「Feel like making love――about infomrph sex」齋藤路恵(補作:岡和田晃)

(紹介文PDFバージョン:FeelLikeMakingLoveshoukai_okawadaakira
 このフルカラーPDFファイルは、齋藤路恵の小説「Feel like making love――about infomrph sex」を収録したものである。
 この小説は、まず、「ゲームのノベライズって、ちょっと苦手かも」と思っている方にこそ、読んでもらいたい作品だ。大宇宙を舞台にした壮大なスペースオペラとはひと味違った――日常生活の延長線上の感覚で描かれる――とても小さな物語。けれどもその背後には、限りない哀しみが潜んでいる。みずみずしく繊細な筆致で掘り下げられる、性と身体の問題。『エクリプス・フェイズ』の世界を使って、こんな物語も表現可能なのだ。どうか、じっくりと時間をかけて味わってみてほしい。

 タイトルにあるinfomorphとはインフォモーフ(情報体)、すなわちモーフ(義体)を持たないトランスヒューマンたちのことを意味している。人間の魂がソフトウェアで、肉体がそれを入れる器にすぎないのだとしたら、いっそのこと肉体を持たずに生きることを選択する人も出てくるだろう。本稿では、そうしたインフォモーフの、軽やかだが、どこか空虚な生き様に焦点が当てられる。『エクリプス・フェイズ』をプレイすれば、自然と参加者は「ポストヒューマン」とは何かを考えることになるのだが、そうした器の特性が、書き手の感性とうまく調和した傑作である。

 本稿の初出は2011年6月に限定発行されたファンジン『Eclipse Phase Introduction Book for 2011 Japanese』(Analog Game Studies & 戦鎚傭兵団制作)に収録されたものであり、同書を初出とする小説群と、一部の登場人物を共有している。また、今回「SF Prologue Wave」に再掲されるにあたり、若干の修正が加えられている。なおインフォモーフの各種設定には、著者が独自に想像を膨らませた部分がある。

 齋藤路恵は持続的にジェンダー・スタディーズの研究活動を行い、その知見を各種美術評論、ゲーム評論やSF評論へ応用してきた。SF評論の分野では、樺山三英の小説を論じた「『ハムレット・シンドローム』の存在論」を発表してもいる。会話型RPG『ラビットホール・ドロップス』のコンセプトワークや展開に協力もしている。単独名義の小説は今回が初めての発表だが、その新人離れした筆力をご堪能されたい。(岡和田晃)


(PDFバージョン:FeelLikeMakingLove_saitoumitie

(注意:この作品はPDFバージョンのみになります)

齋藤路恵プロフィール


齋藤路恵 協力作品
『ラビットホール・ドロップス』