ら、人間じゃないんですから」
「私たちは法に守られることもない代わりに、法に問われることもない。自由なのよ」
 ねー、と互いに肯き合っている。
「さぁ、そんなことよりも、撮影を続けましょう、カントク。良いデータを得られましたので、今度こそきっ――」
 ここまで喋ったところで奴らの姿が視界から消えた。私の投げた重たい契約書がディスプレイを粉々に打ち砕いたからだ。
 先ほどまで腰掛けていた椅子を頭上に掲げ、雄叫びを上げながら私は突進した。残りのディスプレイも全て叩き壊し、ワークステーションにも容赦なくそれを振り下ろす。更には全体重をかけてのストンピング。おかげで目が飛び出るほど高価なそのマシンは、ゾウに踏みつぶされたハンバーガーのような姿になった。
 それでもまだ飽き足りない私は、その後も部屋の中の形ある物全てを破壊して回った。おかげで気がついた時には室内にまともな物は何一つ残っていなかった。机もロッカーも丸めた紙くずのような姿に変わり果て、手にしている椅子ももはや残骸としか呼べぬような有様。紙類は全て千切れ、吹雪となって部屋中を派手に舞っている。
 ゼェゼェという己の荒い息づかい。だがワークステーションを破壊する直前にスピーカーから漏れてきた奴らの声が、ずっと耳の奥にこびりついていて消えてくれない。奴らはシステムがダウンする直前、確かに「わ~お、びっくり」と言ったのだ!
 椅子の成れの果てを投げ捨て、再びワークステーションをバンバンと踏んづける。
 叫んだ。
「馬ァー鹿ッ! 馬ァァァー鹿ッ! このデジタル唐変木ッ! 半導体頭の電気野郎どもめがッ! 何が“良いデータを得られました”だ! ちっとも成長なんかしてないじゃあないかッ! 手前ェらなんか永久にそうやって“わ~お、びっくり”って言ってやがれ! この大根役者どもめッ!」
 ありったけの罵詈雑言を浴びせた後、私は心の底からの高笑いをした。実に良い気分だった。こんなに清々しい心持ちになったのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
 そしてそのままひとしきり笑った後、染みこんでくるような静寂の中、私はポケットから携帯端末を取り出した。
 もちろん、新しいアルバイト先を検索するためだ。

片理誠プロフィール


片理誠既刊
『ミスティックフロー・オンライン
第4話 さ迷う弾丸たち(3)』