「井原西鶴が平成に飛ばされて好色シリーズというラノベを書いています。」木本雅彦


(PDFバージョン:iharasaikakuga_kimotomasahiko

 どうも、西鶴です。
 平成時代というところに飛ばされてきたのですが、することがないので文章を書きました。「小説家になっちゃいな」というサイトにアップロードして公開していたら、B芸社のSさんという編集者の目にとまって文学を書かないかと言われたのですが、西鶴としてはラノベのほうがいいかなって思って、ラノベ書いてます。
 西鶴、そういう路線だから。
 西鶴は西鶴のことを西鶴って呼ぶけれど、それは何ていうの? ポリシー?
 それとも、シーポリ?
 あ、ごめんごめん。平成の時代になって、業界用語はないよね。
 めんご、めんご。
 というわけで、西鶴が書いているラノベについて話そうと思います。
 西鶴が書いているラノベ、それは「好色シリーズ」って言うんだ。内容? そりゃ、萌え萌えだよ。ああ、分かっている、分かっている。「萌え」自体がもう古いって言うんだろう? 時代錯誤って言うんだろう?
 是非もがな。
 ただね、西鶴のラノベはちょっと違う。西鶴の萌えは、そこらの萌えとは、スケールが違う。
 アルファにしてオメガって言葉を知っているよね? ギリシャの偉い哲学者が言った言葉だ。嘘だけど。
 今では平成で暮らす西鶴だけど、江戸時代にいたころ書いていた好色シリーズってのがあって、それは何ていうかな、日本最古のラノベって言えばいいのかな。西鶴としては、そういうレッテルは好きじゃないし、こう見えても勉強しているから、初期のコバルトやソノラマにもちゃんと敬意は持っているんだ。
 それでもね。
 西鶴@江戸時代のラノベは、いわゆるエポックメイキングであったことを自負してはいるんだ。単なる寸止めエロじゃなくて、描写力とか観察力とかね。
 え? 寸止めしていないって?
 イエス! YOU、いいところに気付いたね。西鶴は、寸止め、しない。最後まで、いっちゃう。そしてイッちゃう。ワオ!
 それでも、西鶴の作品は、ラノベ。ラノベであることを、裏切らない。それがアルファにしてオメガの役割だから。
 でもね、メジャーに憧れがないかっていうと、嘘になるんだ。H書房の話を断ってしまったけど、西鶴、あれでよかったのかなってたまに思う。それが西鶴のやりかた、だとしてもね。
 平成の西鶴としては、やっぱり最先端を走りたいわけよ。エッジ・オブ・ザ・メディア的な感覚。維持していきたいね。
 西鶴の感覚だと、今のラノベの先端は「小説家になっちゃいな」だと思う。
 このサイトは、誰でも無料で登録して小説を投稿できる。もちろん読むほうも無料だ。
 確かにね、有象無象ってことはある。玉石混淆とか、クソミソ一緒とか。
 どんなもんでもさ、最初はクソミソだったと思うんだよ。それでも、クソが好きな人にとっては天国だし、ミソが好きな人にとっても天国で、そういうカオスな状況が、西鶴、嫌いじゃない。否定しないよ。
 UGC(利用者生成型コンテンツ)とかCGM(消費者生成型メディア)ってあるじゃない? それが今の平成の最先端だと、西鶴は思う。
 ラノベに関して、「なっちゃいな」サイトで起こっていることは、まさにこの、UCGとかCGMなんだよね。みんながラノベを書いて、みんなで読む。そこの垣根は大したことがない。
 すげえ、カオス。だけど、エキサイティング。
 更に言うと、アマチュアとプロの垣根さえ、大したことがない。現に「なっちゃいな」からプロデビューした奴もいるし、プロが「なっちゃいな」で書くこともある。
 そもそも、毎月百本近いラノベが刊行されている世の中じゃあ、商業とアマチュア全部ひっくるめて、クソミソ一緒なわけ。
 ロックンロールだね。
 そうなると、西鶴の考え方としては、軽いフットワーク、これにつきる。
 江戸時代の西鶴は、とにかく楽しく生きたかった。奔放に生きたかったんだな。なんかに拘束されるなんて、まっぴら御免。当然平成時代の西鶴も、そういう風に生きてみたいんだけど、色々としがらみが多いんだよね。
 だけどさ。しがらみなんか気にしている西鶴は、西鶴っぽくないじゃん? ていうか、西鶴的であることが西鶴のアイデンティティだからね、そこから外れるのは、ちょっと西鶴、困る。
 何が言いたいかっていうところまで、ようやく到達したかな。
 実は、先日「なっちゃいな」経由で出版社からメールを貰ったんだ。西鶴の、好色シリーズを出版したいんだって。
 キテるね。波がキテる。
 B芸社のSさんには悪いけどさ、やっぱラノベなんだよ、西鶴としては。
 そして、アマチュアイズムに拘ることを、西鶴はしない。同じように、プロにも拘らないと思うけどね。
 そういうフットワークでやっていきたいと思う。
 だから西鶴は、出版社からのオファーを受けることにした。


 どうも、西鶴です。
 西鶴の最初の商業ラノベ出版は、「好色鬱ボーイ」になりました。今書いている分だけで、文庫にして五巻くらいかな。
「好色鬱ボーイ」ってのは、好色シリーズの中でも読者からのシンパシーが半端なかった作品だね。鬱病の少年が、好色になって元気を取り戻そうとするんだけど、抗鬱剤の副作用で立つものも立たなくなって、しょうがないからバイアグラとかシアリスとかその手の薬で好色道を極めるというストーリーなんだ。
 やっぱりドラッグだね。西鶴、ドラッグ大好きだ。
 ラノベ読者の中には、心を病んでいる人が多いからね。主人公の気持ちがよく分かりますっていう感想が多かったよ。そういう感想に対して、西鶴は丁寧に返事をしたんだ。バイアグラの個人輸入は、まがい物も多いから気をつけなよって。その手の薬が欲しければ、その手の病院に行けば普通に手に入る。
 西鶴が江戸時代にいたころは、ゴボウやニンジンや自然薯なんかでばっちりだったけれど、平成の若者の病はそうとう根が深いね。そういやゴボウもニンジンも自然薯も全部根っこだ。こいつは、何かの因果関係でもあるのかな。
 最近の西鶴のスタイルとしては、「なっちゃいなよ」で初稿を書いて、それを手直ししつつ膨らませたものを商業で出す感じかな。今は四シリーズを並行して書いている。西鶴は筆が早いからね、このくらいはできちゃうんだ。
 さあて、ね。
 こんな西鶴が、昨今の流行なんか、語っちゃおうかな。
 みんなは西鶴の意見に反発するかもしれない。それでいいんだ。レジスタンス、またはリベリオンの精神。若さって、そうじゃないとね。
 西鶴の意見は西鶴だけが思っていることとして、聞いて欲しい。そして反論があったら、ネットにあげて欲しい。「なっちゃいなよ」でコメントしてくれてもいい。
 誰だって、声をあげられる。それこそが、CGMやUGCの世界の醍醐味だと、西鶴は思う。
 流行の話だったね。
 CGM業界の流行、そして最先端は、「パイオニア・アバター」シリーズだと思う。こいつは、既存の音声合成、歌声構成、人工対話システム、疑似人工知能なんかに、キャラクターを宿らせたシリーズだ。
 ひとつのキャラはひとつの機能しか持っていないが、これが逆にプラスポイントになっている。歌うだけのアバター、話すだけのアバター、知的に振る舞うだけのアバターなんかを組み合わせて、ユーザは作品を作るんだ。そしてアバターという名前の通り、そのキャラの背後に色々な情報が隠されていて、しかもそれ自体がユーザの手によってどんどん膨らんでいく。
 ラノベについても、このシリーズをモチーフにした作品が、ものすごく売れているし、流行っている。
 当然、西鶴もウォッチしているし、アバターを何種類か持っている。お気に入りは、対話音声合成機能を持つけれど、引っ込み思案でなかなか話せない文学少女という設定の、「与謝野アキ」だね。なかなか喋ってくれない、シャイなあんちくしょうさ。
 西鶴としても、このシリーズをテーマに何か書いてみたいところだったんだけど、あいにくと好色シリーズのファンからの声援がとぎれずに続いているので、無下にはできないなと思っているんだ。ファンは大事さ、クリエイターにとってね。
 ところが、一本の電話がかかってきた。メールじゃなくて、電話だ。ファンキーな野郎だって思ったよ。
 その電話は、仕事の依頼だった。
「新しいアバターシリーズが出るのですが、それを使ってノベルを書いて欲しいのです」
「使ってだって? 西鶴、興味持っちゃうね」
「新しいアバターはCAW(コンピュータ支援執筆)機能を持っています。これは新しいUGCの可能性を秘めたシステムです」
「そのアバターの名前は、なんだい?」
「清少納言と言います」
「まんまじゃないか! チャレンジングだな」
「許可は取ってあります」
「誰の?」
「御本人の」
 こいつはまいったな、平成に飛ばされてきたのは、西鶴だけじゃないらしい。清少納言の姉さんもこっちに来ているとなると、こいつはヤバイね、ヤバイ。
 西鶴は、好色シリーズを放り出して、この仕事を請けることにした。
 だって、こいつが時代の先端だと思ったからね。
 ――結果として言うと、このトライは成功した。西鶴、グッジョブ。
「なっちゃいなよ」のすごいところは、こんなに長編ノベルを書ける人間がいたんだってことを、世間に明らかにしたことだと思うんだけど、それでもまだまだ夢で描いていることを文章で書き表すことのハードルは高かったみたいだね。
 清少納言は、このハードルを一気に低くした。
 西鶴が書いたパイロット版ラノベを読んだ読者は、こいつはすごいって言って清少納言に飛びついたんだ。
 いまや、清少納言のサポートを受けながら、本当の意味で誰でもラノベを書いて「なっちゃいなよ」にアップできる時代になった。
 UGC万歳だ!
 そんな時代の変化の手助けを出来て、西鶴は本当に嬉しい。ラッキーだと思うよ。


 どうも、西鶴です。
 いやはや、本当にラノベを書く人が増えたね。読む人も増えたんだろうけど。
 今月の新刊は、三百冊だ。もちろん、ほとんどは電子書籍だけれど。
 ただね、西鶴としては心のどこかで予想はしていたんだけど、これだけの数になると玉石混淆の分別をするのも大変になるね。
 誰が三百冊を読んで、評価をしてくれるって言うのだろう。
 無理だね、ベイビー。ところがね、ベイビー。世の中ってのは、本当によくできている。
 キュレーションサービスってのが現れたんだ。
 キュレーションサービスってのは、大量にある作品の中から、お勧めを選んでくれるサービスのこと。それ自体は昔からあったけれど、山のようなラノベが生まれてくる今の時代で、再評価されたってことだね。
 ここからがロックなんだけど、マーケットをかっさらったキュレーションサービスはどこかってこと。
 それは書籍を中心とした通販最大手の「ハマゾン」なんだ。ハマちゃんのロゴマークでおなじみだね。
 ここはラノベの電子書籍を、毎月三百冊、黙々と世に送り出しているわけだけど、はい、ここからが重要。電子書籍には普通コピープロテクトがかかっている。読者は専用端末でデータを読むことはできるけれど、中のテキストデータを読んだりはできない。当然だ。
 しかし、ハマゾンは、コピープロテクト前のデータを持っている。
 ということは? 分かるかな? ベイビー。
 ハマゾンは、全書籍の内容を解析して、機械学習させて、それをもとにしたキュレーションができる。「この本を買った人は、こちらも買ってます」っていう、ユーザの行動に基づいたキュレーションってのは、以前からやっていたけれど、書籍の内容に基づいたキュレーションができてしまうんだ。
 すごいね。
 そして、これで終わらないのが、ハマちゃんの凄いところだ。
 なんと、解析データを販売し始めた。書籍データそのものは著作権者のものだけど、それを解析して匿名化したデータに著作者の権利はないって理屈だ。
 誰が買うのかって? もちろん、他のキュレータさ。
 これには、西鶴、驚いた。
 他のキュレータは、ハマゾンのデータが欲しい。キュレータごとに得意なジャンルがあって、得意ジャンルごとに顧客もついている。このキュレータはアクションモノのお勧めがすごい、とか、このキュレータは妹萌えがすごい、とか。
 もっと尖ったキュレータになると、個人向け専用キュレーションというのをしてくれる。個人が有料会員になって、あらかじめ好きなジャンルとか、これまでの読書歴なんかを登録しておくと、そこからお勧めを選んでくれるっていう寸法だ。個人だと、ハマちんから直接サービスを買うには価格がきついが、キュレータが集約することで、個人に負担できる金額に分散できるってことだ。
 見事な仕掛けだね。
 平成すごいな、平成だな、なんて感心していたら、西鶴のところに新しいビジネスの電話がかかってきた。
「西鶴さん、西鶴さん、ハマゾンから新しい提案が来ましたよ」
「ワオ、ハマどん、やるね」
「キュレーションの結果をフィードバックしてくれるそうです。二次請けとか、下流の結果についても、契約によってはもらえるらしいですよ」
「おいおい、もうちょっと分かりやすく、西鶴に説明してくれよ」
「つまりですね、西鶴さん。どういう本が読者に好まれているかってのが、本の内容ベースの正確なデータとして出てくるわけですよ。しかもですね、西鶴さん。下流キュレータの中には、あえて読者が好みそうだけれど普段は読まなそうなものを選んだりするひともいて、それが逆に気に入られたりしているんです。ということはですね、西鶴さん。既存の売れ線を踏襲しつつ、どの方向にどれくらい外れても大丈夫なのかってことまで、バッチリ分かっちゃうんですよ」
「ブラボーだね」
「早速、このデータを活用する清少納言のプラグインが開発されたそうなので、送りますね」
「シェキナベイビー」
 西鶴は、時代の変わり目にいるのかもしれないね。本当に思う。西鶴が平成に来たのって、いわゆる運命、ひとつのデスティニー。そんな感じ。
 早速、西鶴、新作を書いたね。清少納言を相棒にしてさ。
 今じゃすっかり手に馴染んだよ、この清少納言。平安生まれの年寄だと思っていたら、なかなかにトレンディなレトリックを駆使するじゃないか。
 もちろん、好色シリーズの新作だ。「なっちゃいなよ」と商業含めて、好色シリーズは三四シリーズ、合計二六三冊というスケールになっている。西鶴のスケールとしては、まだまだいけると思っているけどね。西鶴のスケール、止まらない。
 だいたいさ、好色シリーズはエロなわけよ。ああ、言っちゃった。エロなわけよ。エロ。エロってことはさ、これ読んだ中高生男子なんかは、この本をネタにして自慰行為とかするわけ。センズリでもマスターベーションでもいいや。つまり、そういうこと。
 西鶴はね、そういうのが、すげえ楽しい。サイッコー。


 どうも、西鶴です。
 最近の清少納言は凄いね。どんどんバージョンアップしてる。バージョンが九九から一〇〇になるときに、二桁のバージョン番号しか考慮していなかったとかで大騒ぎになったみたいだけれど、どこかの偉い人がなんとかしてくれたらしい。偉い人、凄いね。ハッカーってやつなのかな。
 西鶴、そっちのほうはからっきしだけどさ。
 そしてこの清少納言の最新版、目玉の機能は自動執筆機能だ。
 もうね、西鶴のアイデンティティは、崩壊寸前だよ。何せ最新版の清少納言では、執筆する必要がないんだ。勝手にラノベを書いてくれる。
 ちょっと待ったベイビー、こう言いたいんだろう?
「それでも、プロットとか、構想とかは必要なのでしょう?」
 グッドクエスチョン。YOUはラノベを知ってるね。西鶴、プロットなんて言葉、平成に来て始めて知ったくらいだからね。
 実は、必要ないんだ。
 何故って、売れ筋のプロットの情報や、そこから外れる新規開拓の可能性なんかも、全部ハマゾンから流れてくるからね。
 清少納言はハマゾンからデータをもらって、それに従って新作を書けばいい。
 こいつのお陰で、執筆量は爆発的に増えたね。西鶴、何もしなくてもいい。超クール。
 もっとも、執筆量が増えたのは西鶴だけじゃない。他の作家も清少納言を使っているから、どんどん作品を生み出してくる。おっと、生み出すのは作家じゃなくて、清少納言かな。難しいところだ。
 今の出版事情を見てみよう。毎月発売されるラノベは千五百冊。「なっちゃいなよ」で更新される小説は、毎日一万三千作品。
 すごい数だ。人間が読みきれる数じゃないね。
 大丈夫、全然オッケーだ。西鶴、保証する。
 だってキュレーションサービスがあるからね。キュレーションサービスの処理能力もどんどん上がっていって、日々更新されるネット小説とラノベを黙々と食っている。食い尽くしてはフィードバックし、その結果は清少納言に渡されて、また新しい作品が生まれる。
 もうね、爆笑。西鶴、大笑い。このサイクルを見ているだけで、笑いが止まらない。
 というか、このムーブメントは西鶴には止められない。
 時代だね。ニューセンチュリー。
「西鶴さん、西鶴さん」
「なんだい、ボーイ」
「これでいいんですかね」
「何が不満なんだい、ボーイ。CGMってのは、こういうことなんじゃないのかい」
「CGMのCにあたる、コンシューマ、つまり消費者が存在していない気がするのですが」
「何を言っているんだ、ボーイ。西鶴たち、作家がいる。YOUたち編集者がいる。読者もいるに決まっているじゃないか」
「どこにですか?」
「さあね」
 編集者は呆れて電話を切ったんだ。
 まあね、気持ちは分かるよ。西鶴、感受性豊かだからね。
 コンピュータが小説を書いて、コンピュータが小説を読んで、コンピュータが感想を書いて、コンピュータが感想を読んで。
 それの繰り返しじゃないかってことだろ?
 いいじゃないか。人間に縛られているから爆発しないんだと、西鶴は思うね。爆発するためには、M2M、つまり、マシンとマシンとの相互作用によってデータが作られることが必要なんだ。
 ただ、さっきの編集者には可哀想な気がするね。
 それに西鶴、ちょっとつまらない。何故って、最近ラノベ書いてないから。
 西鶴の人生は、ロックンロールなのかい? そんなこと、聞かれちゃうかもね。そうしたら、答えられないな。
 まいったね。超ブルー。
 でまあ、散々考えて、比叡山行ったりインド行ったりして悩んでみたわけよ。
 しばらくぶりにTOKIOに戻ってきて、編集者に電話したね。
「やあ、ボーイ」
「これは、西鶴さん。元気でしたか」
「超ハッスル」
「それはなによりです。して、今日は何か」
「この前の話。CGMの件なんだけど、西鶴、開眼しちゃったね」
「ほう」
「つまりさ、同じわけよ、電話とかと。人間がスマホ持って電話したりネットをクリックする分には、所詮人間の数しか通信しないわけじゃない、分かる?」
「ええ、分かりますよ」
「これが、M2Mっていって、マシン同士が通信したりすると、人間の知らないところでイチャイチャしたりして、通信が爆発したりするわけよ、分かる?」
「ええ、分かります。今のラノベと同じですね。コンピュータ同士で書いて読んでを繰り返している」
「でもね、西鶴思うんだ。みんな、肝心なことを忘れているって」
「なんでしょう」
「チンコは一人一つじゃん」
「は?」
「チンコは一人一つじゃん」
「はあ」
「ていうことはさ、西鶴が好色シリーズとか書いて、それでハァハァする男子とかいたりしても、結局男子一人につきチンコは一つなんで、その数は超えれないと思うんだよね。コンピュータはマスターベーションしないし」
「つまり、どういうことでしょう」
「コンピュータたちがやっていることは、あれはあれで頑張ってもらっていいと思うんだ。西鶴、頑張る奴ら、嫌いじゃないし。こっちはこっちで、チンコのためにラノベを書けばいいじゃん。そういうことだろ?」
「新レーベルの創設ですね!」
「YOU、話が早いね、そういうこと」
 そして西鶴、電話を切ったね。もう、一分一秒が惜しい。書くしかないよね。
 タイトルは「好色平安男~俺が清少納言のご主人様」。
 清少納言を陰で操って、自分の好きな小説を書かせる男の話さ。当然、皮肉なんだけどね。この作品も、ハマゾンのキュレーションシステムの取り込まれて噛み砕かれて、やがて清少納言にフィードバックされると思う。その時、ちょっとでもシステムに影響を与えられたら、楽しいよね。
 つまりさ。
 西鶴、この作品で、今のすべてのラノベのメタ存在を目指すってこと。
 ビッグなドリームだろ? ワオ!

<了>

木本雅彦プロフィール


木本雅彦既刊
『永眠童話
―空想世界とオモチャの心臓―』