「ドライバー」川島怜子

「やっと買えた。ドライバー、最後の一パックだった」
 エリは買ったばかりの、ねじ回し用のドライバーを持って、走っていた。
 ドライバーのセットをなくしてしまった。近くのお店では売り切れており、遠くのお店でやっと買えた。
 お店の人が教えてくれた。最後の一個は女神からの贈り物だと、この辺りでは言われている。近くの川に女神がいるので、お礼を言ったほうがいいと。
「この川かしらね」
 エリは川のほとりにたった。川はゆるやかに流れており、水が美しい。
「女神さま、ありがとうございます!」
 エリは大声でお礼を言った。
 そのとき、髪の毛につけていた、蔓(つる)の紐飾りがおちた。
「あ、飾りが……」
 紐飾りは川の流れに巻き込まれ、あっという間に沈んでいった。
 途端、川の中から女性が現れた。全身がきらきらと輝いており、とても神々しい。
「私はこの川の女神よ、うふふふ」
 笑顔で愛想がいい。
「あなたが落としたのは、この金の紐飾りかしら? うふふふ」
 金色の紐飾りを見せられた。
 エリは首を振った。
「いいえ、違います」
 女神は微笑んだ。
「じゃあ、この銀の紐飾りかしら? うふふふ」
 銀色の紐飾りを見せられた。
 さきほどと同じくエリは首を振った。
「いいえ、これも違います」
 女神は再度微笑んだ。
「だったら、この普通の紐飾りかしらね? うふふふ」
 エリは頷いた。
「はい、それです」
 女神は満面の笑みで拍手をした。
「正直者! あなたは、なんて正直なんでしょう! はい、これ。金の紐飾りと、銀の紐飾りと、普通の紐飾り。三つともあげましょう!」
 紐飾りを三つ渡された。
「ありがとうございます」
 エリがお礼を言うと、女神はもう一度エリに笑いかけ、そして消えた。
「紐飾り、いっぱいもらっちゃった……」
 エリはどうしていいか分からず、とりあえずカバンに入れた。
「さて、急いで帰らないと」
 エリは帰ろうとした。
 そのとき、水辺の石で足を滑らせ、エリはこけそうになった。そのはずみで、カバンからドライバーが川におちてしまった。
「あっ……!」
 ちゃぽんと音がした。ドライバーは沈み、見えなくなった。
「嘘でしょう……」
 エリはへたりこんだ。
 そのとき、再度女神が川の中から現れた。
「あら、またあなたなの? うっかりしてるのね。うふふふ」
 微笑みながら、金のドライバーを見せてきた。
「あなたが落としたのは、この金のドライバーかしら? うふふふ」
「いいえ、違います」
 エリは首を横にふった。
「では、この銀のドライバーかしら? うふふふ」
「いいえ、違います。三本セットの普通のドライバーです」
 銀のドライバーを見せられ、エリは正直に答えた。
「まあ! やっぱり正直! あなたが落としたのはこれね。うふふふ」
 ドライバー三本を見せられた。プラスのドライバーが二本と、マイナスのドライバーが一本だ。
「それです、それです!」
 女神は微笑んだ。
「ねえねえ、このドライバーを見て。一つは+(プラス)、それって『足す』の形よね。もう一つは-(マイナス)、それって『引く』の形よね。うふふふ」
 エリは頷いた。
 女神は残り一本のプラスドライバーをななめにして見せた。
「そしたら、これって×(かける)の形じゃない? だから、この三つで足し算、引き算、かけ算の記号になるわよね。うふふふ」
 女神に言われて、エリは頷いた。
「さっきも正直、今も正直。あなたってすごいわね」
 女神は四つ目のドライバーをどこかからだし、エリに渡した。
「あなたにはこれをあげるわ。特別よ。うふふふ」
 受け取ったエリが見ると、ドライバーの先端は「÷」の形をしていた。
 エリは驚いた。
「このドライバー、なんですか!?」
「えっとね、これは、わり算のドライバー! 珍しいでしょう? あなたはとても正直者だから、これをあげるわ。うふふふ」
 女神は笑顔で告げると、エリの三本のドライバーを持ったまま姿を消した。
 残されたエリは呆然とした。
「さっき買った三本のドライバーがなくなった……」
 エリは呟いた。それから、川に向かって呼びかけた。
「私は、普通のドライバーがほしいんです! なんで、こんな謎のドライバー!?」
 エリは大声をあげた。
「女神さまーー!! ドライバー三本返してくださいーー!!」