「三島浩司インタビュー」高槻真樹

(PDFバージョン:interview_misimakouji

――このたびは「ダイナミックフィギュア」の「SFが読みたい!」3位おめでとうございます。

三島「…まだ見てないけど(笑)これから買いに行きますよ」

――ロボットSF小説というのもありそうでなかった気がします。これはやはりご専門(電気)ということでしょうか?

三島「いや、あまり関係ないと思いますよ。むしろ僕みたいに精通していない人間の方が一から世界が作れるんじゃないかと思います。ロボットSFって、最近はあまり新しいものがないなあと感じていて自分に何かできないかと考えたわけです」

――小説では瀬名秀明さんがやっておられるような、自律型のロボットが多いですよね

三島「まあ時代時代でのトレンドというのがありますから…今回僕の場合は二足歩行ロボットを書きたいというのが大前提としてあったんです。実は二足歩行でなければいけない合理的な理由というのはほとんどないんです。二足歩行を成立させるためにどのような要素が必要かと考えていくうちにあの世界ができてしまった、というところでしょうか」

――まあ誰でも考えることとは思うんですが、「エヴァンゲリオン」の影響というのはありますか

三島「あれはロボットの概念を一歩進めたものではありますよね。影響は受けています。オタクっていうほどではないけどロボットアニメは好きですよ。やはり日本の文化じゃないですか」

――確かにアシモフも自律型ですし、海外SFで操作型は少数派かもですね

三島「僕がSFにたずさわる上でロボットの文化に貢献したいという思いはあったんですよ。操作型っていわゆる『少年の心』じゃないですか(笑)子供のころには『マジンガーZ』とかありましたし。僕自身あまり難しい考察とかはできないんですけどね…」

――とはいえ出来上がったものはかなりハードですから、必ず何らかの背景があるはずです。まず出発点は「二足歩行」なわけですか?

三島「ええ、二足歩行を成立させるために敵も作ったし」

――五加一っていう概念は面白いですよね

三島「でしょ?実は最初はロボットのパーツごとに国の所有権を割り当てて全部の承認がないと動かない、という設定を考えたんです。さすがにそれは没にしたんですが、それが五加一になりました。子供向けの場合はそういうところで凝っても仕方ないですが、大人向けの小説の場合はそのあたりでひと設定ほしいですよね」

――それで実際読んでみると、ロボットSFというよりは、ファーストコンタクトSFの色彩が強いですよね。

三島「皆さんおっしゃいますよね。実はほとんど意識していなかったんですが。じゃあ侵略SFは全部ファーストコンタクトなのか、という…」

――いやいや、相手がそもそも危害を加える意図があるのかどうかすら分からないわけじゃないですか

三島「実際に起こらないだろうから考えるしかないんだけど、起こらないなりにリアリティをたぐっていった結果ですね。確かにファーストコンタクトを前面に押し立てていく気はなかったんですが、そこを書くことである程度格好をつけないといけないと、自分らしさのリアリティを求めていった結果としてああなったというところでしょうか。ファーストコンタクトならファーストコンタクトでちゃんと別に一冊書きたいという気はあるんですが」

――どうやら「自分らしさ」というのが三島さんにとってのキーワードであるようですね

三島「たぶん、僕たちが想像しているような未来にはならないだろうというのが根本にあるんです。今回『ダイナミックフィギュア』は『概念』がひとつのテーマになっています。だから『未知との遭遇』という事態になったときは、まず接点から探さなければならない、というのがあるんだと思います。本当にファーストコンタクトが起きた時は僕らが考えているどれとも違う形になるはずで、だれも当てられないはずなんです。それぐらいいろんなパターンがあるはずで、だから逆に何を書いてもOKであるはずなわけです」

――そこがSFのジレンマでありますよね。確かに何を書いてもいいけど、あまりにとっぴなものを書くと誰にも理解してもらえない。

三島「確かにそれはそうですね」

――ちょっとそこに関連しますけど、三島さんの文体ってすごく特異ですよね。デビュー作の「ルナ」のころはむしろアウトローなキャラクター描写が特徴的だったのに、「シオンシステム」あたりからやたら回りくどい表現が増えてきて、キャラクターの描写がほとんどなされなくなってくる。これはなぜなんでしょう

三島「(笑)実は僕、具体的に目標にしている作家っていないんですよ。常に前作を超えることが目標になっていて。今はいかに斬新なアイデアを盛り込むかが第一で、結果として、その結果としてキャラクターがおざなりになっていることに最近気付いた(笑)」

――ただ、キャラクターを珍名ばかりにして説明しなくても区別しやすくするというのは面白いアイデアかと

三島「まあ、僕自身小説に出てくる登場人物って覚えきれないですからね。アニメなら見えてますからいくらでも増やせますが小説はそうはいかない。いや、そこはあまり突かなんといて(と苦笑いしながら四国の地図を取り出す)」

――あ、そうですね(笑)じゃあ香川を舞台にした理由をひとつ

三島「剣山にスーパー林道ってあるんですよ。たぶん日本で一番長い。五、六年前だったかな、単車で走りに行きました。ところがいろんなところが崩落してて。最後70キロあたりまで進んだところで崩落していて先に進めずすごすごと帰ってきたという(笑)んでこの後愛媛まわって、香川まわって帰ってきたんですが。もちろん金比羅山には行って。香川に行ったのはその時だけだったんだけど」

――実は香川に住んでいたことがあるので、そういう点でも燃えましたね、この作品は。作品中にも登場しますけど、琴平町の市内に入る直前の榎井の交差点、ゴチャゴチャと民家が建ってる狭い旧街道で、ここからダイナミックフィギュアがのっそり出てきたら絵になるだろうなあ、と

三島「あー僕、榎井の交差点は実は行ってないんです。だから書いててちょっと怖かった(笑)このへん田園じゃないんですか?」

――いや、このあたりは中二階の古い家がたくさん建ってますよ。そしてすぐその外側には田園が広がってて、基本的には平地。あちらこちらに小さな山やらため池やらがあり、そこをトコトコとオモチャみたいな琴平電鉄が走っていくという…これはもう特撮の原風景という感じで、よくこんなジオラマ的舞台を発見されたと思います

三島「日本でこういうところ探そうと思ってもなかなかないですよね。六甲山系と近いなと思ってそのあたりの山並みを思い浮かべながら書きました。SF大会で企画を組んでもらった時も、わざわざ四国から来ておられる方がいましたけど、そのあたりについての反応は皆無でしたねえ。高松も今はうどん県で盛り上がってるみたいだけど」

――意外と本文中でうどんの描写は少ないですよね

三島「ごめんなさい、ベタはイヤなんです(笑)そういう要請があって書くなら別ですけどね」

――じゃあなんで香川なの、ということになりますが

三島「これは他のところでもしゃべったかもしれないんですが、もともと上中下の三冊構成で考えていたもので。次巻では中国地方あたりに移動する予定でした。結果的にその要素はカットされたんだけど中国から朝鮮半島へと大陸に向けて伸びていく線として物語を構想した時に出発点はここに置かざるを得ないなと考えたわけです。でもあくまで二足歩行ロボットの話として勝負したかったので、うどんの力を借りるのはやめたと(笑)もちろん大阪や東京を舞台にしたほうが難易度は低くなりますけど、僕はこの作品に賭けてたので、あえて厳しい道を選んでしまいましたね」

――でもなぜ香川なのか、という選択には無意識的にせよきっと意味があるはずなんですよ。四国の中でも地味な香川、しかも高松じゃなくて善通寺・琴平という絶妙のハズし方をしているわけですから

三島「その『絶妙のハズし方』というのは結構重要ですね。リアリティを持ったハズし方というのがあるはずなんで、そのあたり神経は使いましたね。もちろん僕のセンスですから読者にとってどうかは分からないんですが、ネーミングとしてダイナミックとフィギュアという組み合わせの妙も僕は気に入ってます。本当に力をこめて書いたので、逆にこの後何を書けばいいのかというのは悩むところではありますが」

――「ルナ」は大阪を舞台にしていますが、その後は登場していませんね

三島「一度やったことはもうやらない、という主義なんです。だからこの作品の続編は書くかもしれませんが、別のロボットSFを自分から進んで書くということはないと思います。シリーズ化すれば楽なんでしょうが、同じところにとどまってしまうことになりますので」

――そうすると三島さんの前衛的ともいえる文体もその考え方の下にあるのでしょうか

三島「え、たとえばどういうところです?」

――そう言われるだろうと思って例を見つけてきたんですが、この下巻の214ページの章の末尾ですが…ごく普通にしゃべっているシーンにいきなり
「次の瞬間、頭上で屋根が弾けた。得体の知れない様々なものが降り注ぐその向こう側、夜空の星をさえぎるクラマの存在を見た。夢の中で見た」
って記述が飛び込んできますよね。これだけでは何が起きたのかまったく分からない。ミサイルが着弾したのだというのが分かるのは結構後になってからで。そもそも「夢」って何?と(笑)

三島「あー!(大笑)分かった、高槻さん、分かった!何か感動しました(笑)そうそう、それそれ。みんなが問題にしていることなんだ。SF Prologue Waveにエッセイ書いた時も片理誠さん(副編集長)に『三島さんの文章は飛躍が大きい』って言われたんですよ。中間部分がない、と。そこね、半分反省しているんです。東京の漫才師でナイツっているじゃないですか。僕、ああいう飛躍のない漫才って嫌いなんです。実は僕、笑いには結構うるさくて。笑いの真髄というのは飛躍だと思うんです。ボケとツッコミの間に飛躍があると、その飛躍の意味が分かった時にエクスタシーが上乗せされるんです。中間部分の飛躍を自分で解くのが大好きなんですね。それが文体に出ちゃうんですよ。この中間部分の飛躍をわかってほしい、わかった時のエクスタシーを感じてほしい、という感じでね。たぶん、そこを分からない、と言われてしまうんだと思う。これがね、三島浩司らしさなんだけど、分からないので面白くない、という評価につながるんだと思う。でもいつかわかってほしいという思いはありますよ。だってこの中間部分を全部埋めたとして面白いですかね?」

――それがファーストコンタクトのわけのわからなさを表現しているわけですもんね

三島「読者の大半は考えたくないんだな、というのは感じましたね。パラパラと読んで苦もなく理解できるものを求めているんだと。僕は逆に書き手の意図をそのまま読者が理解する必要はないと考えているんです。作品を通じてそのテーマについて考える機会を与えられたらいいと。それが伝わらなかったのだとしたら僕の至らなかった点なんですが」

――とはいえ意味不明に思える内容も後段で必ず説明されているので

三島「でも読者ってのはその場その場で問題は解決しておきたいものなんですよ。すごく不安になるから。そのあたり、思いやりがなかったなとは思います。そこは今後に生きてくるはずです。ただ、丁寧に説明し尽くした表現が本当に面白いのか、というのは悩ましいところなんですが」

――なるほど、だんだん見えてきました。そうすると円城塔さんについてはどう思われますか?

三島「うーん。飛躍が大きいのと構成が複雑なのは違うと思うんですね。これだけいろんな要素を絡めたストーリーを破綻なく書けるのは円城さんの才能だと思います。ただ、それは僕とは違う表現だと思います」

――そうすると最近の三島さんの作品がユーモアをあまり重視しない表現になりつつあるのは?

三島「あんまりしつこくやるとウザいんですよ。自分で自分の作品の悪いところに気付くのは時間がかかるものですよね。笑いの世界でもあまりにレベルが高すぎると、観客に理解されず評価が低くなってしまうことってあるし。さっきも言いましたナイツの漫才というのは一番理解できる層が多い。だから人気もあるんでしょうが、ならばそれが優れているのかというと必ずしもそうはいえないと思う」

――三島さんにはあまりSFファン的な感覚は感じませんよね

三島「作家仲間と話をしていると、自分が読んだ作品の自分なりの別バージョンをやってみたい、とかいう人が結構多いんです。僕はそういうのはやる気がしないんですよ。誰も足を踏み入れたことのない領域で勝負をかけたい」

――するとロボットが好きだからこういう作品を書いたというわけではないと

三島「ロボット文化が足踏みしているような気がしたんですよ。言ってみればエヴァから進んでいないなと。だから僕としては独自の要素を詰められるだけ詰めたつもりなのに、それでも何かに似てると言われてしまうのはちょっと残念です。読者というのはどうしても過去の作品を土台にイメージしながら読んでしまうということなのでしょうね。あまりに独創的すぎると読めなくなってしまう、でも取っ掛かりをつけると何かに似ているといわれてしまう。ジレンマですよ」

――読者に違和感を感じさせつつもいかにうまくリードしていくかということですね

三島「それは『ルナ』から変わらないテーマなんですが、デビュー当時はまだそれを実現させるための実弾がなかったんです。今はちょっとずつ力がついてきたんで、これからを見てほしいというところでしょうか」

――今回「シオンシステム」の完全版(ハヤカワ文庫SF)読ませていただきましたけど、格段に読みやすくなっていてびっくりしました。保険点数を巡る生々しい駆け引きとか、よりリアルに感じられるようになったし。

三島「保険点数って面白いですよね。そういったあたりをおろそかにしたらリアリティがなくなると思ったんで、かなり関連書に目を通しました。取材はしてないです。本だけ。法律の話って実は大事なんですよ。架空の世界の話を作るときに、まったく架空の世界を一から作るか、それとも既存の法を踏まえた上で描くのかを選択しなきゃならない。ある程度のリアリティを持たせるためには、既存の法を無視したらダメなんですよ」

――「ダイナミックフィギュア」の「五加一」も思えばそうでした。

三島「そこもう少し評価してほしいよね(大笑)メディア化するとしたらはしょられるところなんでしょうけど。SF大会で読者の声を聞いてみると、僕と読者の関心がかなり離れていることに気付いたんですよ。結構キャラクターに関する質問が多い。確かにおろそかになっていた部分ではあるけど。でも僕はロボット文化を一歩進めたかった。皆さんに『概念』を提示する作品にしたかったんです」

――いや、でもファーストコンタクト的なアイデアは非常に想像力を掻きたてられました。

三島「あまり意識していなかったからこそ、いい感じに過去の作品から離れたものになれたのではないかと思いますね。この作品というのは、樹で言えば幹と根っこにあたるもののつもりで書いたんです。最近のロボットものというのは大抵が枝葉でしかないと思うんですよ。今後も何をテーマにするにせよ幹と根っこを大切にしていこうと思います。幸い『それで行け』と激励してくださる方も何人かおられるので。ただ『会話を増やしてくれ』とは言われますね。今回の『シオンシステム』の完全版でもそういう風に手を入れています。骨格になるアイデアは絶対面白いはずだから、と早川さんからもお話をいただいたんです」

――三島さんは自分以外のSFってどのくらい読まれるんですか

三島「最新刊って実はあんまり読まないんです。じゃあ古典かというとそうではなくて、ちょっと時代遅れの少し前のものを(笑)書き始めるきっかけになったとき読んでいたのは椎名誠さんのSF三部作ですね。あれを読んで『こういうスタイルもあるんだ』と思いましたね」

――もともともSF志望でしたかそれとも小説全般で?

三島「うーん…(しばらく考え込んで)たぶん、社会の変化をシミュレーションするのが好きだったんです。それがたぶん僕の物語の作り方だったんですね。『シオンシステム』でいえばこういう医療技術ができれば社会にどんな変化を与えるだろうか、とかね。『ダイナミックフィギュア』でいえば本当に侵略者が現れたら社会はどうなる?とか。どうしても魔法では語りたくないんです。世界をひっくり返す出来事って必ず科学的な根拠があるはずなんです。そういう意味で科学から逃げられないってのもあるし」

――理系のご出身ですがあまりハードSF的ではないですよね

三島「人間が持つ本音を暴きたい、というのがあるんです。人間の行動原理は立派なようでいて実はそうじゃない。すべてのものを分解していくと本能的なものが出てくる、それはそう大したものじゃないんです。『シオンシステム』もそうですが、僕は時に人間を原生動物のように描いています。恋仲になった男女がベッドインしようとするシーンで、女が子宮を切除しているから妊娠できないと打ち明け男が萎えてしまう、という書き方をしました。これが校正さんに言わせれば『妊娠しないからラッキーなんじゃないのか』というんです。男女の軽薄な関係ではそうかもしれない。でもより根本的な本能的レベルではどうなんだろうか。人間としてのリアリティはどちらかと問われると意見が分かれるところだと思うんですが、僕はあえて本能の方を取りたいんです。人間の本音というのは、本能の方じゃないのかと。気付いていないけど実は…という部分を描きたい、そこがSFなんじゃないかと僕は思います。『ベストSF』の上位作家競作ということで2012年4月号の『SFマガジン』に『懸崖の好い人』という作品を書かせてもらいました。これは編集者さんに『SFじゃない』と文句を言われたんですが、押し切ってしまいました。SFとして読もうと思えば読めるはずなんですよ。SFとして読めばSFらしい要素が突出してくるはずですから」

――今後に向けての道筋の手ごたえにはなりましたか

三島「まあ日々模索です。常に前と違うものをと思って書き続けていれば、三島作品というのは何なんだということになってしまいますし。読者はどうしても答えをほしがる。それが悪いというわけではないんですが、僕がやろうとしていることとはぶつかってしまう。文章が弱いのは自分でも分かっているんで、アイデアで勝負するしかない。ネットで『理系の文章』って書かれたことがありまして。僕はほめ言葉と受け取っていますよ。だって僕、自分のこと体育会系って思ってますから(大笑)」

(2012年2月18日、大阪・千里中央にて)

三島浩司プロフィール
高槻真樹プロフィール


三島浩司既刊
『ダイナミックフィギュア〈上〉』
『ダイナミックフィギュア〈下〉』