(PDFバージョン:hokkaidousf_miyanoyurika)
北海道のある少年が、学校に遅刻しそうになって、近道のために牧場を横切りました。
少年の通う学校は、とても規律を重んじています。遅刻なんて許されることではありません。
学校に行くための道も決められています。近道のために柵を越えて牧場を横切るなんて、してはならない行為です。
さて、牧場の真ん中に生えている木の下を通り過ぎる時、少年は狐の子を見つけました。狐の子は草の中に倒れていました。足から血を流しています。意識はありません。心臓はまだ動いているようです。でも、このまま放っておけば、死んでしまうでしょう。
少年は狐の子を抱き上げました。そのまま学校へ急ぎました。
学校が近付くと、少年は狐を自分の服の下に隠しました。他に隠し場所がなかったのです。狐が自分の服の中にいることは、誰にも言えません。そんなものを学校に持ってきてはいけないのです。それに、事情を追求されたら、近道をして牧場を横切ったことがバレてしまいます。
少年は服の下に狐を隠したまま、授業を受けていました。
そのうちに、狐が少年のおなかに噛みつきました。とても痛かったけれども、少年は我慢しました。
狐はさらに噛みつきました。狐というのは肉食ですから、ウサギや鶏などを襲って噛み切る鋭い歯を持っているのです。
少年は、痛いのを我慢して、我慢して、我慢して、そして、死んでしまいました。
その死のいきさつを知った人々は言いました。
「まさにスパルタの狐(Spartan Fox)だ!」
宮野由梨香 協力作品
『しずおかの文化新書9
しずおかSF 異次元への扉
~SF作品に見る魅惑の静岡県~』