『幻視者のためのホラー&ダーク・ファンタジー専門誌「ナイトランド・クォータリー」Vol.6「奇妙な味の物語」掲載、ケン・リュウ「しろたえの袖(スリーヴ)――拝啓、紀貫之どの」&「トランスヒューマン時代の太陽系――『エクリプス・フェイズ』とシェアードワールド」』

小説翻訳:待兼音二郎(『エクリプス・フェイズ』翻訳チーム) 監修&解説:岡和田晃(『エクリプス・フェイズ』翻訳チーム)

 岡和田晃

 「ナイトランド・クォータリー」(アトリエサード/書苑新社)は、幻視者のためのホラー&ダークファンタジー専門誌と銘打っており、前身たる「ナイトランド誌」(トライデントハウス)のコンセプトを引き継ぎ、海外の優れた幻想文学やSFを精力的に日本へ翻訳・紹介しています。

 版元のアトリエサード社は、『ヴァンパイア:ザ・マスカレード』や『ヒーローウォーズ』等、海外の会話型RPGを手がけていたこともあり、「SF Prologue Wave」の「『エクリプス・フェイズ』の英語版アンソロジー小説が発売開始!」という告知が編集者の目にとまったことから、このたび、アンソロジー「Eclipse Phase: After the Fall: The Anthology of Transhuman Survival & Horror」から、巻頭に収められたケン・リュウの『エクリプス・フェイズ』小説「White Hempen Sleeves」の翻訳紹介が実現しました。

 ケン・リュウはヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞をはじめ、名だたるSF賞を総ナメにしている実力派作家。ベストセラー『紙の動物園』所収の「よい狩りを」が、第47回星雲賞海外短編部門に輝いたことでも記憶に新しいですね。詳しくは「ナイトランド・クォータリー」Vol.6に掲載された詳細をきわめる「ケン・リュウ書誌」をご参照ください。Twitter小説アンソロジーへのほんのちょっとした寄稿も含んだ完全版で、これだけ網羅的なものはちょっと海外にもないかもしれません。

 翻訳の待兼音二郎氏曰く、

 作品のテーマはずばり、義体(¥¥るび:モーフ)の乗り換えと分岐体(¥¥るび:フォーク)作成。有名作家がゲームのアンソロジーに参加というと、世界観の上っ面をなぞるばかりでそのゲームの小説としての必然性にとぼしい作品をつい想像してしまいがちですが、なかなかどうして、EPの設定の核心部分に踏み込んだ作品です。そしてそのゲーム内設定がストーリーで重要なカギを握ってもいて、練りに練ったな~という印象です。

(……)

 ところでこの短篇、原題は上に挙げた通りですが、邦題は「しろたえの袖(¥¥るび:スリーヴ)――拝啓、紀貫之どの」としました。前半は原題の通りですが、それではあまりにそっけないと考えて後半を追記した次第です。

 SF短編に紀貫之? と思われたかもしれません。『紙の動物園』所収の「もののあはれ」にもあるように、ケン・リュウは日本の古典文学にも造詣の深い作家なのですが、この短篇の末尾にも紀貫之による古今和歌集の春歌の引用があります。なぜこの歌が? なぜ紀貫之が? と読者の頭が疑問符でいっぱいになるところなのですが、原文を何度も読み込んで自分なりにたどり着いた解釈があります。

(「鞭打苦行のThrasher」より)

 とのこと。
 ふだんRPGに馴染みがない読者のために、「しろたえの袖(スリーヴ)」ではレイアウトが変わっており、専門用語は同じページ内にて注釈という形で解説されておりますので、安心して読み進めることができます。SFファンに『エクリプス・フェイズ』世界を紹介するのにも役に立ちそうです。
 片理誠編集長の感想もなかなか興味深いものだと思います。

 解説「トランスヒューマン時代の太陽系――『エクリプス・フェイズ』とシェアードワールド」は、『エクリプス・フェイズ』が採用している「スペースオペラ&サイバーパンク」という枠組みが、どのあたりに由来するのかを解説していく試みです。
 タイトルはスコット・ブカートマン「ポストヒューマン時代の太陽系」へのオマージュ。SF評論の文脈から見た『エクリプス・フェイズ』を意識しました。
 ブルース・スターリングが『蝉の女王』や『スキズマトリックス』で描いたサイバーパンクには多様な相(かたち)があり、そこで模索されたポストヒューマニズムはグレッグ・イーガンなど現代SFの基本的な枠組みにもなっています。

 また、「シェアードワールドとしての『エクリプス・フェイズ』」に記した内容を、コンパクトかつ掘り下げてRPGシェアードワールド小説史を素描してみました。もちろん「SF Prologue Wave」の『エクリプス・フェイズ』企画にも言及しています。
 安田均氏のこちらのツィートも内容のヒントになるかも……。

 「SF Prologue Wave」の小説を読んだら、ぜひ、実際に『エクリプス・フェイズ』世界に飛び込んでみましょう!
 きっと、あなたのクリエイティヴィティが、さらに刺激されること、間違いありません。

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