「リスのお嬢さんの大発見」高橋桐矢


(PDFバージョン:risunoojyousann_takahasikiriya
 森の奥に、ドングリの大きな木がありました。
 今年の秋もドングリがたくさんなったので、森のリスたちが集まってきました。
 リスのお父さんや、お母さんたちは、子供達に持って帰るドングリを両手一杯に集めています。男の子リスはどっちのドングリが重いか競争しています。
 そんな中、可愛いお嬢さんリスが夢中でドングリをかじっていました。
 その横に、綺麗に半分に割れたドングリのカラがどんどんつみあげられていきます。リスのお父さんが目にとめて、話しかけました。
「やあ、こんにちは。ずいぶんと綺麗に食べてるね」
 言われてお嬢さんリスが周りを見渡してみると、他のリスたちは、ヘタを取ってから、歯でかりこりとカラを少しずつかじって、中の実を取り出すものですから、あちこちに小さなかけらをまきちらしています。
「あら! まあ」
 お嬢さんリスは、新しいドングリを手に取りました。
「ヘタを取ってから、こうして真ん中に歯で割れ目を入れて」
 ドングリを縦に手に持ってぎゅっと力をこめます。カラがきれいに半分にパリンと割れて、中から真っ白いドングリの実が出てきました。
「ほら! みんなこうして食べているのじゃないの?」
 お父さんリスは首をふり、目を丸くして驚きました。
「これは君の大発見だよ!」
 他のリスも集まってきました。お嬢さんリスは、みんなの前で何度もドングリを割って見せました。他のリスたちも、まねして綺麗に割れるようになりました。
「これは便利ね」「食べやすい!」
 お嬢さんリスは「どうぞどうぞ。みんなに教えてあげてくださいな」と嬉しそうです。
 その日ドングリの木にやってきていたリスみんなが、このドングリの食べ方を教わって帰りました。
 さて次の日から、リスたちは、ドングリの実をぱりんと半分に割って食べるように……なったのでしょうか。とりあえず三匹のリスが家に帰ったあとの様子を見てみましょう。

 1匹目のリスのお父さんは、ドングリをたくさんかかえて巣穴に帰ってきました。巣穴には、まだ小さな子供達とお腹の大きなリスの奥さんが待っていました。
 リスのお父さんは、リスの奥さんに話して聞かせました。
「今日はね、とても良いことを聞いてきたよ。可愛いお嬢さんリスの大発見さ。ほら、こうして食べれば……」
 ドングリのカラはパリンと半分に割れました。リスのお父さんは得意げに何個も割って見せました。それを見ていたリスの奥さんは、ふくらんだお腹をさすりながら、ちらとリスのお父さんの顔を見ました。
「可愛いお嬢さんリスの、大発見、ね?」
 お父さんリスは鼻をふくらませて「そうさ!」と答えました。
 リスの奥さんは「ふうん」と言ったきり、なぜかその大発見の食べ方ではなく、いつも通りの方法であちこちにかけらをこぼしながら、食べ始めました。

 ドングリの木から帰った2匹目のリスのお母さんはどうしたでしょう。リスのお母さんは、もうすぐひとり立ちをする年の息子リスと二人暮らしでした。ドングリの実はその日の夕ごはんです。お母さんリスは、食べ盛りの息子リスのために、持ちきれないほど、ドングリをいっぱいひろってきたのです。
「さあさあ、もっといっぱい食べなさい」
 息子リスは、気のない様子で、ドングリのカラにあちこち歯を立てています。お母さんリスはどんどん息子リスの前にドングリをつみあげます。
「あなたは食べ盛りなんだから!」
 息子リスは今日はクリの木にでかけておやつを食べてきたので、あまりお腹が減っていないのです。歯形をつけては、ぽいと横に置きます。ドングリの実にいくつも歯形がつきました。息子リスはふと、歯形がついたところをぎゅっと押しつぶしたらきれいに割れそうだな、と思いました。1つドングリを手に持って力を入れようとしたとき、お母さんリスが「そうそうそう!」と大きな声を上げました。
「あのね、今日いいことを聞いてきたのよ。こうして歯形をつければ簡単に食べられるのよ」
 リスのお母さんがパリンと半分に割って見せました。息子リスは、それを見ながら、手元の歯形のついたドングリの実を見ました。今まさに、そうしてみようと思ったところでした。息子は、歯形のついたドングリをぽんと投げました。
「つまんねえよ。そんなの」
「大発見なのよ。簡単だからやってみて」
「うるせえよ」
 お母さんリスは、ふうっとため息をつきました。

 そのころ、3匹目のリスの若いお母さんは、子供たちに、新しいドングリのむき方を教えてあげていました。
「ほら、こうすれば、あなたたちにでもできるでしょう?」
「できる!」「ぼくだって」「あたしも!」
 小さな子供たちは、先を争って、ドングリをむき始めました。目をかがやかせてドングリをむく子供たちのことを、若いお母さんはニコニコと微笑みながらながめていました。最初は、綺麗に割れなかった子供たちも、何度か練習すると、パリンと半分に割ることができるようになりました。
「とっても上手ね。よくできたわ」
 若いお母さんリスは、手を叩いて喜びました。半分に割れたカラがいくつもつみあげられています。
 これまではカラをむいてもらっていた子供たちみんなが自分でむけるようになったのです。お母さんリスはみんなの成長をうれしく思いました。
 ところが次の日のことです。ドングリの実を手にした子供たちが「むいて」とねだります。
「あらあら、もうできるようになったじゃないの」
「ううん。ひとりじゃできないの」
 みんな首をふります。お兄ちゃんはお母さんの横に座り、お姉ちゃんはお母さんのしっぽの上に、弟リスはおかあさんのおひざの上で、キラキラした目でお母さんを見上げます。
「ねえ、お母さん、ドングリむいて!」
 若いお母さんリスは、笑って、「はいはい」と答えました。
「はい。順番よ。順番にね」
 若いお母さんリスは、小さなかけらを落としながらドングリをむき始めました。弟リスとお兄ちゃん、お姉ちゃんリスは、いつものようにかけらのパズルで遊びながら、お母さんリスがみんなのぶんのドングリをむいてくれるのを待っています。
 そういうわけで、せっかくの大発見がみんなにひろまることはなかったのですが、当のお嬢さんリスは、それからもパリンと割れるむき方でずっと食べていたということです。

終わり

高橋桐矢プロフィール


高橋桐矢既刊
『ドール
ルクシオン年代記』