「メタポゾン9号」高槻真樹

「季刊メタポゾン」公式サイト
http://www.metaposon.com/works.html

「出版社名」
  発行・株式会社メタポゾン 
  発売・有限会社寿郎社
「発売日」
  2013年6月6日
「ISBNコード」
  ISBN-10: 4902269627
  ISBN-13: 978-4902269628

「季刊メタポゾン」の最新号が発売になりました。電子書籍が台頭する時代にあえて紙のメディアにこだわった文芸評論誌を問う野心的な試みも、はや2年半を超えました。今回が9号目となります。

 耳慣れない〈メタポゾン〉というタイトルは、「メタ(変化した)」と「ポゾン(存在する量)」を合わせた造語です。つまり「今あるものの協同と、それによる新しい何物かの出現を象徴」という姿勢を意味します。これまであるものとこれから生まれるものを合わせることで生まれる新しい概念、それが「メタポゾン」というわけです。

 責任編集は変わらず大西赤人。自身の小説連載と父・大西巨人への聞き書きは変わらぬ存在感を見せています。直木賞作家の出久根達郎や絵本作家の長谷川集平、漫画家の西原理恵子、評論家の切通理作、さらには現役若手弁士の片岡一郎まで、さまざまなジャンルの豪華な書き手が結集しています。イラスト・写真などビジュアルと文字表現を組み合わせたスタイルにこだわるのが当誌の特徴です。「SFマガジン」初代編集長福島正実氏のご子息加藤喬氏の、フォトエッセイ「モントレー風便り」は4回目「寒い国から逃げて来た男」。

 そうした顔ぶれに混じって、私たち日本SF評論賞受賞者有志も掲載させていただいています。岡和田晃氏が「『痛み』を忘れず、信頼に足る情報をー『北海道電力(泊原発)の問題は何か』を読む」および「『思想』と『エロス』を分かつもの」の2本、高槻真樹が「来なかった未来」と「せめぎあう二つの組曲」の2本と、そろって2本ずつです。

 岡和田氏の原稿はマーク・レイドローのSF「パパの原発」(ハヤカワ文庫SF)を起点に北海道・泊原発の問題点を指摘した労作を読み解いています。もう1本は佐藤亜紀「醜聞の作法」(講談社)を表層と深層の差異を足がかりに詳細に分析し、革命前夜のパリから現代を痛撃します。高槻の原稿は、石坂洋次郎と岡本喜八の忘れられた女性小説・映画「ある日わたしは」に残された意外なSF性について紹介しました。青春小説はSFにもなり得るのです。「せめぎ合う二つの組曲」の方は、話題の大作「クラウド・アトラス」を、原作と映画版の双方から語らせていただきました。

 ぜひ一度書店でご確認ください。いずれも書評・映画評でありますが、文芸誌の枠を逆手にとってSF的思考のおもしろさを紹介するものとなっており、必ずやSF読者にも楽しんでいただけると思います。(高槻真樹)

高槻真樹プロフィール


『季刊メタポゾン
第9号(2013年仲夏)』