(PDFバージョン:hosisinnitishou_miyanoyurika)
2013年8月7日、東京大手町の日経ホールで行われた「日経『星新一賞』創設記念シンポジウム」へ行ってきた。
面白いシンポジウムだった。
シンポジウムの内容については、既に〈日本経済新聞〉2013年8月30日(金)朝刊14面の全面にわたって詳細な報告がなされている。それをお読みの方も多いだろう。
このルポでは、私、宮野由梨香が面白く思ったことを取り上げて書かせていただきたいと思う。アンバランスな記載と感じられる向きもあるかもしれないが、どうかご容赦願いたい。
「あなたの理系的発想力を存分に発揮して、読む人の心を刺激する物語を書いて下さい」
非常にメンタルな規定である。「ショート・ショート」という形式を問題にしているのではなく、その形式を選びとった星新一の精神を問題にしていることがわかる。
もちろん、形式の縛りはある。「文量は、一般部門を10,000字以内、ジュニア部門を5,000字以内とします。空白は文字数としてカウントしません」ということなので、ショート・ショートか、短めの短編ということになるだろう。
(賞の詳細については、こちらの公式サイトをご覧ください)
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日経ホールは、びっしりと人で埋まっていた。ホルストの「木星」(組曲『惑星』)のメロディのオルゴール音が流れ、開始が告げられた。
まず、星ライブラリ代表として、星マリナ氏のオープニング・スピーチがあった。
賞の精神として「われわれが過去から受け継ぐべきものはペーソスで、未来に目指すべきはユーモア」という星新一さまの言葉が紹介された、そして、ユーモアの例として、「ビッグバン スロービデオでもう一度」「ブラックホール白いペンキを流し込み」「観光用いま募集中、火星人」といった星新一作のSF川柳があげられた。そして、「金無垢のロボットつくり 逃げられた」という句を示して「ロボット工学の研究者の方もいらしていると思いますが、ロボットにお金をかける時は注意してください(笑)。ちなみに日経「星新一賞」は、おとなも子供も、プロもアマも、人間も人工知能も、関係者も応募可です。外国人でも宇宙人でも日本語が書ければ応募できます。日本語の書ける宇宙人が何人いるかわかりませんが(笑)。応募できないのは最終選考委員と私だけ、ということになっていますので、みなさんぜひ応募してください。おもしろい作品をお待ちしています」と結ばれた。
短いながら、筋の流れがある、まるで、星新一のショート・ショートのような、みごとなスピーチだった。
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基調講演は、川口淳一郎氏(JAXA シニアフェロー・宇宙科学研究所教授)によるものだった。「はやぶさ・イカロスに秘められた独創力」と題された講演は「私がやっているのは、あくまでノン・フィクションなんですが、でも『SFをやっているでしょう』と言われる。シニアフェローですから、SFです(笑)」という風に始まった。「『隼(はやぶさ)』に『人』が加わると、サンプルを『集』めるになる……何よりも大切なのは、『人』です。人間のイマジネーションとインスピレーションです」ということで、「人間の新たなものを創り出そうとする力がすべてを生み出します」と主張された。「やれない理由を捜し出すのは簡単です。やれる理由を見つけて挑戦し続けることが、大きな成果に結びつきます。『こうやれば、できる』と発言してくれる人が育ってほしい。今回の賞の創設も、そういう人を育てることを目指して欲しいんです」と、賞によせる期待を語られた。
さまざまなエピソードが語られたが、そのほとんどが「オチ」のようなギャグを伴っていた。「……それは隕石とは関係がない。インセキ関係はありません」という調子である。SFについては、アポロ計画に先立って書かれたアーサー・C・クラークの作品がいかに刺激的であったかに触れられた。また、ビジョンを描くことの大切さを訴える中で、星新一の作品2編(「宇宙通信」「おーい でてこーい」)にも言及された。前者に関しては、大きな視点から見た時の我々の生存環境のあやうさを示す例とされた。また後者については、「穴にいろいろなものを捨てていく人は、目先の利潤のことしか考えていない。新たなページは、目先の繁栄の視点では開くことはできないと思うんです」と述べられた。
とても印象的な講演であった。
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パネル・ディスカッションは5人によって行われたが、5人ともそれぞれの分野で大いに活躍している方々である。
コーディネーターの滝順一氏(日経論説委員)が、「まず自己紹介と、ご自分のお仕事の中で『こういう時にインスピレーションを受けました』ということを話してください」と促した。
それに対して、浦沢直樹氏(マンガ家)は、13歳の時に手塚治虫の『火の鳥』を読んだことをあげられた。「なんてすさまじいものを描く人がいるんだろう」と思って、人生が決定づけられたことを述べられた。
朝倉啓氏(IHI常務執行役員)は「ものづくり企業の代表」と自らを位置づけられ、製造業の奥深さと意義を語られた。そして、「こういった最先端の技術に挑戦していくというスピリットは、幼いころに読んだ『鉄腕アトム』の影響が多分にあるかなと思います」と結ばれた。
松原仁氏(公立はこだて未来大学教授)は人工知能によるショート・ショートの創作を目指し、「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」を立ち上げたとのことだ。言うまでもなく、星新一の作品「きまぐれロボット」と「殺し屋ですのよ」を踏まえたネーミングである。「人工知能も応募可能ということですが、今年はまだ出せません。出せるように頑張りたいと思います」とのことであった。人工知能の開発に関しては、「2001年 宇宙の旅」や「鉄腕アトム」など、SF作品から大いに刺激を受けたし、何をやらせるかの発想のもとにもなったとも述べられていた。
この「人工知能に創作活動は可能か?」ということに関して、話題が集まった。
浦沢直樹氏から、次のような発言があった。
「よく充電期間が必要だとかいいますが、僕は30年間一回も連載を休まずに描いています。アイデアはずっと描き続けているからでるもので、その源は、泥臭い言い方ですが、生きざまだと思います。どのような姿勢で社会とコミットするかですね。出したもの1つの陰には、100ではきかないくらいのボツのアイデアがあるんです。あと非常にわかりづらい話なんですが、アイデアというものは、空間に浮かんでいるような気がするんです。自分が日々気がついていないだけです。自分が発想するというより、それに気がつくかつかないかの問題なんじゃないかと思います」「描いた人に憧れるとか、この人に何があったんだろうかと思わせるような作家性をコンピューターは持てるのでしょうか?」
川口淳一郎氏も、人工知能による創作ということに懐疑的な意見を述べられた。
それに対して、松原仁氏は「皆が無理じゃないかということにこそ、挑戦のしがいがある」と応じられ、「人工知能の研究は、人間とは何かという問題意識と結びつく。星新一の発想を理解することにもつながる」と、積極的な展望を示された。
最後に、浦沢直樹氏がスクリーンに絵を描き加えていくパフォーマンスも披露してくださった。最初、ただの○だったものが、だんだんと他の部分が書き加えられていくことによって、最初とは全く違うものとして見えてくるのが、圧巻であった。
それを見ながら、宮野は「創作の秘密とは、いったいどこにあるのか」と考えていた。
日経「星新一賞」の応募締め切りは、10月31日。
結果の発表は3月上旬以降とのことである。
どんな作品が「グランプリ」を射止めるのか、とても楽しみである。
宮野由梨香 協力作品
『しずおかの文化新書9
しずおかSF 異次元への扉
~SF作品に見る魅惑の静岡県~』