出版社: 早川書房
刊行日: 2014/03/20
ISBN: 978-4-15-031153-7
定価: 651円
星界の短編集第3弾です。買ってください!
……とまあ、言いたいことは上記に尽きるのですが、これだけではあまりにも愛想がないので、各作品について語らせてもらいます。お時間がございましたら、いま暫しよろしくおつきあいください。
そうそう、肝心なことを言い忘れていました。
星界シリーズはそれなりに構築された架空世界を舞台としています。したがって、『星界の紋章』、『星界の戦旗』を読んでいないと、この短編集も宣伝文も、理解しがたいかもしれません。
『星界の紋章』については電子書籍化もされておりますので、未読の方はこの機会に購入をご検討ください。
と、拙文の目的が99パーセント達せられたところで、今度こそ各話について。
『野営』はもともと星界アニメのDVDボックス付属の小冊子用に書いたもの。3種類のボックスが発売されたので、短編も3本、依頼された。この本では一本の短編にまとめた関係で、独立していた短編が章に格下げされた体裁になっているが、内容はまったく変わっていない。
これを書くにあたって、ちょっとしたズルを思いついた。
同じ舞台、同じシチュエーションで登場人物だけ変えたら楽ができるのではないか。さらにアーヴは皇族、貴族、士族の三階層からなるので、それぞれの代表に主人公を勤めさせたら、面白いミニ連作ができあがるのではないだろうか。一石二鳥である。
もっとも、書くのはあんまり楽でなかった。その意味では当てが外れた。もうひとつの目論見──面白い作品ができあがること──が成功しているか否かは、ぜひ読んで確かめていただきたい。
『出奔』はドゥヒールを主人公に据えた短編。この作品に名前だけ出てくる惑星については、『星界の紋章』を書いたときから設定にあった。今回、こんな世界が存在することだけでも明かすことができて、ほっとしている。
星界シリーズは書き上げても、その後に「ルビ打ち」という面倒くさい作業が控えている。なので、短編はでききるだけアーヴ以外の視点から書くことを心がけている。しかし、この短編集では、ルビ打ちから逃れられたのは『介入』だけだった。なぜだ。
『誘引』は、スポール准提督の先任参謀として登場したクファディスの若かりし頃のお話。リゼルガデージュ男爵家の家宝の元ネタはヘンリー・ダーガーである。しかし、お読みいただければお判りかと思うが、家宝はなんでもよかった。いわゆるマクガフィンに過ぎない。
『海嘯』は、『星界の紋章』第1巻に名前だけ出てきて、『出奔』では脇役を勤めたラムリューヌ殿下が主人公。しかし、作者にとっては「山羊の話」である。
『離合』はSFマガジンに掲載されたときは、『岐路』というタイトルだった。タイトル変更に深い意味はない。いくつか候補を考えて、『離合』に決めたつもりが、疲れていたせいか最終案のひとつだった『岐路』で送ってしまったので、元に戻しただけのこと。
作者の頭の中では、エクリュア一族とコリュア一族はアーヴの庶民代表としての地位を確立しつつある。この両者を通して、アーヴの一般人たちが帝都陥落という非常事態にどう対処したかを描いたつもりである。
『来遊』はこの短編集のための書き下ろし。最初は三人称で書いていたのだが、どうもしっくり来ず、一人称で書きなおした。
「アーヴだって最初から地上人をほいほい受け入れるほど開放的だったわけではない」という話である。
以上7篇を収録した『星界の断章Ⅲ』、よろしくお願いいたします。
森岡浩之既刊
『星界の断章III』