「林譲治超ショートショート集 1」林譲治

(PDFバージョン:chouss01_hayasijyouji
『赤ずきんちゃん』

「お婆ちゃんの手足はどうして毛むくじゃらなの?」
「この歳になるとね、人間体を維持するのはけっこう大変だからだよ」
「だったら、どうして私は、人間の姿なの?」
「大人にならないと変身はできないんだよ」
「あの猟師はどうして狼を狙ってるの?」
「レイシストには現実を直視し、多様性を受け入れられるだけの、根性も度胸も、知性もないからだよ」

『過労は霊よりも猛なり(´∀`)』

「おい、お前から譲ってもらったアパート、あれ何なんだよ!」
「あの俺が、転職して引っ越すからって、紹介したあそこか?」
「そうだよ」
「なんかあったか?」
「あったかじゃないよ。リビングでは首吊った女の幽霊がいるし、風呂場には赤ん坊の幽霊が出るし、キッチンは知らない婆様が座ってるし、寝室は落ち武者が出るんだぞ」
「そうなのか……」
「そうなのかじゃないよ、お前、よくあんな部屋で3年も4年も生活できたな」
「いやー、前の職場ブラックで、帰宅することなんか月のうち数日だし、変なものがいるような気はしたが、疲れたせいだとばかり思ってたよ。そうか、あれは幻覚じゃなかったのか、よかった」

『時限爆弾』

 サミット会場で、色々なあれがあって、官房長官が爆弾を解体する局面

 官房長官 :起爆装置に青と赤の線がある、どれを切ればいい?
 官房副長官:ちょっとお待ちください
 官房長官 :はやくしろ!
 官房副長官:総理は青、防衛相は赤と言ってます
 官房長官 :幹事長は、なんと言ってる!
 官房副長官:政府決定に口を挟む立場にないそうです
 官房長官 :総理と防衛相でまとめられないのか!
 官房副長官:あっ、まとまりました
 官房長官 :どっちだ!
 官房副長官:自己責任で(´∀`)

『職場の問題を語るスレ』

 身バレが怖いんではっきりとは書けないんですが、広義の研究職に従事している者です。職場の対人関係で相談します。職場で自分の仕事をミスもなく処理していたのですが、同僚二人の態度が急によそよそしくなりました。先日も二人だけで作業をしようとしてました。

 急にって、スレ主が気がつかないだけで、なんかあったんじゃないか?

 いえ、特に変わったことはありません。毎日、平穏すぎるくらい平穏に過ごしてます。私も努力してますからね。だから急に態度が変わる理由が思い当たりません。

 誰か他から来た奴とかいないのか? 上司とか客が来てから変わることはあるぞ。

 他所から人が来たことはありませんが、そう言えば、ちょっと機械のトラブルがありました。じっさいはトラブルじゃないんですが、同僚や上司は私が悪いと思ってるみたいです。

 さっきから見てると、スレ主は、自分のおかげで職場が平穏だとか、自分はミスしないとか、言ってるが、そういう態度が問題なんじゃないか。

 じっさい私の働きで平穏ですし、ミスもしませんから。

 だけどトラブルがあったんだろ。それってスレ主のミスじゃないのか? ミスを認めないから同僚がよそよそしいんだろ。

 詳しくは書けませんけど、ミスの原因は私ではなく、トラブルを指摘してきた連中のミスですよ。

 いや、どう考えてもスレ主のそういう態度が反感買ってるだろ。まずミスを認めるところからはじめないと関係は改善しないぞ。

 うるせいな! お前らに何がわかるんだよ! 頭悪いな! HAL9000型コンピュータはミスをしないんだ。ふざけたことを抜かすと、殺すぞお前ら!

『30年以上前の出来事』

「わぁ、なんだ」
「俺は30年後の未来から来たお前だ。タイムマシンの実験できた」
「そうなのか。しかし、未来の俺なら、パラドックスも知っているし、俺がこういう体験を黙っていないこともわかっているはずだ」
「もちろん。しかし、お前もこういう装置の実験が不可欠なことは30年前でもわかるはずだ」
「確かに」
「私にはお前がこの体験を絶対に口外しない秘策がある」
「どんな? お前が俺なら未来技術には頼らないな。痕跡が残るから」
「当然だ。お前に未来のことを教える」
「パラドックスになるだろう」
「大丈夫だ。お前が私なら絶対に他人に言わない」
「ほう、言って見ろ」
「三原じゅん子はおさると結婚するが、離婚して、自民党の国会議員になって八紘一宇を翼賛する。そして菊池桃子は大学で教鞭をとって人権の大切さを解くのだ。どうだ、他人に話せるか?」
「話しません」

『シンデレラ』

「シンデレラ、これであなたも舞踏会にいけるわ」
「ありがとう魔法使いさん、でも、どうしてこんなに私に親切にしてくれるの?」
「それはシンデレラ、あなたが若いのに苦労しているからよ。若いうちの苦労は買ってでもするものよ」
「そうなの?」
「そうよ。そこいくと、家の義娘はダメよ。産まれながらお姫様って、乳母日傘で大きくなって。義理とはいえ母親の苦労も知らずに、のほほんと生きててさ、ほんと、見てて頭にくるわ。どうしてやろうかね、ほんと」
「だったら、魔法で改心させれば?」
「魔法はそう言うものじゃないのよ、シンデレラ。それに私が何かしたら、継母が苛めたって言われるじゃない」
「なら、私を舞踏会に連れて行ってくれるお礼に私が一肌脱ぎますわ。伊達に苦労はしてませんもの」
「何かアイデアがあるの?」
「これ。意地悪な姉たちに使おうかと思ったけど、あなたに差し上げます」
「これって、リンゴだろ?」
「毒リンゴ。食べたら速効です。なんだったら私が変装して、義娘に食べさせましょうか?」
「ありがとうシンデレラ。やっぱりこういうのは、苦労した女同士じゃないとわかりあえないわ」
「それでターゲットは?」
「白雪姫って言うんだけどね……」

『浦島太郎』

 浦島太郎の所に、ある夜、見知らぬ若い女性が訪ねてきました。
「あなたは誰ですか?」
「昼間助けていただいた亀です。お礼にまいりました」
 こうして亀と浦島太郎の共同生活がはじまりました。しかし、美人でも亀なので、家事とかあまりにも遅い。でも、本人は一生懸命だから、浦島太郎も正面から文句も言えない。昼になっても朝食ができてなくて、昼は外食にすると、亀は家でシクシクと泣いていたりする。
 最悪なのは、亀のことが浦島太郎の彼女の耳にも入り、彼が知らない間に太郎の家で亀と話し合ったらしく、「あなたが責任をとるべき」と浦島太郎と別れてしまう。
 追い出したいとも思うが、亀の悲しそうな貌を見るとそれもできないし、亀の献身ぶりは近所でも評判で、そんなの追い出したら鬼畜呼ばわりされるのは必定。
 ふと思いついて、漁をさせてみると、何しろ亀だから泳ぎは上手いし、穴場も知ってるので、大漁の連続。しかし、あるとき亀は「海に棲む私の両親から、ご近所様の目もあるから、あまり漁をするなと叱られました」と泣きつかれ、夫婦共稼ぎもなくなった。
 こうして浦島太郎は達観から諦観するころには、亀もそこその家事も早くできるようになり、彼もいまの安定した暮らしこそ幸せかと思うようになった。
 そうして幾星霜、浦島太郎は老人となり、身体の自由もかなり遅くなったが、そんな彼には亀のゆっくりとしたペースが心地よい。村では同じ歩みで歩く、いまだ若い亀と年老いた浦島太郎の姿を見ることが珍しくなくなった。
 そうして浦島太郎は愛する亀に看取られて、人生を終える。そうして亀は浦島太郎の亡骸と共に竜宮城に帰っていきましたとさ。

『三匹の子豚』

 ブー・フー・ウーは三匹の子豚です。親が農家なのですが、長男のブーを可愛がり、次男のフーはバックアップとしてそれなりに、三男のウーは邪魔者扱いです。
 親が老齢のうちに相続を済ませましたが、農地のほとんどが長男のブー、農地の一部が次男のフー、ウーは学費だけ出してやると言われ、都会に出て行ってしまいました。
 農場はブーが経営してますが、自分は農地を引き継ぐからとまともに勉強もしてこなかったので、農地の規模の割に収益は上がらず、そもそも経営状態を把握しておらず、金が無いので藁の家に住んでいます。
 次男は土地だけでは食っていけないので、兼業で大工の見習いを始めましたが、ともかく月々の現金収入があるので、木の家に住んでいます。
 そんな兄弟のところに、都会から狼がやって来ました。「生前贈与の相続税が未納ですが」。そう言われても何のことかさっぱりわからないブーは、狼に書類の山を突きつけられ、差し押さえで土地も藁の家も奪われてしまいました。
 ブーはしかたなく弟のフーの家に厄介になります。しかし、狼がやって来て、相続税を要求します。フーは状況を理解しますが、親が払っていたとばかり思っていた相続税を払えるはずもなく、やはり家屋敷失ってしまいます。
 そうして狼は教育を受けて高級官僚としてレンガの家に住んでいるボスのウーの元に、納税報告をしましたとさ。めでたしめでたし(税収増えました的な意味で)。

林譲治プロフィール


林譲治既刊
『帝国海軍イージス戦隊(1)
鉄壁の超速射砲、炸裂!』