「『折口裕一郎教授の怪異譚 佐賀 福岡 水底の声』作品紹介」市川大賀

SF Prologue Waveをお読みの皆さんお久しぶりです、市川大賀です。

実はこの度新作長編小説『折口裕一郎教授の怪異譚 佐賀 福岡 水底の声』を上梓出版いたしました。今回はその簡単な紹介をしたためた次第です。

この小説は僕の作品群の中では『折口裕一郎教授の怪異譚』シリーズ第二弾にあたります。
『折口裕一郎教授の怪異譚』シリーズとは、とある民俗学ゼミの教授、折口裕一郎が、おっちょこちょいだがサポート力の強い助手とゼミの女生徒との三人で、行く先々で怪奇な事件に遭遇し事件の傍観者になるという、よくあるハコ(タイトルも)のシリーズなのですが、折口君が他の諸先生方の作品の主人公たちとは違うのは、折口君は超能力も退魔術も使えず「徹頭徹尾謎を解いて傍観者に徹する」というのが特徴です。
第一作『折口裕一郎教授の怪異譚 葛城山 紀伊』をお読みくださった方々からはご好評をいただいたので、この度の続刊発行と相成りました。

先ほどのプロットをお読みになった方でピンときた方もいるかとは思いますが、このシリーズのキャラクター構造は往年のテレビ特撮ドラマ『ウルトラQ』(1966年)リスペクトで成り立っています。
今回の新作は、構想自体は10年以上前からありました。日本のエネルギー産業と戦後復興を支え続けてきた炭鉱とその成り立ち。傍目からは光り輝いた「戦後日本の繁栄」。その前期戦前戦時中から日本を支え続けてきた「燃料・石炭」は、どのような犠牲の果てで掘り起こされたものであったのか。そして「それ」を得るための犠牲はどう生まれどうその声は消し去られたのか。そしてその「声」を現代を生きる日本人に突き付けることはできないか。ずっと僕はそれを考えていました。
それには、ペンの力、すなわち「Speculative Fictionの力(SF=寓話)」しかないのではないかと思うようになりました。「僕たちが生きる現実」を表、「『日本書紀』『古事記』に書かれた記述」を「為政者が事故瀬投下のためのプロバガンダに書き換え続けた裏」ととらえ、その狭間で闇に葬られた「声なき声」を「第三界」として、毎回シリーズは続いていきます。

そして本作は、前作を読まれた読者皆様からの反応への反省を含めた構成をとっているつもりであります。曰く「クライマックスの盛り上がりが物足りない」「『古事記』『日本書紀』の読み取りばかりにウェイトを置きすぎる」などなど。あからさまな中傷やアンチ罵倒をノイズとすれば、他はどれもどれも頷けるご意見だったので、「ヒット作家」を目指している僕としては(笑)今回は前回よりも素直にエンタメに仕上げたつもりであります。
結果「市川大賀らしさが薄れた」「よくある既存の退魔物ジャンルになり下がった」等の「新たな苦言」を頂く覚悟は承知していますが、現実の日本国家が招いた惨劇と問題を、より多くの人達に共有してもらうためにはあえてステレオタイプの箱を用いることも一つの手段だと判断、今回の上梓に至ったというわけです。

本作はもちろん前作に続く『折口裕一郎教授の怪異譚』シリーズ第二弾であります。前刊で「葛城山」で「土蜘蛛」と、「紀伊新宮」で「地之龍」と遭遇して事件を解決に導いた折口君以下三人が、今度は「北九州」を舞台にして長らく民話伝承では「愛くるしい妖怪」とされてきた「河童」の抱く怨念と慚愧と相まみえるというのが今回のメインストーリーになります。
僕は初単著『スマホ・SNS時代の多事争論 令和日本のゆくえ』からも訴え続けているように、この国の発展・繁栄は、決してよくあるノスタルジィ漫画のような「日本のお父さんたちが頑張ってきたから」などというお花畑夢想で語り尽くせるものではないと思っています。
無謀で愚かな大東亜戦争含め、近代国家・日本を支えてきたのは、他ならない「大東亜共栄圏思想」に巻き込まれて植民地と奴隷化を余儀なくされた亜細亜諸国の犠牲の上に成り立った「繁栄」なのです。
「そこで圧殺されてきた声」が、この物語の主役なのです。
そこには深い悲しみと怨嗟の響きだけが残されています。今回の物語の主題は「恐怖の事件の謎を追え。怪奇な事件を暴け」でありました。
だからでしょう。前作からのレギュラーの三人は、先ほども書いたように『ウルトラQ』の主役トリオがモチーフですが、今回ゲストで登場する「民俗学者の的矢忠」も「警察庁刑事局広域捜査特別班警部に所属する牧史郎」も「久留米市の産業振興課課長、野村洋」も、その名前(特に牧は人物造形も)は同じ円谷プロが1968年に制作した特撮ドラマ『怪奇大作戦』から拝借しています。

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初出 FT新聞 No.4950 2026年8月14日金曜日