「ゆうやけ」東條慎生(画・寮美千子)


(PDFバージョン:yuuyake_toujyousinnsei

 石けりあそびにあきたとき、きがつけば、ボクはどこにいるのか、わかりません。
 石けりあそびにむちゅうになって、しらないばしょに、きてしまったようです。
 空がオレンジ色になっていました。そろそろ、かえるじかんです。
 けれども、道がわかりません。
 道をききたくても、だれもいません。
 かべばっかりで、せまい道が、まっすぐ、まっすぐ、つづいています。
 むこうから、人のこえがしています。
 道をあるいていくと、だんだん人のこえが、大きくなってきました。
 
 しょうてんがいが、そこにありました。
 たくさんの人がいて、たくさんのものがあって、たくさんのこえがきこえます。
 でも、そこにはいつもとちがうものが、ありました。
 いいえ、あったのではなく、なかったのです。
 しょうてんがいをあるく人たちには、みんな、あたまがないのです。
 くびからしたしかない人たちが、たくさん、あるいてます。
 
 ボクはこわくなって、くるりとまわれ右をすると、いちもくさんに、かけだしました。
 ところが、まえからも、くびなし人が、あるいてきました。
 そのとき、ひだりのほうに、小さなまがりかどが、みえました。
 ボクは、そのかどをまがりました。
 すると、いきなり、だれかにぶつかってしまいました。
 「おやおや、あぶないじゃないか」
 せびろをきたおとこの人はいいました。
「おじさん、たいへんなんだ。いまそこにね……」
 そういいかけると、おじさんはこういったのです。
「おや、きみはなんで、あたまがついているのかな?」
 みあげると、おじさんにもあたまがありません。
 もうだめだ、とおもいました。
 たぶん、ひあぶりとか、はりのやまをあるかされたりとか、させられます。
 まちがいありません。おかあさんがいってました。
 でも、そのおじさんは、やさしいこえでいいました。
「よし、おじさんがとってあげよう。このままだと、いろいろまずいからね」
「え、でも、あたまがないとこまります」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。さあ」
 おじさんは、ボクのあたまをポンっとはずしてくれました。
「どうだい。ちっともこまらないだろう」
 おじさんのいうとおり、ぜんぜんだいじょうぶでした。
 おじさんは、いいひとです。

「ありがとう、おじさん」
 ボクはうれしくなりました。
 でも、これだとおうちにかえれません。くびなしおばけだと、おもわれてしまいます。
「おじさん、ボク、おうちにかえりたいんだ。あたまをもとにもどしてよ」
 するとおじさんはすこし、おどろいたようすで、こういいました。
「おや、ちょっとそれはむずかしいなぁ。ところで、おうちはどこなんだい?」
「にしまちの3ちょうめ」
「それは、いよいよむずかしいなぁ。そこにいくには、あしをはずさないとだめなんだ」
「じゃあ、あたまをもどして、あしをはずしてください」
 ボクはひっしに、おじさんにたのみました
「うーん、それはできないんだよ。あたまをはずしたら、もう、もどせないんだ。あしも、はずそうとしてはずれるもんじゃないからねぇ」
「そんなの、ひどいよ。ボクのあたまを、かえしてください」
 ボクは、おじさんから、ボクのあたまをとりかえしました。じぶんのくびに、くっつけてみましたが、いくらやっても、もとにもどりません。
「あっ」
 てがすべって、あたまがころころと、ころがっていきました。
 おじさんがおいかけて、ひろってくれました。
「だから、もとにはもどせないといったろう」
「おじさん、ボク、どうしたらいいの?」
 おじさんはすごく、こまったような、こえをだしました。
「おうちにはかえれないんだ。ここから、あそこにいくには、とおすぎるんだ」
 ボクは、なきだしてしまいました。でも、かおがないので、なみだはでません。
 でも、おじさんがもっている、ボクのあたまのめからは、なみだがでています。

 あたまのないこどもたちが、ボクのそばに、ちかよってきていました。
 その子たちは、ボクたちといっしょにあそぼうと、さそっています。
「ああ、この子とあそんでやってくれ。この子はまだここにきたばかりなんだ」
「わかった。ねえ、きみ、あっちであそぼうよ!」
「さあ、みんなとあそんでごらん」
 おじさんは、そういって、ボクのせなかをおしました。
 ボクは、みんなにつれられて、くさのはえたあきちにつきました。
 おじさんも、ついてきてくれました。
 あきちでは、あたまのないこどもたちが、たのしそうにあそんでいます。
 まんなかに、大きな大きな木がありました。
 木には、大きな大きな実が、たくさんぶらさがっています。
 よくみると、大きな木の実はみんな、あたまでした。
 どれも、かなしそうなかおをしています。
 なかには、かなしさがきえて、うっすらわらいだしそうなかおがありました。

 おじさんは、ボクからはずしたあたまをとりだしました。
 そして、木にボクのあたまをぶらさげました。
 ボクのあたまは、とてもかなしそうなかおをしています。おうちにかえりたいと、泣いています。
「あのきみのかおがね、かなしそうななきがおから、たのしいえがおになったとき、あしがはずれて、あたまがもとにもどって、おうちにかえれるようになるよ」
 おじさんは、やさしくゆっくりとボクにいいました。
「さあ、あそんでおいで。たのしくゆかいにあそんでいれば、あの木のみんなのかおが、わらいだすから」
 みんながボクをさそいます。ボクもみんなといっしょにかけだしました。

 空はいつまでも、ゆうがたのままです。
 もう、どれくらいじかんがたったのか、わかりません。
 ずっと、あそんでいます。みんなとあそんでいます。
 あそんでいると、かなしいきもちを、すこしだけわすれます。
 すると、ボクのかおがすこし、あかるくなった気がします。
 おうちにかえる日をまちながら、ボクと、みんなはあそびます。
 木は、おおきなひかげをつくっています。
 空があかくなっています。くもがオレンジ色にひかっています。
 空はいつまでも、ゆうがたのままです。
 もう、どれくらいじかんがたったのか、わかりません。
 ずっと、あそんでいます。みんなと、あそんでいます……


[初出(絵を含む)] 「ぱろる」12号(パロル舎、2001)

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東條慎生参加作品
『北の想像力
《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』