「【伊藤計劃ライフヒストリー】(第2回)」小山由美

 ライターの小山由美氏が「ちいき新聞」に寄稿なさった伊藤計劃会員に関する記事を、資料としてSF Prologue Waveにアーカイビングさせていただく試み、その第2回となります。『屍者の帝国』の受賞は、地元へどのように報道されたのでしょうか。(岡和田晃)


(PDFバージョン:itoukeikakulh2_koyamayumi
<没後も衰えぬ筆と、意志を継ぐ人々の支え 日本SF大賞特別賞受賞 故・伊藤計劃さん(八千代市出身)>

 3月1日、都内で行われた徳間文芸賞贈賞式にて、伊藤計劃・円城塔による共著「屍者の帝国」が第33回日本SF大賞特別賞を受賞した。伊藤さんが没して4年。彼が遺した足跡に、また大きな証(あかし)が刻まれた。

 東京生まれの伊藤さんはぜんそく治療のため、3歳から八千代市民に。学齢期は漫画少年、大学卒業後はマスコミ関係の仕事に励む。しかし若くしてがんを発病。以来入退院を繰り返しながら膨大な量の映画鑑賞、読書、そして映画やゲームの評論家としても活躍した。
 2007年、SF長編小説「虐殺器官」で作家デビュー。2009年、肺がんのため逝去。衰弱と戦いながらベッドで書き上げた「ハーモニー」は没後、故人として初めて日本SF大賞を受賞したほか、日本人初の快挙となるアメリカのフィリップ・K・ディック記念特別賞にも選ばれた。

 今回受賞した「屍者の帝国」は、伊藤さんの未完原稿を盟友で芥川賞作家の円城塔さんがバトンを受け取るかたちで書き上げた一冊。故人との共著という特殊な成立が選者の間で議論になったというが、「生」をテーマにした巧みな構成、魅力などが高く評価され、特別賞受賞となった。
 選考委員の宮部みゆきさんは伊藤さんの早逝を惜しみつつ、「この作品には円城さんの、計劃さんへの別れの言葉が込められていると感じました。彼を失って喪失感を持ったたくさんの人たちのためつらい作業をしてくれた円城さんにお礼が言いたい」と静かに語った。
 伊藤さんに代わって壇上に上がった父・進一さんは「まさに命と向き合いながら生きた計劃だからこそ、彼の作品には”生きることとは”との問いが常にあった。そんな計劃を理解し、書き上げてくれた円城さんに感謝しています」と、目を潤ませた。
 「屍者の帝国」は最新のSF小説人気ランキングでも1位を獲得するなど、SFファンの間で注目度が高く、それだけに彗星のように逝った伊藤さんの才能を惜しむ声は後を絶たない。だが作品の中に生き続ける彼は、いつまでもその彩りを失うことはないだろう。

(地域新聞社発行 ちいき新聞 八千代台版 2013年4月12日号)

小山由美プロフィール


小山由美既刊(共著)
『子どもとでかける千葉あそび場ガイド』