(PDFバージョン:akannsuukyokusenn_misimakouji)
かつて友人に心ない指摘をしてしまったことがある。3人兄弟の名前を尋ねたのだが、その答えが「あつし(当人)」「たかし」「あいこ」だった。たとえ話なので実名からは変えてある。
3つの名前とも、50音の「ア段」が頭文字になっている。ボクはこの答えに対して「急いで名前を考えたな」などといってしまい、いまも後悔している。
作品の登場人物のネーミング作業のとき、みなさんはどうやっているのだろう。数多くの作品を発表してきた著者ならば1000人くらいの名付け親になっていそうなものだ。
日本人の行動原理として、「あいうえお」「かきくけ……」「さしす……」「た」「な」と思い浮かべてゆくものと想像される。そしてだいたいそのフィルターに引っかかって決定されてしまう可能性が高い。したがって「ア行」や「カ行」、「ア段」や「イ段」の名前を持った登場人物は多くなるはず。
50音表において上述のあたりを結ぶ線を「ア関数曲線」と呼ぶとして、だいたい6~7割、あるいはそれ以上がフィクション作品の登場人物名に該当するかもしれない。だからボクはいつもひねくれて、極力ア関数曲線の外側にある頭文字を使うようにしている。
その結果として読者からどのような印象を持たれるかといえば、「ヘンな名前」。
三島浩司既刊
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