「前夜」蔵原大(協力:齋藤路恵)

(紹介文PDFバージョン:zennyashoukai_okawadaakira
 「SF Prologue Wave」に久々の登場となる蔵原大。その新作「前夜」は、全五部構成、四〇〇字詰め原稿用紙換算で三〇〇枚になる大作である。
 二〇一一年にはプロトタイプが脱稿していたが、およそ五年の歳月をかけて細部を改稿し、今回の発表と相成った。この贅沢な作品を、このたび一挙公開させていただく。

 「前夜」は小説ではなく戯曲の形式をとっているが、もともとはゲームブックとして構想されたものらしい。トランスヒューマン時代の歴史を考えるにあたって、一本、筋道を立てた話を作り出そうとしたら、いつのまにか戯曲の構成をとることになったそうだ。
 蔵原大曰く、「前夜」はイギリス百年の歴史を描いたウィリアム・シェイクスピアの史劇『リチャード二世』、『ヘンリー四世』、『ヘンリー五世』、『ヘンリー六世』といった史劇を意識している、とのことである。
 実際、「前夜」では、歴史をフィクションとして表現するにあたって、事実の見え方は複数ある、ということを強調することが目論まれている。冒頭の部分に「子供向け」のプロパガンダ本が引用されていることは、その象徴であるだろう。
 ゆえに本作は、「ポスト・トゥルース」と呼ばれる、事実と嘘が混交された現代にこそ、響く作品なのかもしれない。事実、設定の解釈にあたっては、蔵原大が解釈を膨らませた部分がある。
 そして当然ながら、“大破壊(ザ・フォール)”前の各国の語られ方についても、「事実の見え方は複数あること」を表現することが前提となっている。
 また、艦隊戦の描写も本作の見どころだが、この点については、蔵原大の研究分野の一つである戦略学の知見と創意が活かされている。

 蔵原大は、デジタルゲームとアナログゲーム、研究者と実作者の垣根を超えて議論を交わす「ゲームデザイン討論会 公開ディスカッション」の運営に長らく携わるとともに、書評SNSの「シミルボン」にゲーム作家・研究者として著名な遠藤雅伸のインタビューを寄稿。このインタビューはニュースサイト「ねとらぼ」に転載され、好評を集めた。(岡和田晃)

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(注意:この作品はPDFバージョンのみになります)

蔵原大プロフィール
齋藤路恵プロフィール


蔵原大翻訳作品
『歴史と戦略の本質 上―歴史の英知に学ぶ軍事文化』
『歴史と戦略の本質 下ー歴史の英知に学ぶ軍事文化』