「サーヴァント・ガール2、第5章第4話」山口優(画・じゅりあ)

<登場人物紹介>

  • 織笠静弦(おりかさ・しづる):物理学を学ぶ大学院生。二年飛び級をして入学しているため二〇歳。ひょんなことから、平行世界からやってきた「機械奴隷」であるアリアの主人となり、平行世界と「機械奴隷」を巡る暗闘に巻き込まれていく。戦いを通じてアリアと主人と奴隷を超えた絆を結ぶ。
  • アリア・セルヴァ・カウサリウス:ローマ帝国が滅びず発展し続けた平行世界(インペリウム世界)からやってきた「機械奴隷」。アリウス氏族カウサリウス家の領地(宇宙コロニー)で製造されたためこの名となっている。余剰次元ブラックホール知性が本体だが、人間とのインターフェースとして通常時空に有機的な肉体を持つ。「弱い相互作用」を主体とした力を行使する。行使可能なエネルギー(=質量)のレベルは微惑星クラス。「道化」の役割を与えられて製造されており、主人をからかうことも多い。
  • 御津見絢(みつみ・けん):織笠静弦の友人。言語学専攻。静弦に想いを寄せているようだが、研究に没頭している静弦はそのことに気づいていない。おとなしい性格だが、客観的に静弦のことをよく見ている。いつしか静弦の戦いに巻き込まれていく。
  • 結柵章吾(ゆうき・しょうご):織笠静弦の大学の准教授。少壮で有能な物理学者。平行世界とそこからやってくる「機械奴隷」に対応する物理学者・政治家・軍による秘密の組織「マルチヴァース・ディフェンス・コミッティ(MDC)」の一員。静弦にアリアを差し出すよう要求し、拒否すれば靜弦を排除することもいとわない非情な一面も見せる。かつて静弦と深い仲であったことがある。
  • リヴィウス・セルヴス・ブロンテ:結柵に仕える「機械奴隷」。電磁相互作用を主体とした力を行使する。エネルギーは小惑星クラス。
  • ヴァレリア・セルヴァ・フォルティス:結柵に仕えていたが、後に絢に仕える「機械奴隷」。強い相互作用を主体とした力を行使する。エネルギーは小惑星クラス。
  • アレクサンドル(アレックス)・コロリョフ:結柵の研究仲間の教授。静弦が留学を目指す米国のMAPL(数理物理研究所)という研究機関に属している。
  • ユリア・セルヴァ・アグリッパ:主人不明の「機械奴隷」。重力相互作用を主体とした力を行使する。エネルギーは惑星クラス。
  • 雛森早苗(ひなもり・さなえ):結柵章吾のラボの職員。情報系の仕事をしている。
  • 亜鞠戸量波(あまりと・かずは):静弦の同級生。二二歳。「サーヴァント・ガール2」から登場。
  • ルクレツィア・パウルス:バンクーバーのAI学会で静弦らと出会った女性。台湾にあるスタートアップに勤務。「サーヴァント・ガール2」から登場。
  • 勅使ヶ原悠奈(てしがはら・ゆな):織笠静弦の大学の准教授。亜鞠戸量波の指導教員。インペリウム世界の謎に気づき始めている。「サーヴァント・ガール2」から登場。
  • ビアンカ・フィオーレ:グランサッソの実験施設に勤務する物理学者。「サーヴァント・ガール2」第五章から登場。
  • フラヴィア・セルヴァ・ヴェスパシア:ビアンカに仕える「機械奴隷」。電弱相互作用を操ることができるとされている。アリアたちより一〇〇年前の「旧い時代」に作られたという。エネルギーは微惑星クラス。「サーヴァント・ガール2」第五章から登場。

<「サーヴァント・ガール」のあらすじ>
 岐阜県の「上丘(ルビ:かみおか)鉱山」に所在するダークマター観測装置の当直をしていた大学院生の織笠静弦は、観測装置から人為的なものに見える奇妙な反応を受信した。それがダークマターを媒体としてメッセージを送信できる高度な文明の所産だとすれば、観測装置の変化を通じてこちらの反応を検知できるはずだと判断した彼女は「返信」を実行する。次の瞬間、目の前にアリアと名乗る少女が出現する。アリアは静弦が自分の主人になったと主張し、また、主人となった人間には原理的に反抗できないことも説明され、静弦は渋々アリアと主従の関係を結ぶ。
 しかし、現代文明を遙かに超える力を持つ機械奴隷を静弦が保有したことは、新たな争いの火種となった。実は、アリアと同種の機械奴隷はアリアよりも前からこの宇宙に流れ着いており、それを管理する秘密組織が存在していた。観測装置の実務責任者である結柵章吾もそのメンバーであり、彼は静弦がアリアを得たことを察知、自らの「機械奴隷」であるヴァレリア、リヴィウスを使って攻撃を仕掛け、アリアを手放すよう要求する。静弦は、自分を必死に守るアリアの姿を見て、アリアを手放さないと決意、辛くも結柵との戦いに勝利する。
 勝利後の会談で結柵にもアリアの保有を認められ、しばし穏やかな時が流れるが、静弦は自分が研究中の理論を、遙かに進んだ科学を知るアリアに否定されけんか別れする。その隙を突き、主人不明の「機械奴隷」ユリアに攻撃されるアリアと静弦。危機を察知した結柵がヴァレリアを、静弦の友人・御津見絢に仕えさせ、二人に救援に向かわせたこともあって、ユリアの撃退に成功する。戦いを通じ、静弦とアリアは主従を超えた絆を結ぶ。戦いの後、これ以上の攻撃を撃退する目的から、静弦とアリアは、絢・ヴァレリアとともに留学生寮に住むことになる。
<「サーヴァント・ガール2」これまでのあらすじ>
 静弦は留学生寮で新しく友人となった女子学生、亜鞠戸量波の部屋で彼女と一夜をともにする。アリアは静弦の行動にショックを受け、姿を消してしまう。アリアを追い、静弦は絢、ヴァレリアとともにアリアの目撃報告があったカナダ・バンクーバーに向い、そこで偶然出会った量波とも合流して、現地で開催されたAI学会に参加、アリアを見つけ出す。しかしアリアは、自らの存在をこの宇宙とは異なる余剰次元空間に逃避させる。静弦はヴァレリアとともにアリアを追うが、アリアは「自分は静弦様にはふさわしくない」と言い、姿を消す。静弦は絢の助言により心を決め、アリアの手がかりを求め、AI学会で出会い、アリアを見知っていると思われる女性、ルクレツィアの足取りを追って台湾に向かう。
 三人は、台湾で量波、そしてアリアとも出会う。しかしアリアは再び逃げてしまう。絢によって「セルヴァ・マキナの力を阻害し、アリアの失踪を手引きしていた犯人」と名指しされた量波とルクレツィアは、静弦・絢・ヴァレリアを巻き込んで瞬間移動を引き起こす。量波は自らが「行動派」と名乗り、他宇宙からの侵攻に備え積極的にインペリウム世界の技術を開発すべきだと説くが、静弦・絢は顕在化していない脅威に対し無用な混乱を招くとしてこれを拒否した。ドミナである量波のセルヴァ・マキナであるルクレツィアは、「他のセルヴァ・マキナを操る力」を行使しヴァレリアを操作、静弦・絢を葬り去ろうとする。そこに現れたアリアは、ヴァレリアに対抗し、静弦を助けるかに見えたが、ルクレツィアに操られていたため、作り出した余剰次元空間を作り出して静弦を閉じ込め、身動きを取れなくしてしまう。しかし、後にルクレツィアによる操作をはねのけ、逆にルクレツィアたちを攻撃、撃退する。
 その後、日本に戻ってきた静弦は、量波の指導教員、勅使ヶ原の呼び出しを受ける。勅使ヶ原は、行方不明となった量波について尋ねるが、同時に、静弦、量波、そして結柵が関わる何らかの秘密があることにも気づき、好奇心を持っていた。静弦は更に、MDC行動派だと自らの正体を明かしたアレックス・コロリョフにより、再度行動派に誘われる。彼は静弦が物理学者として、インペリウム世界の科学技術が存在するにもかかわらず、それを無いものとして研究することに虚無を感じないかと問いかけた。そして、行動派は既にインペリウム世界の技術を取り込み、研究を続けていて、セルヴァ・マキナの「質量を増大させる」ことすら可能としていると明かした。
 一方、量波は、ユリア・セルヴァ・アグリッパから、行動派の計画を明かされていた。その内容は、核戦争による現代の国際社会の崩壊と、MDC行動派による独裁体制の構築という、想像もできないようなものだった。
 MDC行動派がセルヴァ・マキナが扱える質量を増大されることを可能としたという情報を受け、結柵らMDC統制派はあるセルヴァ・マキナに危険が迫っていると懸念する。それは、フラヴィア・セルヴァ・ヴェスパシアであり、潜在的な能力は大きいが、微惑星級とエネルギーレベルは低いため、これまでは奪われても問題は無いと考えられてきた。
 彼女とそのドミナであるビアンカを護衛するため、静弦とアリアはイタリアに向かうことになった。イタリア・ラクイラにて、静弦はビアンカから、統制派から抜け、インペリウム世界の科学技術を自由に研究する一派を作ろうと勧誘を受ける。その頃、アリアはフラヴィアとともにラクイラ郊外をパトロールしていた。

第五章四話(通算二〇話)「襲撃」

「なるほど――セルヴァとドミナ、両方の説得を同時に行ってきたわけですか」
 ホテルの部屋に帰った後、静弦がアリアに事情を話すと、アリアも彼女がフラヴィアから聞いてきた話を教えてくれた。
(統制派内の弱者連合――といったところか……。微惑星級セルヴァが選択的に行動派に狙われる状況が続いている。それに、私はMDCメンバーになりたくてなったわけじゃない……。ビアンカ=フラヴィア組も同じような経緯でMDC統制派になったのだろうか? ビアンカは研究者だから『正規のルート』かも知れないけど)
 ホテルは、ゴブラン織の絨毯にやや汚れはみられたが、調度品は見事で、ソファ、ベッドの装飾にも趣があった。壁にはコロッセオの絵が掛けられており、それも廃墟ではなく往事の完成されたローマ建築の美が表現されていた。
 静弦はホットパンツにキャミソールというラフな格好でベッドに仰向けに、頭の後ろに手を組んで寝転がっており、一方のアリアは鏡の前で水着の試着をしていた。
「どうです? これ?」
 大胆な水着を着て、くるりとまわって自分の身体をみせびらかす。
 その水着は、下腹部と両胸の部分に複数の真珠があしらわれていて――というより、真珠とそれをアリアの美しい肢体にとどめておくための金製のチェーンしか構成要素がなかった。真珠によってのみ、彼女の見えてはいけない部分を隠している――という大胆なデザインで、下腹部は蝶、両胸のところは薔薇のような形に大小の真珠が並べられている。
 それはそれで綺麗なデザインではあったのだが――。
「ちょっと見えすぎじゃない?」
 静弦はちらりと見てから、顔を赤らめ、視線を背けるように、ごろりと体勢を変えた。
「あら? インペリウム世界とこちらでは常識が違いますのね。インペリウム世界では見えれば見えるほどいいんですのよ? もちろん、鍛えられた美しい肉体ならばね」
 目をそらした静弦の後頭部に追い打ちをかけるように、アリアが言う。
「じゃあいっそ裸で泳げば?」
「あら。いい考え。静弦様のご許可さえいただければ、もちろんそうしますとも」
「……冗談よ。やめなさい」
 背後に雰囲気があった。
「静弦様お望みの格好であなたのアリアは控えておりますよ? どういたします?」
「布団被ってなさい。風邪引くから」
「ひきませんのに」
 後ろでくすくす笑う声がする。
「――で、あなたの考えは?」
「それも、静弦様のお望みのままに――」
 声が冷静な雰囲気を帯びた。静弦の腰に両腕が回されてくる。背後に控えめな胸の感触がある。
「……とはいえ、あなたなりの考察があるんでしょう?」
「そうですわね。まず、勅使ヶ原准教授の『AIの考察結果として発表する』は巧いと思いましたわ。だってそうしたら成果はAIのものですし。ある意味で真実でもあります。しかも、彼女はそのAIの研究も『オープンソース開発』でやったと主張するとのこと。できるだけ自分の功績を薄めようとする姿勢には寧ろ好感が持てますわ」
「……そう」
 静弦も頷いた。
(――それを基盤とした研究を存分に自分の成果だと言い張るための布石だとも思うけどね)
 そう思いつつ。
「ただ、気になるのは、どうやってその活動を安全に行うか、ですわ。フラフィアのドミナらの言っていることは統制派を敵に回しますし、行動派が味方になってくれるとも限りません。今の統制派と行動派の対立の状態を継続したままこのような試みをすることにどれだけ意味があるのか……。行動派を倒した後でいいような気もしますわ?」
「もちろん、あたしも性急すぎだとは思うけどね。方向性としてはいいんじゃないかと思ってるけど」
 静弦は控えめにそう言ったが――。
 結柵に「アリアの知識を使うな」と命じられてからの静弦は、それを正しいことだと理性では認めつつも、これからの自分の人生の意味と価値をすべて否定されてしまったような、重苦しい感情を常に抱いていた。それがぱっと晴れたようにも感じたのだ。危ない橋だとは思いつつも。
「フラヴィアに依れば、もう準備は全部できてるようですし――あのお二人は同意してしまいましたから、あとは静弦様のご同意があれば――研究開発も一気に進むと言ってました。まあ統制派に対抗するには何らかの研究が必要とは、私も思いますわ」
「準備、ねえ」
 静弦は防水アームバンドに固定したスマートフォンを見つめた。防水アームバンドは、アリアと泳ぐために買った物だが、そこに収まったスマホには、あるアプリがインストールされていた。
 アプリの名は、『モバイル・クリュセオン』。
 つい一時間前にビアンカからメールで送られてきたものだ。公式のアプリストアの審査は得ていないが、公式アプリと同じようにスマホの中で動くソフトウェアである。
 あのときプールで意気投合したビアンカと勅使ヶ原が、それから一時間で作ったという。インペリウム世界の成果を組み込んだ研究開発をするためのアプリ――と、メールでは説明していた。勅使ヶ原のラボで作ったAI『クリュセオン』にインペリウム世界の物理理論まで学習させていて、その理論の応用をセルヴァ・マキナに実践させるためのものだという。
「これ……役に立つの?」
「私にとっては、『こういう方向で時空を制御せよ』というものにみえます。つまり、セルヴァを実験機器として使って研究者のアイデアを試すための装置……とでも言いますか」
「――なるほどね……」
(アリアとの意思疎通には便利か……)
「ま、静弦様にとっては、『亞里亞ちゃんが一番!』のほうがうれしいアプリでしょうけど!」
 アリアがふざけた調子で言う。
『亞里亞ちゃんが一番!』――それは、アリアと初めて出会った日の翌日の帰りの新幹線の中で、静弦が遊んでいることがアリアにばれ、茶化された美少女ゲームのタイトルだ。
「静弦様? 私はAIですから、全てのゲームキャラがライバルなのです……浮気はいけませんわよ? あのゲーム、まだスマホの中にもっていらっしゃいますのね? 美少女ゲームのキャラクターの方が私よりもあなた様のお気に召す部分があるのなら、どうぞいってくださいまし。静弦様のためなら、なんでもやりますわ?」
「……ない」
「あらら? 聞こえませんわ?」
 耳元でささやいてくる。ふっと息も吐きかける。
「ないって!」
「それはそれは……。では『花畑の真ん中のわたし~いろとりどりの花の蜜がぜんぶほしい~』のローゼリッテはどうですか? あるいは『悪役令嬢討伐戦記 ~倒した令嬢はみんなわたしのもの!~』のアーデルハイドと比べたらどうでしょうか?」
 静弦は背筋をびくんと震わせた。
「そ、そんなの知らないわよ! スマホに入れてないわよそんなゲーム!」
「ふふ……。知らないならなんで『スマホに入れてない』って具体的に言うんです? 普通は『それってゲームの名前なの?』とか聞きません?」
「あ……あう……」
「パソコンゲームだって、パソコン内部のCPUを流れる電子を観察すれば丸わかりですわ? 私を甘く見ないことですわね?」
「そ……そんなことまで……!」
 静弦は顔を真っ赤にする。
「静弦様……私は悲しいのです……どんな性格のゲームキャラだって、私は見事に演じてみせますわ? どうか私であそんでくださいまし……」
「わ……わるかったわよ……」
 静弦は殊勝な態度でいう。
「ならば――これからは私と一緒にゲームを楽しみましょう? 濡れ場になったら……そのときは私がお相手を務めますわ? 亞里亞でもローゼリッテでもアーデルハイドでもなく」
「や! やめなさい! ゲームで遊んでるとこ見られるぐらいなら、やらないほうがましよ!」
 静弦がアリアを見返す。
 真珠に彩られた美しい白い胸が目の前にある。
「ふふ……やっと私を見てくれましたわね? せっかくの旅行なのですから、まずは二人で楽しみましょうよ。任務は二の次でよいですわ?」
「……そういうわけには……いかないんだけど……」
 静弦は頬がほてるのを感じながら、視線はアリアの肢体から外すことができない。
 そのとき、腕につけたままのスマホが振動した。
 アプリ――『モバイル・クリュセオン』の更新の連絡だ。
 そこには開発者――勅使ヶ原のメッセージが添えられていた。
「『敵が電波妨害を仕掛けてきても、セルヴァ・マキナの力で通信が確保されるような仕様に変更した。これで戦闘にも耐えるものになるだろう』――ですか。なかなか有能なようですね、あの准教授は」
 アリアが静弦の手を取り、そのスマホ画面のメッセージを読んで、言う。
「これで戦闘でも大丈夫――というところですか」
 静弦を誘うような甘い表情が、わずかに引き締まる。
(実際、有効なツールにはなるだろう。アリアにできることをあらかじめ教えられているから、それに沿った指示は今まででもできるけれど、それでしのげるほどこれからの戦いが甘いわけがない……)
 静弦は思う。
(そうだとすれば、アリアの力そのものを増強させるような研究は必要だし、それをそのままアリアに実装できるのは便利か……)
 例えば、微惑星級以上のエネルギーレベルを操れるようになったら。
 静弦はユリアとの戦いで苦しんでいたアリアを思い出していた。それに、ルクレツィアとの戦いで操られながらも、最後には味方をしてくれたアリアを……。
(なんとか勝ったけど、アリアにはもっと楽な戦いをさせてやりたい……かわいそうだもの)
 静弦はアリアをひきよせ、その頭を彼女の胸に抱く。
「わお……ふわふわですね……この感触はなかなか……」
 アリアは茶化すように言い始めたが、静弦の表情が真摯であることに気づき、口をつぐむ。
「今までありがとうね……ごめんね……」
(もはや世界は元には戻れないないだろう……結柵先生はじめ、統制派もそのことは分かっているはずだ。私たちが考えるべきは、どうこの事態をソフトランディングさせるかということではないだろうか?)
 何より――。
(何より……あたしはもうアリアが傷つくのを見たくない……もっと楽に敵を撃退させてやりたい……)
 静弦がそう思ったまさにその時。
 ホテル全体が激しく振動した。