
「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 のご紹介 その13」岡和田晃
ゲームブックの専門出版社であるFT書房(https://ftbooks.xyz/)の日刊メールマガジン「FT新聞」(https://ftbooks.xyz/ftshinbun)では、新たな読者と出逢い、作品の良さを別角度からも発見してもらうため、「SF Prologue Wave」との共同企画を推進しています。すでに発表された作品を、改めてピックアップし、岡和田晃の解説を添えて再提示するというものです。
今回はVol.33~34では、ゲームブック『展覧会の絵』の作者としても著名な、平田真夫(森山安雄)さんの作品を紹介します。
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.33(「FT新聞」No.4467、2025年12月10日)
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●はじめに(岡和田晃)
祝:田林洋一「スーパーアドベンチャーゲームがよくわかる本」、連載完結!
私は連載が始まって少し経ってから、公開前のチェックに参加させていただきました。
むろん、論そのものは田林さんのものですが、私見とは異なる箇所もままありますが、私の知っていることをお伝えし、参考にしていただいたということです。
そちらの連載でも取り上げられ、「FT新聞」でもたびたび言及されている「展覧会の絵」(創元推理文庫、1987年)。
創土社(2003年)・幻想迷宮書店(2016年)と、2度のリバイバルを経ている傑作として、もはやカノンと化していますが、その『展覧会の絵』に、外伝として書かれた小説があることをご存知でしたか?
リリカルなSF小説『水の中、光の底』(東京創元社、2011年)の著者・平田真夫氏との合作になります。
(こっそり書いておきますと、「スーパーアドベンチャーアドベンチャーゲームがよくわかる本」が書籍化するようなことがもしあれば、応援を兼ねて本作を収めてもかまわないとのご許諾も賜りましたよ)
そうそう、手前味噌ですが、名作ゲームブック「ファイティング・ファンタジー」シリーズの歴史をまとめ上げた書籍「主人公はキミだ!~You are the Hero!日本語版~インタラクティブに振り返る ファイティング・ファンタジー・ゲームブックの歴史」に同梱される拙著に、東京創元社で「スーパーアドベンチャーゲーム」シリーズを手掛けた編集・小浜徹也氏への取材が含まれておりますので、同シリーズに関心がある方はぜひどうぞ。
https://www.4gamer.net/games/758/G075800/20251128001/
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オリジナル小説「吟遊詩人」
平田真夫
(「展覧会の絵」外伝・森山安雄と合作)
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―十二律
日本や中国で古くから用いられた音階。管楽器の管の長さを三分の一短くして完全五度、三分の一長くして完全四度を得、これを繰り返して十二の音を得る。ただしこのやり方では対数関数にならないので、現在の平均率とは異なる音高となる。西洋では、ピタゴラスが弦の長さを用いて同じ方法を採った為、十二律はピタゴラス音階と実質的に同じ物である。
艶のある固そうな皮膚に、切れ長の目――。始めは能面でも被っているのかと思った。その位彼女の顔は色が白く、のっぺりしていたのだ。
だが、すぐにそれは、外灯の暗さ故の見誤りだと判る。一瞬、上目遣いにこちらを向いた視線が瞬いたかと思うと、細目の唇の端が僅かに微笑んだ。全身に一枚布を巻き付けたかのような弛んだ服。白地に茶色く染みが付き、地べたに直接胡坐をかいた膝には有棹の琴が乗せられている――。
「ちょっと、あなた」
澄んだよく通る声で呼ばれて振り返る。跨った雌馬が足を止め、鬣の風船が揺れた。近くには他にもたくさんの子供がいるが、皆親子連れで、このような言い方をされるのは自分しか居なさそうだ。見ると舗道に、小柄な女が座っている。
↓続きはこちらから!(PDFファイル)
https://prologuewave.club/wp-content/uploads/2013/12/ginnyuusijinn_hiratamasao.pdf
初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/3944
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「FT新聞」&「SF Prologue Wave」コラボレーション企画 Vol.34(「FT新聞」No.4719、2025年12月10日)
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●はじめに(岡和田晃)
ゲームブックの不朽の名作『展覧会の絵』で名高い平田真夫(森山安雄)氏は、自他ともに認める熱心なSFファンで、リリカルなヴィジョンもSF的な裏付けてがあってのこそ――氏のもう一つの代表作たる『水の中、光の底』は、そのことをよく伝えてくれます。
前回、ご紹介した「吟遊詩人」が『展覧会の絵』のスピンオフだったとしたら、今回ご紹介する「道化師」は『水の中、光の底』との連続性を感じさせる物語となっています。
ご参考までに、「Webミステリーズ!」(現:「Web東京創元社マガジン」)に掲載された「平田真夫/森山安雄の挑戦――ゲームブック『展覧会の絵』から小説『水の中、光の底』へ」(平田真夫/森山安雄×岡和田晃)をお読みいただければ、いっそう興趣が増すと思います。
https://www.webmysteries.jp/archives/12245589.html
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オリジナル小説「道化師」
平田真夫
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――希ガス
周期表上の十八族に当たる、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの六つの元素。最外殻の電子が丁度八つで安定しており、化合物を作り難い気体である。その為、不活性ガスとも言う。ただし、キセノンがフッ素や酸素などと結晶性の固体になる例もある。古くは存在量が少ないと思われていた為「希ガス」と呼ばれたが、実際には空気中で三番目に多いのはアルゴンであり、それ程「希」ではない。
夜の園内を照らす電気の明かりの下で、道化師が風船を配っている。この遊園地のあちこちで目にする赤と黄色の縦縞模様の制服、ただ、他の従業員のそれとは異なり、だぶだぶのズボンまでが同じ柄だ。帽子も被らない頭頂部の髪は綺麗に剃られており、どうみても鬘ではない。それが、道行く子供達を相手に、色取り取りの風船を手渡しては、一人一人の頭を撫でているのである。
跨っていた馬の背中を突いて合図を送り、足を止めさせる。しばしそのまま佇んで、その仕事振りを眺めることとする。
ヘリウムを詰められて宙に浮かぶ風船は、まだ彼の左手に何十本も残っており、幾ら子供の手に握らせてもいっかな無くなる気配が無い。というより、少しでも減っているようにすら見えなかった。まるで、配るそばから新しく増えていくみたいである。
どうなってるのかしら。
誰かが横に隠れて、新しい風船を膨らませながら渡しているのかとも思ったが、そのような人影は幾ら目を凝らしても見えなかった。そもそも仮にそうだとして、左手だけで受け取るのは難しかろう。そんなことをしたら、手を開いた瞬間に全部が空に逃げてしまう。
しかし、どんなに注意深く観察してみても、風船の数は少しも変わらない。一本、又一本、子供の手に風船が渡され、辺りに色取り取りの球が漂いながら散って行く。あれでは、いずれ敷地全体に溢れ返ってしまうのではなかろうか。成程、この遊園地ではどんなことでも起こり得るのだ、と改めて思わせられる。
そうして見ているうち、自分も風船が欲しくなった。余所見している馬の首を叩いて、道化師を指差す。馬は、解った、という風に、そちらに向かった。途中、何人かの子供達と擦れ違い、彼ら彼女らの影法師が、頭上に丸い球を漂わせながら走って行く様を目にする。
みんな、あれを持ったまま、回転木馬や珈琲茶碗に乗るのか。多分、その時は親に預けたりするのだろう。では、独りしか居ない自分はどうしよう。
と、その時、道化師から一本を受け取った女の子が、何の弾みか手を放してしまった。十歳にも満たなさそうな少女は、飛んで行く黄色い球を見上げ、しばし呆然とする。そして、顔を元に戻してから、肩を振るわせてしゃくり上げ始めた。周囲に満ちる客達のざわめきや音楽で声は聞こえないが、恐らく簡単には収まるまい。
↓続きは以下のPDFファイルでお読みください。
https://prologuewave.club/wp-content/uploads/2013/05/doukesi_hiratamasao.pdf
初出:「SF Prologue Wave」
https://prologuewave.club/archives/3241
