「金子泰子ソロ演奏と剛太郎即興オブジェ」(総社アートハウス(岡山県総社市))関 竜司

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 2019年1月20日(日)、総社アートハウスで「金子泰子ソロ演奏と剛太郎即興オブジェ」と題する演奏会が行われた。
 総社アートハウスは、建築家でアーティストでもある松本剛太郎が、岡山県吉備郡総社町の初代町長だった池上家の旧宅を借りうけ、自身と友人の堀尾貞治の作品(「妙好人伝」)を常設展示し、時にはアートイベント等を行う場として改装した家だ。
 松本剛太郎のアート活動は多岐に渡るが、その一つに廃物を利用したオブジェの制作がある。特に出張先でみつけた木型の廃材にひかれた松本は、それらをもらい受け、イスラム建築に似た多数のオブジェを制作している。
 廃物の利用は、剛太郎が追いかけ続けているテーマの一つだ。剛太郎は好んでピラミッドのオブジェを作るが、ピラミッド本体は備前焼で作られたものだが、その周囲の建物は捨てられたコンデンサやマイクロチップで作られている。
「捨てられてあるもの、燃やされてしまいそうなものに出会うとそれを放っておけない。なんでもない、見過ごされている物にふと<建築>を思うことがあるからです」
 価値がないと思われているものをアートという形で再生させ、息吹かせてみたい。総社アートハウスは剛太郎によって再生されたオブジェや作品で満ち溢れている。

〔松本のオブジェたち〕

 トロンボーン奏者の金子泰子は、剛太郎のオブジェに共鳴し、ぜひオブジェを見ながら即興演奏をしてみたいと考え実現したのが、今回の演奏会だった。
「ある~小さな街で~丸い形をした建物がありました~♪」
 金子の演奏はエレクトーンで伴奏しながら物語をつむぐところから始まった。
「あなたはどこから来たの~? それを聞いても分からない~♪」
 金子の即興演奏とは単なる演奏ではなく、金子の一人舞台(一人劇場)だったのだ。金子は自分の声で風を吹かせたり、タンバリンやエレクトーンの音をアンプに記憶させながら、剛太郎の建物に様々な登場人物を出現させ、物語を展開していった。一人で複数の音をあやつる様は、さながら音の魔術師のようだった。
 物に語りかけ、モノに語らせる。トロンボーンの柔らかい音色とオブジェを照らす小さなあかりが、物語世界を引き立たせていた。

〔パフォーマンスの様子〕

 こうした物語世界が生まれてきた背景には、かつて剛太郎が神戸を拠点に活動していたことも大きい。明治以降、貿易港として栄え、外国の文化との接触も多かった神戸には、小さな物語・童謡(メルヘン)をめでる文化が育まれている。
 北野の異人街を歩けば、絵本でしか見たことのない洋館が立ち並んでいるし、ケーニヒスクローネのような高級菓子店で洋菓子をたしなむ習慣も残っている。異国情緒あふれるメルヘンの世界を体感できる稀有な街として神戸はある。そうした神戸のもつ異国性・寓話性に、剛太郎のオブジェや金子のパフォーマンスは根差しているように筆者には思えた。ある意味、それは村上春樹や上田早夕里の文学ともつながっているかもしれない。
「文学とは人間的感覚による世界の解釈であり、人間らしさを社会に再生させ、社会の人間化を推し進めることだ」という加藤周一の言葉を久しぶりに思い出した。

(2019・1・28)

(リンク)
 金子泰子ホームページ
  https://yasukokaneko.jimdofree.com/
  https://www.facebook.com/yasuko.kaneko.777

 「故郷の空き家を活用、総社アートハウスの挑戦」
  http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8917

関竜司プロフィール


関竜司 参加作品
『しずおかの文化新書9
しずおかSF 異次元への扉
~SF作品に見る魅惑の静岡県~』