(PDFバージョン:kaibututokaijyuuto_makinoosamu)
論争というものは、常により良きもの正しいものを求めて行われるわけではない。というより、おおよその論争はどうでもいいことを話し合う。というか、大半はくだらない口喧嘩であったりするわけで、カレーライスのライスは皿の右側か左側かとか、蚊に刺されたとき爪で十字を刻むのは何故かとか、ほんとにどうでもいいことで延々と言い合いを続けていたりする。私も一度「幼児の頃に大便をどう呼んでいたか」という話になり「うんこちゃん」と「うんさん」に別れて大論争となったことがある。最終的には、呼び捨てにしないだけ「クソ」よりはましという結論で痛み分けになった。ほんとにどうでもいい話だったでしょ。
さてホラーである。
ホラー好きの間で論争のネタとして有名なものには「超常的な要素のない作品はホラーではない」というものがある。要するに幽霊や妖怪や、怪物に宇宙人などが出てきて怖がらせるのは良いけれど、「結局怖いのは人ですよね」みたいな話はホラーとしては認めない、という立場である。これを遵守するなら単なる殺人鬼映画はホラーではなくなる。その結果サイコホラーはサスペンスであってホラーじゃないとか、いや、あまりにも現実離れした殺人鬼ならホラーで良し、とか、ややこしいことになってくる。
次に有名なのは「走るゾンビはありかなしか」というものだ。腐った死体が走るわけがない、という意見はもっともだが、それを云うならまず死体が動くわけがないという根本的なところから問題となってくる。
そろそろ今回のテーマが見えてきたと思う。見えてこない人は置き去りである。というわけで「怪獣か否か」論争が今回のテーマである。もう露骨にパシフィック・リム公開便乗企画である。
論争に踏み切る前にちょっと怪獣&特撮の話題を二題。
一つ目はこれ。我々の怪獣基礎知識は円谷プロのウルトラ・シリーズによって得たものですが(でしょ?)、『別冊怖い噂 マンガ・アニメの怖い話』に、ウルトラ病というスーツアクターの怖い話が載っています。なんだか酷くえげつない話でありますが、信じる信じないはあなた次第です。
もう一つ、特撮と云えばこれだけは云わせて欲しい駕籠真太郎(カゴ・シンタロウ)著の『アナモルフォシスの冥獣』。怪獣、キグルミ、ミニチュアと特撮三題噺の中で進行する異常な殺人事件。いつもながらの異様なロジックで組み立てられた奇っ怪なトリックを君は見破れるか。もう、なんか自分が描いたぐらいの勢いのどや顔で説明しちゃいましたよ。
それでは個別に怪獣仕分けをしていきましょうか。
例えばハリウッド版ゴジラを怪獣に入れない人は多い。あれは恐竜の仲間であるとか、大きなトカゲに過ぎないとか、理由は様々だ。怪獣はこだわりの強い人がたくさんいるので、私はここでそれに結論を下す勇気はない。というか、あらゆる論争に結論を出す勇気はない。なぜなら意気地なしだからだ。自信たっぷりに云う台詞ではないが、真実である。
とりあえずあなたはどう思いますかと問いかけつつ、怪獣関連作品をちょこっとご紹介。
まずは『ふかい~話』でも紹介した厭ホラー『ミスト』に出てきた異世界の奴ら。
これはむちゃくちゃ微妙である。ラスト近くの超巨大なあいつは怪獣と云って大丈夫なような気もしますが、いかがでしょうか(弱腰)。
じゃあ、『スターシップトゥルーパー』。いわゆるひとつのムシムシ大行進である。これまた超巨大な奴らがぞろぞろ出てくる。あえて云わせてもらえるなら、どうして地球からあの星に向かった艦隊は行列のできる店の前に並ぶ人々みたいに互いにみっしりと肩を並べて宇宙を飛ばねばならないのか、と世間に問いたい。怪獣かどうかは知らん。
『トレマーズ』の地底生物グラボイズはどうだ。さあ、どうなんだ。巨大なUMAって怪獣なのか? 河童や天狗など、妖怪とUMAの境界線も曖昧ではあるけれど、UMAと怪獣も取り扱いが難しいのである。
続きまして『デッドリー・スポーン』。いろいろありますけどもあれはやっぱり怪獣じゃないっすかね。細かいところを云えないのがつらいですけど。
そして『クローバー・フィールド』。逃げ惑う群衆視点の主観撮影、いわゆるPOV方式なので、それが何なのか、どうして現れたのか、国はどうやって対処しているのか、すべて不明です。これも二種類の生き物が出てくるんですけどね、片方は怪獣と呼んでもさしつかえないんじゃないのかな、なんてね(どこまでも弱気)。
『モンスターズ:地球外生命体』はNASAの探査機がメキシコ上空で爆破して宇宙生物をまき散らした結果、メキシコにとんでもないモンスターが生息する危険地域ができちまったぜ、という話。地球外生命体の話なので正体は宇宙生物ですよね。このあたり判断の鈍るところです。最初から鈍ってますけど。
さて今回の怪獣仕分け、実は第四回「涙腺系でGO!」で味を占めたアンケート調査を今回もやっちゃいました。今これを書くのに調べていて気がつきましたが、その泣ける映画特集も真夏にやってましたよ。私は暑くなるとアンケートに頼りたくなる体質なようです。
今回のアンケートは「これは怪獣でしょうか、非怪獣でしょうか」という怪獣仕分けを各界の著名人の方々にしていただきました。
仕分けしていただく作品は以下の十作品です。
1、キングコング
大きいだけで猿じゃんという人もいるかもしれないが、国内ではゴジラと戦っていたりして、なかなか微妙な立場にいます。
2、ハリウッド版ゴジラ
前記したように賛否両論のゴジラです。
3、パシフィック・リム
公開前ですが、ネットでは予告がガンガン流れているので、少なくともどんなものが出ているのかは知っているだろうというのを前提として訊いちゃいました。ギレルモ・デル・トロ監督は愛が溢れてカイジュウって云わせちゃってますけどね。
4、ペロリゴン
実写版「悪魔くん」にでていた、何でも舐めて溶かしちゃう妖怪です。妖怪と云ってますけど、見た目は全くの怪獣なんですが、説明をぜんぜんしなかったため、知らなかった人が少なからずいたのが私の失敗です。
5、グエムル
これまた立ち位置微妙な存在です。
漢江の怪物というサブタイトルがついているから、怪物かと云えば、しかし見た目はかなりの怪獣ぶりだったりします。
6、ピグモン
ウルトラ怪獣に分類はされているでしょうけど、人間サイズで、しかもどうやら人の言葉をそこそこ理解しているようなところも判断を危うくするはず。
7、西洋の竜
いろいろと種類はありますが(喋っちゃうのとか恐竜っぽいのとか)、中世ヨーロッパ風ファンタジーには間違いなく出てきますよね。ジャバウオッキーなんかもその仲間かな。アニメーション『ヒックとドラゴン』には個性的な種類のドラゴンたち勢揃いしていて楽しめました。ちなみに続編は「ヒックとドラゴン、その妻と愛人」です。嘘です。
8、大魔神
時代劇に出てくるこれは神様というのが正しいかと思いますが、神様的な怪獣もたくさんいるので。
9、クトゥルー
ご存じ邪神でございます。ご存じじゃないかもしれないけど。で、邪神というのは絵にしてしまうとぐんと怪獣へと近づきます。
本家ウルトラシリーズにも邪神ガタノゾーアというのがでてきたりしてますから、その辺のところも悩ましいところです。
10、フランケンシュタイン・モンスター
モンスターってついてますけど、人造人間です。人造人間というとちっとも怪獣っぽくないですが、人工生命M1号なんかは怪獣っぽいです。ウルトラQですしね。
という非常に判断に困る十作品を揃えてみました。そしてその回答をいただいております。
今回はこのサイト『SF Prologue Wave』の全面協力をいただき、編集でお世話になっている方々にまず答えていただきました。
前編集長にしてSF作家八杉将司さんの回答は怪獣の定義から始まります。
まず怪獣の要件を考えてみました。
・巨大。(伸縮自在なのも含めて)
・街を破壊。(ビル、家屋倒壊レベルの)
・現代兵器でも歯が立たない。少なくとも倒すまでは不可能。(ただしSF的な兵器では辛うじて倒せる)
・謎の光線、炎を出す。
この要件を二つ以上満たした「キャラクター」であれば「怪獣」かなと。
ウルトラマンやゴジラが登場する世界の中で、その主人公たちと双璧(もしくは自らが主人公)となり得るにはこのあたりが必要な要件だろうと思ったわけですが、怪獣に詳しくないのに思いつきで答えているだけなので異論あると思います。先に謝っておきます。ごめんなさい。
いえいえ、怪獣好きに上下なし。
詳しいとか詳しくないとかでいうと、まず私が詳しくないですから。
もうただただ便乗企画で怪獣を扱ってしまってますから。
というわけでアンケートの答えへと戻ります。
・キングコング(怪獣)
巨大だし、当時の現代兵器では倒すの難しかったし、あとゴジラvsキングコングというのもあったから怪獣ということで。
・ハリウッド版ゴジラ(怪獣に非ず)
でっかいトカゲ以上のものではなかった気がするんですが。要件でも当てはまるのは「巨大」ぐらいですね。街破壊してましたけど、「ゴジラ」という看板を背負っているからには尻尾一振りでビル倒壊ぐらいしてもらわないと。なのでここは厳しくして怪獣ではないということで。
・パシフィック・リム(怪獣)
予告しか見てないので断言できませんけど、あれは怪獣でしょう。
・ペロリゴン(怪獣)
全然知らなくて検索したら……これもたぶん怪獣かなあ。巨大だったし、作品は見てないけど、なんか家屋倒壊ぐらいはしてそうな気がするし、たぶん当時の兵器では倒せないような設定にしてそうな気もするので。
・グエムル(怪獣に非ず)
ハリウッド版ゴジラよりは怪獣な気もしましたけど、ちょっとスケールが小さいかな。もっともそれだけに不気味な印象が強く残る怪物ではありましたが。
・ピグモン(怪獣)
怪獣。いや、挙げた怪獣の要件からすると微妙なところではあるかもしれませんが……怪獣と言いたい。やればできる子だと思うし。
・西洋の竜(怪獣に非ず)
怪獣は、怪獣という概念が生まれた以降に登場した怪物、モンスターを指すのであって、その前から認知されていた西洋の竜は怪獣とは言いません。たぶん。
・大魔神(怪獣に非ず)
ウルトラマンを怪獣とはいいませんよね。それと同じ意味でこれを怪獣というにはちょっと。ただ、どちらかといえばあれってウルトラマンよりガメラに近い存在なのかもしれませんが……。
・クトゥルー(?)
これ、中には怪獣の要件ががっちり含まれたキャラクターもいるようにも思うんですが、どうなんでしょうか。ごめんなさい、あまりたくさんは知らないんですよ。範囲が広すぎてなんとも言えないのでパス。
・フランケンシュタイン・モンスター(怪獣に非ず)
怪獣の要件には当てはまらない点が多いので怪獣ではないと思います。
ということでたいして怪獣のことを知らないのに無理やり要件を作って答えてみましたが、考えれば考えるほど怪獣とは何かよくわからなくなりますね。この怪獣の要件もなんか大きな勘違いをしてるんじゃないのかなという気がすごくしてます。怪獣作品の内面まで掘り下げたらまた違うものが見えてくるだろうとも思いますし。
想像以上に難しいアンケートでした。
今回難しいという感想が多かったのですよ。みんなかなり真剣に考えて下さったようで、ありがたいことでございますよ。
さて、次は現編集長片理誠さんでございます。
片理さんの怪獣定義は、今回のアンケートの中でひときわユニークでした。
早速紹介します。
私の勝手な解釈ですと、「怪獣」というのは「怪獣映画」に出てきそうなモンスター、ということになっています。本当は「怪獣」が出るから「怪獣映画」なんだと思うんですけど(汗)、私の中では「怪獣映画」に出てるから「怪獣」っていう気がしているのです。
ここで大事なのは、「怪獣映画」は子供が見ても大丈夫なものでなくてはならない、という点です。つまり、あまりに恐ろしすぎたり残酷すぎたりするのは子供には見せられないので「怪獣」ではない、ということになります。
怪獣映画に出ているのは怪獣というのは、SF専門誌に載る作品はSFっていうのと同じですよね。
困ったときの雑誌頼みというか、所詮定義ってそんなものですよね。
さらに意外な定義が「子供に見せられるか否か」。この視点はなかったなあ。
さて、これに従うとどうなるでしょうか。
それがこれ↓です。
・「怪獣」(分類の理由は「そんなには恐くない」から♪)
キングコング(♪恐くなんかないんだよ~♪、だから)
ハリウッド版ゴジラ(魚しか食べなかった!)
パシフィック・リム(ネットで画像検索したらモンスターの造形が格好良さげだった)
ペロリゴン(ネットで画像検索したら可愛らしい感じだった)
ピグモン(これも可愛らしいからOK!)
西洋の竜(“恐い”というよりは“強い”というイメージですよね)
・「非怪獣」(分類の理由は「恐すぎる」から!)
グエムル(見たことはないんですけど、なんかリアルっぽくて恐そう)
大魔神(顔が恐い)
クトゥルー(邪神全部に恐ろしげなイメージしかない)
フランケンシュタイン・モンスター(つぎはぎの死体が動くなんて恐すぎ!)
うむ。これはわかりやすい。成人向けの指定があるものはエロい、みたいな発想ですよね。
次はこのエッセイに可愛いイラストを描いてくださっているYOUCHANさん。
先日個展を拝見させてもらったのですが、どうしてこんなエッセイのイラストを引き受けたのかわからない、せつなきれいカワイイ系列のイラストばかりでございましたよ。本当に申し訳ないっす。最初の頃はイラストを描くために知らない映画を検索していたそうですが、あまりにあまりな画像ばかり次々に飛び出してくるので、不用意に検索するのは止めましたとおっしゃってました。もう数限りなく迷惑を掛けております平伏。
えーと。
むっつかしいですねぇぇ~。
というのが第一声で以下そのまま引用いたします。
・キングコング=非怪獣 ゴリラだから。
・ハリウッド版ゴジラ=怪獣 ゴジラだから。
・パシフィック・リム=非怪獣 芦田愛菜ちゃんだから。
・ペロリゴン=んん? 知らなくてすみません。
・グエムル=非怪獣 怪獣というより怪物、かなぁ。映画は見てないのですが。
・ピグモン=怪獣 ウルトラマンに出てたから。
・西洋の竜=怪獣 東洋の龍は怪獣じゃなくて神様だとおもいますが。
・大魔神=非怪獣 神様だから。
・クトゥルー=非怪獣 邪神だから。イア!イア!
・フランケンシュタイン・モンスター=非怪獣 怪人だから。
ざっくり、です。
次回挿絵はカワイイ怪獣を~。
というわけで、楽しみ!
どんなイラストがついてます?
次は最初からこのエッセイを担当してくださっていた作家の図子慧さんです。
何によって分類するか、からうかがっています。
そのクリーチャー自身が、自分をどう定義してるか(というか定義する能力があるか)で、カテゴライズされているような気がします。大魔神とグエルムは、自分がなにかなんて考えもしないのでは、と思ったり。
ということを念頭に置いて以下がその分類です。
・キングコング
怪物(人と同じような知性がある。本当は怪人にいれたいけど、サルだから)。
・ハリウッド版ゴジラ
トカゲ。
・パシフィック・リム
怪獣(期待)。
・ペロリゴン
すみません、知りません。
・グエムル
妖怪(女の子を狙うから)。
・ピグモン
怪獣(かわいいので)。
・西洋の竜
怪物(知的であるという点で。神より悪魔寄りだと思います)。
・大魔神
妖怪(物の怪という感じがします)。
・クトゥルー
怪物(独自の社会を持ってますし)。
・フランケンシュタイン・モンスター
怪物(知的であるので)。
知性というのは確かに怪獣と怪物を分ける一要素かもしれません。
続きまして作家、漫画原作者の南智子さんです。「私自身は怪獣が好きではありますが、自慢できるほどの知識やマニア度を誇ってるわけでもないのですが、僭越ながら参加させていただきますね」とご謙遜されてからのご意見です。
*怪獣と言って良い*
> パシフィック・リム
> ペロリゴン
> ピグモン
それ以外は、
> キングコング
でかいゴリラ。
> ハリウッド版ゴジラ
恐竜。
*神*
> 大魔神
魔神。その名の通りですがいわゆる〈土着神〉の一種ではないかと。
> クトゥルー
も土着神という点では似ていますが、魔神というより邪神と呼びたいところですよね。
この二つは〈恐ろしい神様〉(祟り神の巨大なもの?)ということで同じ分類にしました。
その他、
> グエムル
> 西洋の竜
> フランケンシュタイン・モンスター
は〈怪物〉というくくりに入れました。
といっても、一つ一つ詳細は異なると思いますが……
こうしてみると、怪物というジャンルが最も曖昧で範囲も広いかな、と思った次第です。
友人、アシスタントさん、そして相方のきょんさんなどとわいわい云いながら決定していったそうで、「怪獣とは着ぐるみであるもの」という定義が飛び出し驚いたりしつつも、ご自身の定義は以下のようになっております。
さて、私自身の意見ですが、怪獣って本当にある種、独特なモンスター観で出来た存在だと思うのです。
ビルよりも巨大であること、あまり伝承や神話などに縛られない独自の素性を持っていること、あたりまえのように何度も人間社会を急襲してくること……などを考え合わせると、やっぱり怪獣って〈台風〉なのかなーと思います。
地震、その他の自然災害も含みますが、そういった抵抗できない大自然の災害を日本的な感性でモンスターに仕立てたもの……なのかなぁ。
ゴジラは戦争の象徴だ、なんて言われたりしてるみたいですけれどね。
あーでもないこーでもないと怪獣の定義についていろいろ悩んで下さったようです。ありがとうございます。
さて次はミステリ作家の我孫子武丸さん。
やはり最初の一言はこれです。
またこんな難しいものを……
・キングコング
大猿なので怪物(モンスター)だけど怪獣ではない。
・ハリウッド版ゴジラ
大トカゲなので怪物(モンスター)だけど怪獣ではない。
・パシフィック・リム
観てないので分からない。
・ペロリゴン
ゴンとつくのは怪獣。
・グエムル
誰が観ても怪獣。行動原理も怪獣。
・ピグモン
モンも大体怪獣。
・西洋の竜
ケースバイケースの気がする。怪獣的にふるまえば怪獣かも。
・大魔神
ランプの精を「怪獣」と言う人はいないと思う。
・クトゥルー
すみません。クトゥルーはよく知らないので。
・フランケンシュタイン・モンスター
怪物。全然「獣」的要素もないし。
ゴンとついたら怪獣というのは、皆さんの共通認識のようでした。
じゃあ、ごんきつねは、とか思ったりしたことは内緒です。
続きまして作家田中哲弥さん。
・キングコング
ただの大きい猿なので非怪獣。
・ハリウッド版ゴジラ
ただの大きいトカゲだと思いますが「ゴジラ」と言ってしまっているので怪獣。
・パシフィック・リム
予告編しか見てませんが監督が怪獣だと言っているそうなので怪獣。
・ペロリゴン
なんやそれと思って調べてみました。なんやこれ。たぶん怪獣だと思います。なんとかゴンという名前のものはたいてい怪獣。
・グエムル
おっさんの食事シーンがえぐかったなあという印象が強くてどんなんだったかはっきり覚えていませんがあれは怪獣でしょう。
・ピグモン
小さいけど『怪獣ウルトラ図鑑』に載っていたので怪獣。
・西洋の竜
剣と魔法とか指輪捨てたりあんまり好きじゃないので非怪獣。
・大魔神
ただの大きい魔神なので非怪獣。
・クトゥルー
よくわからないけど非怪獣。
・フランケンシュタイン・モンスター
こんな感じの人はそこらへんにちょいちょいいるので非怪獣。
ね、ゴンがついたら怪獣というのは共通でしょ。でね、昔このゴンって何だって話になったんですが、その時の結論は「ドラゴン」の「ゴン」でしょ、というところに落ち着きました。となると竜はやはり怪獣なのか?
続きましてカメ的作家北野勇作さん。
やはり最初の一言はこれ。
しかし、これは難しいですねえ。
・怪獣
ハリウッド版ゴジラ
パシフィック・リム
ペロリゴン
グエムル
ピグモン
西洋の竜
クトゥルー
*******************
・非怪獣
キングコング
大魔神
フランケンシュタイン・モンスター
けっこう悩んだすえの分類だそうです。
今回のアンケートをものすごく楽しんで下さったのも北野さんでした。
よかったよかった。
以下は北野さんによる解説です。
もういちどやれと言われたら、変わるかもしれません。
いちおう、物理的には辻褄があわないとか、通常兵器はなぜか通じない、というようなのが怪獣だと思ってます。
大魔神は通常兵器は通じないと思いますが、まああれは形があれだし、顔はおっさんだし、女好きだし、服というか、鎧みたいなのを着てるし。
やっぱり、犬と怪獣には服を着せてはいけないと思います。
フランケンシュタインも服を着ているからダメです。女の子好きだし。弱いし。
キングコングは見た目が猿だし、女好きなところもダメです。弱いし。
ピグモンは弱いし怪獣っぽくないですが、ウルトラマンとか科学特捜隊と絡んでるし、まあ名前からして怪獣です。
パシフィック・リムはまだ観てないけど、ロボットみたいなのと戦ってるからきっと怪獣でしょう。
ハリウッド版ゴジラは、恐竜っぽい骨格にしてるけど、あんなでかくて重いものを恐竜の骨格で支えられるわけがないので怪獣だと思います。
グエムルは脚が多いから怪獣です。
西洋の竜は、翼があって火を吐くから怪獣。
クトゥルーもぐにゅぐにゅして触手とかあるしめっちゃ強いから怪獣。
このメールが送られてきてから、すぐに第二弾が届きました。
これです。
ペロリゴンが怪獣である理由を書いてませんでした。
まああれは大きいしどう見ても普通の生き物ではないし、名前からしても怪獣だし妖怪だとしても、肉体を持った巨大な妖怪は怪獣だと私は思うので怪獣でいいと思います。
怪獣は女嫌いというのが北野さんの説のようです。後でメールでそうですよねと確認すると、怪獣は女性関係が重要と、芸能記者みたいなことを云ってました。
続きまして今回初登場のファンタジー作家五代ゆうさん。これはファンタジーな作家という意味ではなく、ファンタジー作品を多く書かれておられるという意味です。
前にもうかがったことがあるのですが、怪獣か怪獣でないかは直感で即決なのだそうです。このようにおっしゃっています。
頭の中に怪獣センサーが入っていて、それがたとえ世間で「怪獣」と呼ばれていてもそれが違うと判定すると「これは怪獣じゃない(ぶー」とダメだしブザーが鳴る私です。
なるほどなるほど。理屈ではない反射的なものなのだそうです。まあ、当然といえば当然ですけど。
・キングコング:でっかいゴリラ
なんかこう美女に弱いとことか「ああ猿だなあ」という感じです。外見も「でかいゴリラ」で特に怪しい獣ではありませんし、人間が理解可能な存在は基本的に非怪獣分類。
・ハリウッド版ゴジラ:くそでかい二足歩行のウミイグアナ以外の何物でもなし
あのようなまがいものはゴジラではなく「ガッズィーラ」で十分です。マグロ食ったり卵ぽこぽこ生んだりたかがアメリカ軍風情のできあいミサイルで死んだりするでかい爬虫類に栄光ある怪獣王の名を名乗る資格はありません。
・パシフィック・リム:頑張ってるけど今のところ「なんか違う」感漂う何か
PVを見た限りの感想なので本編を見れば「これは怪獣(ぴー」てなるかもしれませんが、デル・トロ監督すごく頑張ってるけど何かが足りない、そんな感じ。ただモデル原型師の寒河江弘さんが試写会行ってたいへん感心してらしたので、もしかしたらの保留。あと関係ないけど巨大ロボはもっとロボロボメカメカしててほしい。なんかでかいパワードスーツに見える。
・ペロリゴン:怪獣
現れ方が妖怪的なので(封印の地蔵が倒されたから?)微妙なところですが、問答無用で人を飲みこんだり怪しい獣としか形容できない外形といい、やはり立派な怪獣。
・グエムル:怪物
「怪獣」ではない「怪物」。『トレマーズ』のグラボイズ的何かというか、襲われる!怖い!というだけで怪獣に必要な詩情というかそういうものに欠けるのでただの「怪物」。
・ピグモン:怪獣
ウルトラ怪獣はだいたいみんな怪獣(※ウルトラマンコスモスの「怪獣」除く。人間に保護される怪獣などただの巨大動物です)。赤い風船持ってる姿の不思議な詩情といい、全身赤いトゲトゲの怪しさ全開の姿なのにどこか漂う愛嬌といい、どこからどう見ても怪獣。
・西洋の竜:幻獣
扱われてる作品によって位置づけが違うと思いますが、伝説や英雄譚に登場する竜は悪の象徴、ゲームやファンタジーに登場するものは妖精的または悪魔的な何かだったりといろいろ。しかしいずれにせよ西洋の伝統に根ざした存在なので怪獣ではなし。
・大魔神:大魔神
大魔神は大魔神以外の何物でもないかと。まさに「魔神」。娘の願いによって柔和なニギミタマから怒りのアラミタマに変身するところなどまさに日本の土着の神様です。
・クトゥルー:異界の存在
根本的に存在の位相が違っている何か。怪獣は少なくとも人間と同位相にいますが、クトゥルーはなんかそういうのを超越した別の時空間にうじゃうじゃうようよしてるものな感じ。
・フランケンシュタイン・モンスター:モンスター
文字通り「モンスター」。ある程度の知性(原作では非常に高い)と奇怪ではあるがほぼ人間に近い容姿を持ち、人間に作られながらその人間から排斥されることを悲しみながら、花を差しだした少女を絞め殺してしまう残酷な無垢さというある意味わかりやすい構造を持っているので、「モンスター」と形容するのが一番かと。
ペロリゴンでたったひとり「妖怪」というタームを出して下さいました。判定は怪獣ですが。
ホラー的な解釈として私はこれを妖怪だと思っているんですよね。どうやら皆さんそうは思っておられないようですが。
さて、今回初登場の方がもう一人。
SF作家林譲治さんです。
さすがにハードSFの方に相応しく、最初に怪獣の定義を模索されております。
基本的に人間由来のものと学名が確立しているものは、怪獣の範疇には含まれないと思います。人間はモンスターにはなれても獣にはなれない。生物学的な分類が確実に為されるならば、つまり生物として分類できてしまったものは、怪獣では無い。ただ分類の定義というか、深さという問題はあると思います。アンギラスとゴジラを区別できても、そのレベルでは怪獣の分類であって、生物学的な位置づけではない。
そして以下が仕分けです。
*怪獣
キングコング 巨大な類人猿なので、非怪獣にもっとも近い。
ハリウッド版ゴジラ ジョン・レノがなんか言ってるので微妙なところがありますけど。
ペロリゴン 怪獣でしょう。
グエムル これが得体の知れない獣としては、いまもっとも怪獣の名に値すると思います。
ピグモン 怪獣でしょうね、人間に親しまれてますが、正体不明。
*非怪獣
パシフィック・リム でかい工業製品。
西洋の竜 話で聞く分には抽象概念、ただこれはモンスターであって怪獣とは違うと思います。
大魔神 怪獣より人間属性に近い。
クトゥルー 邪神は怪獣とは違う。
フランケンシュタイン・モンスター 元人間だし、モンスターであっても怪獣ではない。
なるほどなあ、という納得の分類でございます。
さて次はいろいろ作家(いろものじゃないよ)の田中啓文さん。やはり直感的な分類なのでと断られてから、以下のようなことになっております。
・キングコング→非怪獣。猿に分類される。ウルトラQのゴローは巨大化した猿だが、それとどうちがうねん、ということで非怪獣。あと、尻尾がないのもマイナス要因。
・ハリウッド版ゴジラ→非怪獣。恐竜に分類される。ジュラシックパークに出てくる連中は全部(すごくかっこいいけど)恐竜であるが、それとどこがちがうねん、ということで非怪獣。あと、怪獣はあまり走るのが速くないものだが、こいつはめちゃ速いので非怪獣。
・パシフィック・リム→まだ観てないからなんともいえないけど、予告編を観たかぎりでは怪獣っぽいから怪獣でええんちゃうの。
・ペロリゴン→妖怪的だが怪獣。なぜなら名前に「ゴン」がついている。
・グエムル→これは怪獣でしょう。非怪獣的要素は感じません。
・ピグモン→友好珍獣ですから、怪獣の一歩手前ぐらい。微妙。小さいということはかなりマイナス要因。
・西洋の竜→怪獣。めちゃ怪獣。
・大魔神→非怪獣。おっさんに分類される。
・クトゥルー→非怪獣。少なくともラヴクラフトはそうは思っていなかったと思うので、もし自分がクトゥルーを書くとしたら怪獣的には書きたくない。
・フランケンシュタイン・モンスター→非怪獣。人間に分類される。尻尾もないし小さいし。バラゴンと戦ったやつはけっこうでかかったけど。
まずは足の速いのは怪獣じゃないという新説。でもなんとなく納得はしてしまうなあ。
そして大魔神をおっさん扱いもまた共通認識なのか。
サイズの話を出して下さったのは田中啓文さんだけか。
私の持論ですが、ホラーに通用する怪物の大きさはせいぜい五メートルまでというのがあって、逆にいうと小さいものは怪物でいいのでは、と思っています。それでいくとピグモンは怪物なんですよね。と自説を述べ始めたところで最後の最後。怪獣仕分けの大トリは、怪獣作家小林泰三さんです。これまた初登場でございますよ。
・キングコング
怪獣ですね。巨大な猿が怪獣でないとしたら、ゴローも怪獣でないということになってしまいます。
・ハリウッド版ゴジラ
怪獣ですね。ゴジラですから。
・パシフィック・リム
怪獣ですね。何を以てあれが怪獣でないと言えるのでしょうか?
・ペロリゴン
怪獣ですね。「ゴン」が付いてますから。
・グエムル
突然変異で巨大化したから怪獣です。
・ピグモン
ウルトラ怪獣なので怪獣です。
・西洋の竜
微妙ですが、キングギドラに似ているので怪獣でしょう。
・大魔神
怪獣図鑑に載っていたので怪獣でしょう。
・クトゥルー
怪獣ですね。巨大な蛸が怪獣でないとしたら、スダールも怪獣でないということになってしまいます。
・フランケンシュタイン・モンスター
巨大化して地底怪獣と戦うところからして怪獣でしょう。
怪獣でないものと言えば、ウルトラマンとか、ショッカー怪人とか、オバQとかですね。
さすがですね。森羅万象が怪獣でございますよ。仕分けするまでもありませんでした。
これでアンケート結果発表は終わりでございます。これだけの人に訊ねながら、なにひとつ私はまとめておりません。まとめは皆さんの心の中に。
というわけで、皆さん、お忙しいところ、ご協力ありがとうございました。
さてさて、この『怖くないとは言ってない』も今回で八回目、一年以上の連載となりました。
というわけで、十回目は記念として何かを企画しようかと思っております。たとえば忌まわしい読者プレゼントなどはいかがでしょうか。いりませんか。そうですか。
ぜんぜん感想は聞こえてきませんが、みんな読んでるかい。何か十回記念企画でご希望がありましたら、やれる限りお答えしますのでよろしくお願いいたします。
十回を迎えるのは来年の初頭ぐらいでしょうか。その頃もまだ、こんなぐだぐだしたどうでも良いようなエッセイを笑って読んでいられる時代であることを切に願います。
牧野修既刊
『奇病探偵
眠れない夜』