(紹介文PDFバージョン:jisatunoyokujitushoukai_okawadaakira)
〈山野浩一未収録小説集〉
前回は原稿用紙四十八枚の中編「死滅世代」をお目にかけましたが、いかがでしたでしょうか。
今回はうって変わって、ショートショートをお届けしたいと思います。こちらから読むのもいいですね。
今回お届けする山野浩一氏の単行本未収録小説集は、「話の特集」(話の特集)一九七三年三月号に掲載された「自殺の翌日」をお届けします。プラトンの対話篇を皮肉ったような話の運び、切り詰められたロジック、全開のブラックユーモアが冴えていますね。
面白いのは、この作品が「話の特集」当該号の表紙下部に全文が収まるようにレイアウトされていたことです。そのため、改行は完全に省略されています。
山野浩一氏ご自身も、こうしたショートショートには愛着があった模様。「ピース、ホープ、ハイライト、セブンスター、いこいなど」が『鳥はいまどこを飛ぶか』(ハヤカワ文庫JA)に収められています。
ちなみに翌「話の特集」一九七三年四月号には、小松左京のショートショート「オーバー・ラン」が掲載されており、レイアウトは若干異なるものの、これも表紙に全文が収められていました。
ただし採録にあたっては、読者の便宜を考え、適宜改行を加えました。
参考までに、表紙の画像をご覧ください(私の手元にあるものなので白黒コピーですが、表紙は本来フルカラーでした)。
「話の特集」というユニークな雑誌とその文化圏については、矢崎泰久『「話の特集」と仲間たち』(新潮社)に詳しく、あわせて是非ご確認を。
「SF Prologue Wave」採録にあたって、文字起こし、企画・監修ともに岡和田晃が担当しました。(岡和田晃)
(PDFバージョン:jisatunoyokujitu_yamanokouiti)
「なぜあなたは自殺したのかね?」
「自殺なんかしていません。ごらんのように生きています」
「では昨夜このビルから飛び降りたのはあなたではないのかね」
「もちろんです。私は飛び降りていません」
「だが自殺死体があなたのものであることは、肉体的特徴と数人の証言によって証明されている」
「でも自殺した人間がこうして生きているはずはないでしょう」
「その通り、だから問題なのだ。最初はあなたを偽物かと考えたが、そうではないことも証明されている。むしろあなたは自分というものについて、何か考えちがいをしているのではないかね」
「でも、私がこうして生きている以上、自殺者を私ではないと考えるべきでしょう」
「むろん考えたよ。だが自殺者があなただという証拠はいくらでもあって、全く疑いようのないことなのだ。むしろあなたの現在を疑ったほうがつじつまが合う。どうかね。もう一度ゆっくり自分の存在について考え直してみる気はないかね?」
山野浩一既刊
『鳥はいまどこを飛ぶか 山野浩一傑作選 Kindle版 』
『人者の空 山野浩一傑作選 Kindle版 』