(PDFバージョン:otonanojijyou_makinoosamu)
月日の経つのは早いものですね。あっという間に今年が終わろうとしていますよ。たぶんこの調子だと一生もあっという間だろうなと思うんですよね。
と、しみじみ己の人生を考えてしまう季節となりました。
こんばんは、芦田愛菜です。嘘です。
ところで『いま、会いにゆきます』っていう映画がありますよね。見た方おられますでしょうか。このコラムを読んでおられる方にこの映画をご覧になっている人間は少ないと思いますのでちょっと説明しておきますと、会いに来て欲しい人が会いに来るけどなんだか哀しい事情があるというような映画だと思います。おそらく。
で、これは市川拓司の『いま、会いにゆきます』というベストセラー小説が原作です。
たとえばこれが平山夢明の『今会いに行きます』なら間違いなく基地害がやってきますよね。倉阪鬼一郎の『今逢いにいきます』ならそう言い残して出掛けた男がとんでもない目にあいますよね。田中啓文なら『居間、兄がいます』ですね。かなり適当ですけど。牧野修の『イマ、アイニイキマす』は、おそらく虐められた死者が蘇って復讐する話ですよ。ついでに言うなら牧野修の『海猿』もホラーですよ。おそらくクトゥルーものですよね。
と、ここまで敬称略でお送りしてきましたが、そのようなわけで、今回は原作付きのホラー映画の話でございます。
ええとですね、この辺りでなんか今日の文章はおかしいなあ、いつもと違うなあ、なんだろうなあ、怖いなあ、怖いなあ、と思っておられる方がございましたら、挙手を。あれ、いませんか。っちゅうか、そんなことに興味はありませんか。
ええとですね、正直云いまして今わたしはいろいろとぎりぎりで生きておりまして、そういった個人的な事情から、今回申し訳ありませんが、いつにも増して内容がありません。その分文章が低姿勢になっております。ああ、そういうことかと適当な理由をお考えの上、もろもろご了承下さいませ。ちなみに以下の文章も敬称略でお送りいたします。
さて、原作付きというと外せないのがスティーブン・キングです。
最新作ならリメイク版『キャリー』。シシー・スペイセク版のキャリーがどうだったのかもう覚えている人も少ないと思うのですが、それでもクロエ・モレッツにあんな役が出来るのかしら、と鼻で笑っていたわたしなのですが、予告編を見るととても面白そうなので反省しました。
それにしてもいかれた母親役をやっているジュリアン・ムーアの顔ってもともと怖いですよね。ミッキー・ロークが特殊メイクで演じた『シン・シティ』のマーヴに似てると思ってしまう罪深いわたしを神はお許しになるでしょうか。
そういえばホラー映画というのは顔芸の世界であったりもするわけで、ジム・キャリーなんかも『ケーブルガイ』を見てるとかなりホラー映画に欲しい人材だと思います。頭おかしめの悪役が似合ってるしね(『キックアス2』のスターズ大佐は良さそうだなあ。これも予告編しか見てないけど)。
ホラー、顔芸とくればこれ『シャイニング』最初から怖いジャック・ニコルソンと、怖がらされる側なのにやはり最初から怖い顔のシェリー・デュバルの顔芸対決はこの映画の見物のひとつですよ。半沢直樹なんか目じゃないっすよ。
と、だらだら喋っていてもキングの話題はかってにキングに還ってくるのでありがたいです。
キングがこのキューブリック版の『シャイニング』を気に入っていないのは有名な話ですけど、そこはかとなくわたしにもその気持ちはわかります。キングもいろいろと理由を挙げてはいますが、要するにこれはホラーじゃないと思ってしまうのですよ。キングがやりたいのはホラーなんだと。でもキューブリックはホラーをするつもりは微塵もないと。この辺り、同じキング原作対決で言うなら、監督の主張が色濃い作品でありながら『ミスト』がホラーで『シャイニング』がホラーじゃないというのが、わたしの印象でございますよ。あくまで当社比。個人的な感想なのですが。
キング原作のホラーでどうしても外せないのがデビッド・クローネンバーグ版の『デッド・ゾーン』です。単純にクローネンバーグ作品が好きだっていうことがあるんですけど、どうせ泣くなら孤独な超能力者の戦いに泣け! と力を込めてしまうわたしです。
超能力者と言えば、ずばり『超能力者』というタイトルの韓国映画があって、これがなかなかの佳作なのよ、奥様。目を見つめた相手を自由に操れるすごい能力を持った青年(イケメン)が些細な盗みを繰り返してわびしい生活を送っていたり(でもそういった日常のトーンで人も殺しちゃうサイコパスですけどね)、真面目に誠実に生きてきた青年(イケメン)がちょっとしたことから平凡な暮らしから転落して酷い目にあっている上に、そのサイコパスと戦うことになってしまう辛く哀しくわびしい展開を韓国映画らしくねっちりと描きつつ、「目を見た人間を簡単に自在に操れる」というワンアイデアをラスト近くど派手に展開させるアクション映画としても旨味たっぷりの映画ですのよ。
ね、今日は主題とかテーマとかを無視して行き当たりばったりでお送りしておりますでしょ。だから口調がちょっとオネエになっちゃったりするのよ。どうしてかって? 理由は聞いちゃ、だ・め。
もう、この勢いでキング原作映画特集でもいいかなと思い始めつつ言うのですが、みんなクライブ・バーカーという作家を覚えてるでしょうか。
バーカーも映画化されることの多い、というより自ら映画に深く関わった作家で、一番有名なのはやはり『ヘルレイザー』のシリーズです。SM風味の黒いロングコート姿がかっこいい魔道士の中でも、針治療を受けてる人みたいに顔面ハリだらけの魔道士の姿をどこかで見たことがあるのでは。シリーズは長く続きましたが、わたしのお薦めはバーカー自身が監督した第一作目と、怪物大行進状態の二作目です。もし近所のレンタル店で見つけたときはご覧になったくださいまし。
そしてわたしが偏愛しているバーカー作品が彼の『死都伝説』を原作とした『ミディアン』です。
聖書に出てくるミディアン人を原型とした伝奇ものでもあるので、それだけでも好みなのですが、闇の種族が棲む秘密の地下都市「ミディアン」を巡るお話がこれまたナイスなのでございます。
とにかく異形の者たちの楽園ミディアンがまるで小栗虫太郎の描く『人外魔境』のように切なく美しいのですよ。怪物愛、マイノリティー愛に満ちたこの映画に、異形を滅ぼす使命に燃えた怪物的人間として出てくるのがクローネンバーグだったりして、わたしにとってはホラーの宝石箱だったりします。
さてと、日本で映画の原作となるホラーを書きまくってる人、となるとまず日本にホラー作家を名乗っている人が少ないので、あまり思いつかないのですが、その代わりホラー漫画ならどっさりとありますよ。
たとえばホラー漫画と言えばこの人、楳図かずお。『蛇娘と白髪魔』(映画館の看板が怖かったなあ)に始まり、テレビ化もされた『漂流教室』に『神の左手 悪魔の右手』『おろち』『赤んぼ少女』に『猫目小僧』とがんがん映像化されています。ちなみにわたしは井口昇監督の『猫目小僧』が大好き。こう言うと「えっ?」って顔をされますが、楳図ファンとしても有名な綾辻行人さんもこの『猫目小僧』推しだと知ってほっとしたのでございます。
水木しげる翁の映像化作品もたくさんありますが、初期のテレビシリーズ『悪魔くん』や『河童の三平』はホラーとして見てもかなり怖かったです。
どろどろ加減ではトラウマ漫画家として有名な日野日出志作品が『日野日出志の怪奇劇場』として立て続きに出たときにはびっくりしました。『蔵六の奇病』をDVDで見られるなんて誰が想像したでしょうか。
そして連続してどんどん映画化されていった伊藤潤二。ホラーヒロインとして、貞子に先駆けてガンガン作られた『富江』のシリーズは有名だけれど、短編怪奇漫画(そう呼ぶのに相応しい絵柄と内容とアイデアなのですよね、素晴らしい)が次から次に映画化されました。『屋根裏の長い髪』や『首吊り気球』、『案山子』に『うめく排水管』。連作短編からは『うずまき』に『死びとの恋わずらい』ときりがないです。
どうかレンタル店のホラー棚でおさがしくださいまし。個人的には漫画を実写動画に変換するとこんなことになりました、というスタイリッシュな作『うずまき』をプッシュいたします。
さてと、原作付きホラー映画の話はここらへんにしまして、次回の予告告知でございます。
次回でこの『怖くないとは言ってない』も第十回目。ホラーだけでそこまで続くとは思っていなかったのに、あらおめでたや。
というわけで十周年企画をやろうと思っています。
実際どこまで出来るか知りませんが、まず十回目はエッセイではなくショートショートのホラー小説を書くつもりです。なんだよ、牧野の小説ならいらねえよ、と思ったあなた。これに全面的にYOUCHANさんが協力してくださるかもしれないのです。なんと申しましょうか、豪華イラストをわたしの小説につけてやってもよかろうとおっしゃってくださっているのです。しかも、しかもでございますよ、それをYOUCHANさんが御自ら豆本にしちゃいましょうか、とご提案をいただいております。さらにさらに、もし豆本しちゃったら、それを読者プレゼントにしましょうかと、夢のような提案をいただいております。まあこれもYOUCHAN様のスケジュールとやる気次第ですので、みなさん、それは是非とも見たいと、編集部まで励ましのメールしてくださいまし。
おたよりはこちら。
『投稿フォーム』まで。
人にだけ頼ってもいられないので、次回は読者プレゼントに私物のホラーDVDを大放出したいと思っております。
たとえばアメリカのテレビシリーズで放映されていたオールCGアニメの『スターシップ・トゥルーパーズ・クロニクルズ』のDVDボックスを全巻とかね。
とにかく物で釣る作戦でございますよ。
反響があるようなら、なんとか東京の方でイベントのようなことが出来れば良いねと言っております。これまたある程度の集客が見込めればの話なので、ご覧の皆様の反響次第でございますよ。見たい知りたいやってみたい、と思われた方は先ほどの投稿フォームまでよろしくお願いいたします。
あまり反響がなければまったく尻すぼみになって、次回まるで別のことを知らん顔でしている可能性もあります。なんとなくそうなりそうな気もする。
はてさて、ホラーの未来は、そしてわたしの生活は、来年どうなっているのか。
来年の『怖くないとは言ってない』第十回。いろいろと楽しみにしていてくださいまし。
『海猿』
『シン・シテイ』
『ケーブルガイ』
『キックアス2』
『シャイニング』
『ミスト』
『超能力者』
『ヘルレイザー』
『ヘルレイザー2』
『ミディアン』
『蛇娘と白髪魔』
『漂流教室』
『赤んぼ少女』
『猫目小僧』
『悪魔くん』
『河童の三平』
『富江』
『屋根裏の長い髪』
『首吊り気球』
『案山子』
『うめく配水管』
『うずまき』
牧野修既刊
『怪しの晩餐』