(PDFバージョン:mydeliverer51_yamagutiyuu)
おお、わたしの魂よ、わたしはおまえに、嵐のように「否」という権利を与え、晴れ渡った空が「然り」と言うように「然り」と言う権利を与えた。
――フリードリッヒ・ニーチェ著/氷上英廣訳
「ツァラトゥストラはこう言った」
――(目標群ガンマ、出現!)
リルリの声が通信ネットワークに響く。
それは、目標群アルファ、ベータと定義されたI体とR体が、軌道上でのドッキングを開始したことを意味する。ラリラがI体を投射した時間はバラバラだが、会合したタイミングはほぼ同時だった。
――(ガンマ1~5は、第一分隊、ガンマ6~10は第二分隊、ガンマ11~15は第三分隊が担当、ガンマ16~22は私と……)
それからリルリは私の方を見た。
――(恵衣様が担当します!)
本来は、これだけ戦力がそろっているのだから、私の参戦は必要なかったはずだ。だが、リルリは私の言葉を覚えていて、敢えて私に担当させてくれるというのだろう。
――(R・リルリ、それは……)
恵夢は何か言いかけたが、そこで黙った。
――(……あなたがそう判断するというのなら、了としましょう)
そして、彼女の部下に向けて通信する。
――(目標配分はR・リルリ指示の通り。それぞれの個別目標分担は各分隊長に一任。第一分隊は私が直接指揮する。第二分隊は浜田緒卯准尉、第三分隊小鳥遊圭妃准尉。かかれ!)
目標群ガンマと呼称されたI体とR体は、一瞬の会合の後、互いにC2NTAMのケーブルをつなぐ。今、そのケーブルがぐんぐん伸びていく。
そして、伸びきった瞬間。
私の目の前にも、その一つが存在した。
(お願い……世界を、……救って!)
私は祈るような気持ちでATBを振りかぶり、力の限り振り下ろした。
激しい衝撃が手に伝わる。凄まじい堅さのケーブルが、私の一振りで切断された。
目にもとまらぬ勢いで縮んでいくケーブル。私のガスジェットは、ケーブルに巻き込まれないよう、急速に離れていく。
恵夢指揮下の自衛軍将兵も、一斉に担当のケーブルを切断する。流石にプロは違う。私のようなぎこちない動作ではなく、慣れた手つきで強靱なケーブルを、一瞬のタイミングを見逃さず切断していく。
リルリはもっと素早い。自らが担当する6つを次々と切断していく。だが、最後の一つは、彼女は切断せず、奇妙なことに激しくキックするにとどめた。
――(目標群ガンマ21基消滅。目標群アルファおよびベータ出現。軌道確認……大気突入角度確認……全て、大気からはじかれます……一つを除き、地上には落下しません)
リルリが冷静に通信する。
――(……与那国サーバを目標としていた一つは、軌道をずれ、馬祖基地に落下します)
――(了とする。正しい判断だ。現場の部隊は、ラリラを直前まで足止めした後、待避するよう要請しよう)
恵夢は言った。
――(ラプ=リルリと言ったか……これだけ状況が好転したんだから、アイドルへの夢をもって戦ってくれればいいけれど)
――(大丈夫でしょう)
フィル=リルリは言った。
――(もともと、少々の困難で諦めるような夢ではありません。これだけ状況が好転すれば……きっとやってくれますよ)
山口優既刊
『サーヴァント・ガール』